3 / 120
第一話 The Black Ones (2)
しおりを挟む◆◆◆
「アイちゃん、遅いよー! はやくはやく!」
友達はわたし達よりも先に来ていた。
待ち合わせ場所である駅の前で大きく手を振っている。
わたし達は慌てて駆け寄り、お母さんが頭を下げた。
「すみません。お待たせしてしまったようで」
これに、お友達のお母さんも同じように頭を下げて口を開いた。
「いえ、こちらが待ち合わせ時間より早く来たせいですから気になさらないで……この子があまりに急かすものですから、私も気が焦っちゃって」
こんなやり取りをしてる最中でも、友達は「はやくいこーよー」な感じを出している。たぶんわたしも出しまくってる。
でもいくらわたし達がその気を出していても、列車が来る時間がはやくなるわけじゃない。
だからお母さんは落ち着いたいつもの調子で口を開いた。
「列車が来るまで少し時間がありますし……そこらの露店でものぞいてみますか?」
駅の周りにはたくさんの露店が並んでいる。
店の種類はいろいろ。食べ物を売ってる店が多いけど、アクセサリーとかを売ってる店もある。
そしてその品ぞろえの中に、わたしが大好きな定番のものがある。
わたしはそれをすぐに声に出した。
「わたしフランクフルトが食べたい!」
またそれ? と言いたげな表情をお姉ちゃんが見せたが、わたしはまったく気にならなかった。
「わたしも! あ、クレープもほしい!」
わたしの声に友達が続き、友達は露店へと走っていった。
その背を追いかけるようにわたしも思わず走り出した。
◆◆◆
――タタンタタン、タタンタタン
(ん~、このクレープもおいしい~♪)
列車のやわらかな座席の上で心地よい振動をお尻に感じながら、露店で買ったクレープをわたしは満喫した。
フランクフルトは無い。乗る前に食べちゃった。
すでにわたしは幸せの中にいたが、さらなる幸せの訪れを告げる声が響いた。
「アイちゃん! 見てアレ! スゴイ!」
窓の外を指差す友達が示す方へ視線を向けると、そこには本当にスゴイものがあった。
クラゲが空を飛んでいる。
わたしの家よりも大きい。
そして全身が七色にキラキラと光っている。キレイすぎる! スゴすぎる!
だけど、お母さんとお姉ちゃんはもう見慣れているらしく、特に興奮することも無くお母さんが口を開いた。
「宣伝用の大型精霊ね」
宣伝? 何の宣伝?
「そっかあ、もうすぐだったね」
続けてお姉ちゃんがそう言ったけど、わたしとお友達の頭の上には「?」が浮かんでる。なにがもうすぐなの?
その「?」を感じ取ったお母さんが口を開いた。
「あれはキレイなだけじゃなくて、感知能力がある人に向けて宣伝を流してるのよ」
その言葉に、わたし達の頭の上に浮かんでいる「?」はますます大きくなった。
そんな宣伝なんてぜんぜん聞こえないからだ。
だから今度はお姉ちゃんが口を開いた。
「二人はまだ子供だからしょうがないよ。私達の頭の中には特定の波を受信できる器官があるんだけど――ああ、ごめんね。こんな難しい言い方じゃわかんないよね。ええと、つまり……娯楽小説に出てくるエスパーの才能がみんなにあるってこと!」
この説明に、お友達はちょっとくやしそうに声を響かせた。
「みんなに才能があるの? んー? でもわたしはあのクラゲさんがなにを言ってるのかぜんぜんわかんないんだけど……」
その言葉に、お姉ちゃんは、
「体の発育と共に成長する機能だからね。だから二人も大きくなったらきっと聞こえるようになるから! それまではガマン!」
お姉ちゃんはそう言ったけど、わたしはまだチャレンジを続けていた。
まだよくわかってないけど、耳をすましても意味は無いってことはわかった。
だからわたしは頭の中にもう一つの耳を作るような感覚で、意識を集中させてみた。
すると、言葉が脳裏に浮かんだ。
わたしは自然と、その言葉を口ずさんでいた。
「んー……夏祭り? 来週?」
それは正解だったらしく、お姉ちゃんは「ぱあっ」と笑みを浮かべながらわたしを抱き締め、頭をナデナデしながら声を上げた。
「そう! その通りよ! さすが私のアイリス!」
ほめてくれるのは嬉しいけど、さすがに友達の前でこれはちょっと。
だから、
「お姉ちゃん、はずかしいよお……」
わたしは抵抗しようとしたが、それは弱々しく、はずかしいという気持ちを伝えるだけに終わった。
そんなむずがゆいはずかしめを受けるわたしを見て友達は、
「いいなあ……アイちゃんずるい」
クラゲさんの声が聞こえたことに対してなのか、お姉ちゃんからはずかしめを受けていることに対してなのか、どちらかわからない言葉を漏らした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる