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29.エピローグ
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「うぅー……」
「おかえりなさい。どうしたの?」
ジルに連れられて別室で説明を受けたコルフェが、書類の束を両手に抱えて帰ってきた。
部屋に入るまでは意気揚々でいたのに、戻ってきたら何やらがっかりしてしょぼくれている。
どうしたのかと思えば、
「……制服、まだもらえないんだって」
「制服?」
とぼとぼ歩いて私のもとへ。コルフェのほうからむくれて理由を言ってきた。
ははぁ。どうやらジルに呼ばれたからすぐ騎士になれると思っていたらしく。
ジルたちと同じ制服ではなくて、課題の書類や教会のことを知るための資料を山盛り渡されたことが不満らしい。
いくら天才的な魔法の素質があるとはいえ、今すぐはいどうぞで騎士になれるってわけじゃない。それはそう。飛び級制度があったとしても、教会騎士では十五歳が最年少。その最年少も未来のコルフェのことではあるんだけど。
今はまだまだ。ほっそり八歳の彼サイズの制服は用意できないだろうし、ジルにもその気はないだろう。
騎士を志す子供たちはみんな、十三歳までは真面目に勉強をして、稽古に励んで、教会でのお祈りも覚えて。それでようやく見習いになるんだもの。
簡単にいかない現実を知ったけれども受け入れがたい。解せぬぞ。って顔してるけど、仕方ないのよね。
今のコルフェは世の中のことを知らなすぎるし、ジルもコルフェの実力やこれからの成長ぶりをまだまだ全然知らないわけだし。
彼の剣の師匠になるなんて予想もしてない。せいぜい見込みがある少年くらいにしか思われてないんだろう。
だから、私がコルフェにまだ知らないこの世界のことを教えてあげながら、ジルや他の騎士と彼との架け橋になっていかなくちゃ。
彼を立派な教会騎士筆頭に育てるのは誰でもない。私なんだ。
ふてくされ気味のコルフェとお庭へ出た。
大聖堂のお庭は手入れが行き届いていてすごく綺麗。さすがは国で支援して管理している、国の名所ってかんじ。
お弁当を広げている家族が遠くに見える。
「綺麗なところだね。ここでコルフェもこれから騎士になるための勉強をするのかぁ」
「そう……ですね」
まるで公園みたいだ。リアルの都民公園よりはずっと綺麗で非現実的ではあるけど。みんなの憩いの場所。
落ち着いたら私もコルフェを連れて遊びに来たいな。遊びでなくても、これからまたたくさん通うことになりそうだけど。
気持ちを盛り上げようとしたんだけど、まだコルフェはテンションが下がったまんま。
立派なバラ園が全望できるベンチに二人で座る。
赤だけじゃなくて青も黄色も。当たり前のようにカラフルで色とりどり。
咲いている花たちを眺めていると、書類とにらめっこしていたコルフェがふと口を開いた。
「メイカさん。僕……」
「なあに?」
「その……僕が、大人になるまで待っていてくれますか? 絶対に強い騎士になって、メイカさんを何百回もだっこして、たくさんたくさんお返しするので……」
きっと数日前に彼を連れ出した夜の、お姫様抱っこ返しのことを言っている。
結婚式でぐるんぐるん振り回して欲しいって思ってたこと、コルフェは覚えてくれていたみたい。
ものすごく真面目な眼差しをして言われると、正直すごく恥ずかしい。
小さな推しに会えただけで気持ちが高ぶっていたから、私自身なにを喋ったかもう覚えてないよ。
(あ、あれ……? なんだろう。なんだかすごく……)
でも、嬉しいな。なんだか冗談にならないくらい気持ちが上がるというか、ドキドキしてしまう。
私が心拍数を気にしている隣で、コルフェ自身も真っ赤な顔をしていた。
これってもしかして、プロポーズのつもりなのかな。
──っていうか。これ、プロポーズだよね?!!!
「うん。もちろん。お返ししてもらうの、楽しみに待ってるからね」
「本当ですか?!」
落ち込んでいたのにもう笑っている。
私の返事に「えへへ」と照れ笑うコルフェ。
彼と向き合って顔を見合わせると、真っ赤な頬の小さな推しはキスをねだるように私へと顔を近付けてきて。
「メイカさんが大好きです。これからもずっと、一緒にいてください」
本来だったらゲームの主人公に言われるはずであろう、彼からの好感度マックスな台詞が私に向かって告げられた。
そして、唇が軽く触れあうキスをする。
いたずらっぽく笑い合いながら。幸せな気持ちで。
それから急に恥ずかしくなって、書類を落としてしまって。二人で慌てて拾って。ふたりで。
(私も、あなたがずうっと一番の推しよ。コルフェ)
コルフェがもしこの先大人になって、ゲームの主人公と出会うことがあっても。私は彼を守りたい。
この先も彼の一番でいたい。
推しのトラウマメイカーだった私は今、自分が改変してしまったルートに向き合って推しと暮らしている。
こうなったら最後まで。
責任もって彼を最高の推しに育てていかなくっちゃね!
fin
「おかえりなさい。どうしたの?」
ジルに連れられて別室で説明を受けたコルフェが、書類の束を両手に抱えて帰ってきた。
部屋に入るまでは意気揚々でいたのに、戻ってきたら何やらがっかりしてしょぼくれている。
どうしたのかと思えば、
「……制服、まだもらえないんだって」
「制服?」
とぼとぼ歩いて私のもとへ。コルフェのほうからむくれて理由を言ってきた。
ははぁ。どうやらジルに呼ばれたからすぐ騎士になれると思っていたらしく。
ジルたちと同じ制服ではなくて、課題の書類や教会のことを知るための資料を山盛り渡されたことが不満らしい。
いくら天才的な魔法の素質があるとはいえ、今すぐはいどうぞで騎士になれるってわけじゃない。それはそう。飛び級制度があったとしても、教会騎士では十五歳が最年少。その最年少も未来のコルフェのことではあるんだけど。
今はまだまだ。ほっそり八歳の彼サイズの制服は用意できないだろうし、ジルにもその気はないだろう。
騎士を志す子供たちはみんな、十三歳までは真面目に勉強をして、稽古に励んで、教会でのお祈りも覚えて。それでようやく見習いになるんだもの。
簡単にいかない現実を知ったけれども受け入れがたい。解せぬぞ。って顔してるけど、仕方ないのよね。
今のコルフェは世の中のことを知らなすぎるし、ジルもコルフェの実力やこれからの成長ぶりをまだまだ全然知らないわけだし。
彼の剣の師匠になるなんて予想もしてない。せいぜい見込みがある少年くらいにしか思われてないんだろう。
だから、私がコルフェにまだ知らないこの世界のことを教えてあげながら、ジルや他の騎士と彼との架け橋になっていかなくちゃ。
彼を立派な教会騎士筆頭に育てるのは誰でもない。私なんだ。
ふてくされ気味のコルフェとお庭へ出た。
大聖堂のお庭は手入れが行き届いていてすごく綺麗。さすがは国で支援して管理している、国の名所ってかんじ。
お弁当を広げている家族が遠くに見える。
「綺麗なところだね。ここでコルフェもこれから騎士になるための勉強をするのかぁ」
「そう……ですね」
まるで公園みたいだ。リアルの都民公園よりはずっと綺麗で非現実的ではあるけど。みんなの憩いの場所。
落ち着いたら私もコルフェを連れて遊びに来たいな。遊びでなくても、これからまたたくさん通うことになりそうだけど。
気持ちを盛り上げようとしたんだけど、まだコルフェはテンションが下がったまんま。
立派なバラ園が全望できるベンチに二人で座る。
赤だけじゃなくて青も黄色も。当たり前のようにカラフルで色とりどり。
咲いている花たちを眺めていると、書類とにらめっこしていたコルフェがふと口を開いた。
「メイカさん。僕……」
「なあに?」
「その……僕が、大人になるまで待っていてくれますか? 絶対に強い騎士になって、メイカさんを何百回もだっこして、たくさんたくさんお返しするので……」
きっと数日前に彼を連れ出した夜の、お姫様抱っこ返しのことを言っている。
結婚式でぐるんぐるん振り回して欲しいって思ってたこと、コルフェは覚えてくれていたみたい。
ものすごく真面目な眼差しをして言われると、正直すごく恥ずかしい。
小さな推しに会えただけで気持ちが高ぶっていたから、私自身なにを喋ったかもう覚えてないよ。
(あ、あれ……? なんだろう。なんだかすごく……)
でも、嬉しいな。なんだか冗談にならないくらい気持ちが上がるというか、ドキドキしてしまう。
私が心拍数を気にしている隣で、コルフェ自身も真っ赤な顔をしていた。
これってもしかして、プロポーズのつもりなのかな。
──っていうか。これ、プロポーズだよね?!!!
「うん。もちろん。お返ししてもらうの、楽しみに待ってるからね」
「本当ですか?!」
落ち込んでいたのにもう笑っている。
私の返事に「えへへ」と照れ笑うコルフェ。
彼と向き合って顔を見合わせると、真っ赤な頬の小さな推しはキスをねだるように私へと顔を近付けてきて。
「メイカさんが大好きです。これからもずっと、一緒にいてください」
本来だったらゲームの主人公に言われるはずであろう、彼からの好感度マックスな台詞が私に向かって告げられた。
そして、唇が軽く触れあうキスをする。
いたずらっぽく笑い合いながら。幸せな気持ちで。
それから急に恥ずかしくなって、書類を落としてしまって。二人で慌てて拾って。ふたりで。
(私も、あなたがずうっと一番の推しよ。コルフェ)
コルフェがもしこの先大人になって、ゲームの主人公と出会うことがあっても。私は彼を守りたい。
この先も彼の一番でいたい。
推しのトラウマメイカーだった私は今、自分が改変してしまったルートに向き合って推しと暮らしている。
こうなったら最後まで。
責任もって彼を最高の推しに育てていかなくっちゃね!
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