推しのトラウマメイカーを全力で回避したら未来が変わってしまったので、責任もって彼を育てハッピーエンドを目指します!

海老飛りいと

文字の大きさ
上 下
23 / 29

23.魔物がでる世界

しおりを挟む
 不格好な、崩れた体を無理矢理起こして引きずるような歩き方。
 きっと足の骨が折れちゃってるんだ。血の気が引いた青い顔。今にも倒れそう。普通じゃなくてものすごく不気味。
 昨晩、話をした神父と同一人物には見えないくらいにヘン。

「神父殿! この村の神父殿ですね。いかがなされたのですか、その怪我は一体……」

「うぅ……貴方は、教会騎士……の! 助けに来てくれたのですね……」

 まるで何かに襲われて逃げてきたみたい。神父は肩で息をしていた。
 酷く疲れきった様子で呻(うめ)きながらうなだれる。
 すぐに駆け寄り、怪我をした彼を助けようとジルが屈み込んで手を貸すのだが。

「────ぐっ?! 何……っ!!」

「グガアァッ!」

 神父の首に……獣に噛まれた傷痕(あと)がある!

「ジル!」

 私が気付いた時にはもう遅かった。
 差し伸べられていたジルの手を振り払い、神父は化け物に変貌し彼に飛び掛かる。
 間一髪のところで身をかわし、ジルは鋭い爪を受け流す。

「くそっ!」

 ビシッ。と、鎧に三本の爪痕がつけられた。顔や首にまともにくらっていれば大惨事になっていたかも。
 すぐに反応できたのは流石ジルといったところ。
 がっちりマッスルに鍛えられているだけある。頼りになる身のこなしだ。

 予想していなかった、とんでもない場面展開。
 ゲームの中ではおきえなかったサブストーリーが突如開幕してしまった。
 目の前で起きている大事件を解説している余裕はない。実況はしようと思えばできないこともないけれど。

「し、神父さま……?!」

 驚嘆して後ずさりするコルフェ。
 彼と私の正面にはジルと取っ組み合いをしている神父。
 正確にはもう神父の面影(おもかげ)はない。バキバキと骨格をでたらめに変形させ、人間の姿から異形になる神父だったもの。

「これは! 人狼(ヴルフ)の呪いか……!!」

「人狼(ヴルフ)……って、まさか人狼(じんろう)?!」

 ──ヒトに化け夜の森を往来する人狼(ヴルフ)は、ヒトからヒトに呪いを振り撒いて混乱を招く災厄だ。
 やつらは特に信心深い聖職者を狙う。
 いくら祈りを捧げても獣になってしまった己を元の姿に戻さない、己を救えなかった、見捨てた神への復讐として祈る者らをターゲットにするのだ。

 ……という、魔物の図鑑情報。公式ファンブックの後半、モノクロページのデータベースより。
 我ながらよく覚えてたわ。そんな魔物の設定なんて。

 ≪シュテルフスタイン≫シリーズは剣と魔法の西洋風ファンタジーが舞台。
 古典的なファンタジーに登場するようなモンスターの概念も当たり前のように存在する。
 村の中が安全だったからすっかり平和ボケをしてた。
 村から一歩出ればこういった化物に遭遇する可能性がないわけじゃなかったのに。忘れてた。
 
 人狼は魔物(モンスター)の中でも昔話や伝承みたいな設定わ持っているわりにポピュラーで、中級クラスの魔物に属していたはず。
 ざっくりいって簡単に倒せるスライムとかよりは全然強い。戦士複数人で挑むドラゴンよりは、単身で戦えるくらいには弱い。
 人間に噛み付いて傷痕をつけた相手を同族にする特殊能力が厄介で、戦う術を持たない村人は餌食になる。それなりに危険な敵である。

 ジルが「呪い」と口にしたのも、神父がこの能力で人狼に変えられてしまっている事実をさして言ったこと。
 彼は国の人々を守護する教会の代表者。各地を巡行して世の平和を守る教会騎士だ。
 こういった修羅場を幾度も踏んで越えてきてるんだろう。私たちよりずっと冷静だった。

 



 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜

みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは前世で読んだラノベの世界で、自分が悪役令嬢だったとか、それこそラノベの中だけだと思っていた。 だけど、どう見ても私の容姿は乙女ゲーム『愛の歌を聴かせて』のラノベ版に出てくる悪役令嬢・・・もとい王太子の婚約者のアナスタシア・アデラインだ。 ええーっ。テンション下がるぅ。 私の推しって王太子じゃないんだよね。 同じ悪役令嬢なら、推しの婚約者になりたいんだけど。 これは、推しを愛でるためなら、家族も王族も攻略対象もヒロインも全部巻き込んで、好き勝手に生きる自称悪役令嬢のお話。

乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる
恋愛
 私は今日、暗殺される――。  攻略が難しく肝心なところでセーブのできない乙女ゲーム『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。ヒロインの王女カトリーナに転生しちゃった加藤莉奈(かとうりな)は、メインキャラの攻略対象よりもサブキャラ(脇役)の暗殺者が大好きなオタクだった。 「クロムしゃまあああ、しゅきいいいい♡」  命を狙われているものの、回避の方法を知っているから大丈夫。それより推しを笑顔にしたい!  そして運命の夜、推しがナイフをもって現れた。   「かま~~~ん♡」 「…………は?」    推しが好きすぎる王女の、猪突猛進ラブコメディ☆ ※『私の推しは暗殺者。』を、読みやすく書き直しました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役公爵令嬢に転生した話

ルイ
恋愛
悪役公爵令嬢に転生した話』 あらすじ 乙女ゲーム『さまぁ・エターナル・ラブ』の悪役令嬢、レティシア・ヴェルネ公爵令嬢に転生した主人公。 婚約者である王太子アレクシスからの婚約破棄は、ゲーム通りの展開だった。 しかし――彼女は泣き叫ぶどころか、あっさりと婚約破棄を受け入れ、新たな人生を歩むことを決意する。 「王太子妃の座にしがみつくなんて、そんなの私の性に合わないわ」 ところが、婚約破棄後のレティシアには思わぬ波乱が待ち受けていた。 彼女の本当の価値に気づいた隣国の王、最強の騎士団長、謎多き公爵など、次々と魅力的な男性たちが現れ、彼女を求め始める。 一方、エミリアと結ばれたアレクシスは、次第に「レティシアを失ったことの重大さ」に気づいていくが――時すでに遅し。 自由を手にした悪役令嬢の未来は、ゲームの筋書きには存在しない。 これは、婚約破棄を機に本当の幸せを掴む悪役令嬢の物語。 「私の人生、これからが本番よ!」

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

処理中です...