上 下
22 / 29

22.ここは合わせてご挨拶

しおりを挟む
 (コルフェを将来、立派な教会騎士にするために。今! ここで! ジルと接触させるしかない!)

 コルフェを連れて馬車から飛び出す。

「ジルーー!」

「……っ?! ……ご、ごきげんよう。ご婦人」

 かけるべき挨拶を省いてつい名前を呼んでしまった。
 ジルは驚いてとっさに身構えたけれど、馬車から出てきたのがわたしたち……女性と子供だとわかってすぐに構えをといた。

「失礼した。ご婦人とは以前何処かでお会いしましたでしょうか?」

 頭を下げて挨拶してくれたけど、急に名を叫ばれたことで困惑してるみたい。
 私も気持ちが高揚しちゃって、危ういファーストコンタクトになりかけた。数秒間の反省。

「いいえ。私が一方的に存じ上げているだけでございます。ジルクハルト様」

「こ、こんにちは。ジルクハルト様」

 私を怪しむジルに対し、違和感のないように言い直してこちらからもおじぎを返す。
 隣のコルフェも慌てて私の真似をし頭を垂れた。

 私の勘が正しければ、今は≪シュテルフスタイン≫初代無印とⅡの間の時代。
 ジルもそれなりの有名人になりつつある時期だろう。
これから教会騎士たちの副団長へ任ぜられ、登り詰めていくことになる人物として、色々な場所を訪れ周囲の期待を集めている時期。

 ともあれば、モブの私でも彼の噂をきいたり姿を見て憧れを抱いたりしていてもおかしくはない。
 まぁ、ジルが本命ではない私が入っているメイカさんが彼に憧れるようなことはないだろうけどね。

 ジルも間近で見ると確かにかっこいいっちゃかっこいい。流石は整っている。顔面偏差値高い。
 鎧の下の筋肉が安易に想像できてしまうのは、追加の十八禁版シナリオで散々裸を見てしまったからだろうなぁ。
 想像できるからといって、すぐに私の気持ちが彼に揺らいで持っていかれるわけでもないけれど。

(あら……?)

 その時だ。
 コルフェが私の手をぎゅっと強めに握った気がして視線を落とす。
 知らない大人を前にして緊張しているのかな。と、思ったけどどうやらそうじゃないらしく。

 私がジルを観察する視線が、まるで彼に見惚れているように見えたみたい。
 こころなしか不機嫌そうなオーラが出始めている。

(ははあ。さては未来のお師匠さんに嫉妬してるのね。この子ってば。まったく……)

 年齢のわりにませているとは思っていた。
 コルフェは小さいながらもすでに私のことを意識してくれている。ちょっと嬉しい。
 それが母と子や姉と弟みたいな家族愛なのか、背伸びして恋人をきどってみたい恋愛感情なのかはまだ知らないけど。

 うつむいたままでよく見えないけれど、私の手を絶対離すもんかって顔してるっぽい。
 何か言いたげに指を小さくつついてくる様子が愛らしい。

「……! 何者だ!?」

 そんなコルフェをほほえましく思っていると、突然ジルが警戒して声を出す。
 ハッとして振り向けば、近くの茂みから足を引きずりながら人が現れて。

「こ、こいつは……!!」
「神父さま……?!」

 私が言うより早く、コルフェが人物を代名詞で呼んだ。
 草に足をとられながら出てきた人はこの村の教会に勤める人物。
 名前を得るまでは私と同じ名前無しのモブだった男。ボロボロに裂かれた修道服姿。

 現れたのはうちのめされた様子の例の神父だった。




 




 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

最推しの悪役令嬢にお近づきになれるチャンスなので、王子の婚約者に立候補します!

あゆみノワ★9/3『完全別居〜』発売
恋愛
マリエラの最推し、ダリアは悪役令嬢である。しかし、ただの悪役令嬢ではない。プロの悪役令嬢である――。これは、悪役令嬢ダリアと王子の恋のお話、ではなく。そんなダリアを最推しとする少女マリエラの、推し活の記録である。  孤児院育ちで人生捨て鉢になっていた少女マリエラが、とある伯爵令嬢と運命的な出会いを果たし、最推しになったお話です。ちなみに主人公マリエラは、可憐でかわいらしい見た目に反して、超毒舌かつたくましい少女です。  甘いお話をご期待の方は、ご注意くださいませ。    ※恋愛要素は、ほぼほぼありません。GL要素もありません。  ※小説家になろう様でも掲載中です。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

処理中です...