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28.危険がきても大丈夫
しおりを挟むそれからの展開はちょっと目まぐるしくて。あっという間の数日間だった。
色々とあるけれど、順番に。
まずは第一にメイカの家のこと。
ジルにさようならまた会いましょうをしてから、執事さんが操る馬車で揺られること一時間とちょっと。
到着したのは王様のお膝元。国の中心、大王都だった。
例のロビンソンら王子兄弟も住んでいるドでかいお城が、岩壁を背にしてドーンと建っている。
村とは雰囲気が違いすぎてそれだけでもびっくり。
だったんだけど、そんなお城を背景にして栄えている城下町の、一角にある高級住宅街。そこにメイカの家があった。
とにかく敷地も広くて立派なお屋敷が待っていたのにまた驚かされた。
メイカさん、モブの端役令嬢のくせにちょっと……いや、かなり立派なご邸宅をお持ちだった。
お庭にプールと植物園がついているし、使用人もミシュレットさんと執事さんの他にまだ十人くらいいて。
なんとなく予想はしていたものの私でも驚きの連続。
村出身のコルフェにはもっと衝撃的だったみたい。目に映る全部が新鮮で、興味津々って感じ。
メイカの両親も最初は顔の部分がぼやけて見えないモブだったけど、面白いことに部屋の中で名前が書かれた書類を見つけたら、名前と顔が設定された。
どうやら、手掛かりを探していくと情報が更新されるみたい。
相手を知れば認識できるようになる仕組み。馴れてくると、そういうゲームらしいところも楽しめるようになった。
そんな両親にもあっさり受け入れられ、私の子供のような扱いになったコルフェ。
礼儀もわきまえてるし、優しい両親も彼をかわいがってくれそうだったけど、コルフェは孫扱いには不納得。
メイカ母におばあさまを自称されると、お義母さまにいつも言い直してる。
それでもコルフェは自分の立場を理解しているから、敷地内では遠慮しているほう。
両親の前では借りてきた猫みたいにおとなしくてお利口になっていた。
猫じゃなくてさらってきたヒトだから、私と二人きりのときは少しやんちゃで本性出てたけど。
未来のコルフェの片鱗がちらちら見えているとしたら、私に心を開いてくれてるってことだし。これはこれで。
実家に住んで数日後。
事件のあとの宣言通りジルが私たちを迎えにきて、騎士団の本拠地である大教会まで出掛けることになった。
多くの騎士が本拠地にしている王都の、ど真ん中にあるシンボル。
大聖堂は観光スポットでもあるらしくて、たくさんの人で賑わっていた。
大聖堂は、この世界で最も安全な場所。たくさんの騎士が駐在しているし、国の政治(まつり)もここで行われている。
教会は国王とも深い繋がりを持っているので、ロビンソンら王子兄弟も遊びに来たりお祈りに来たりする。
その辺りはゲームの中でもロビンソンに会うために主人公が訪れているし、設定のままということだった。
主人公といえば一件、気になったことがある。
それは再会したジルが指輪をはめていたこと。あの場では鎧で見えなかったんだけど、軽装になったら見えた。
左手の薬指……ジルは婚約指輪をしていた。
ジルは既に結婚していた。と、いうことはルート通りの出世に加えて主人公ヒロインともくっついている。ってことなのかな。
確かめる方法は今のところないけど。
人生うまくいってそうなジルを見るに、この世界には≪シュテルフスタイン≫初代無印の主人公がいて、ジルを攻略済みの可能性がある。
そのことは彼に静かな対抗心を燃やしていたコルフェをホッとさせていた。
んだけども、私としては心配事のカウントが一つ増えちゃった。
ゲームの≪女性主人公(ヒロイン)≫という存在があるからには、これから先、コルフェを攻略対象として見てくる女の子が現れるってこと。
それは何年も先のことかもしれないし、今聖堂を歩いているだけでもフラグが立ち始めているのかもしれない。
「どうしたの? メイカさん。きょろきょろして。何か気になるんですか?」
「いやぁ。綺麗な建物だなぁってつい見とれちゃって。ジルが待ってるわね。行きましょう」
つい周りを警戒して気を張りすぎちゃった。
情報がなくてぼやけた顔のモブだらけじゃ、誰が主人公だなんてまだわかんないや。
でも、万が一主人公がやって来たとしても。
あらゆる角度からコルフェという推しを攻略してきた私にぬかりはない。
どんな手段でコルフェを落とそうとしてきたとしても、全部予想通りだろうし。
私にはそれに対抗できるだけの膨大な前世の記憶があるからね。
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