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【零和 二章・認識齟齬の水面下】
[零2-5・落下]
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「民間組織ってこと? 私の知っている日本では法律で銃は持てないんだけど」
『その指摘に関して言えばですけど、もう政府という組織は機能はしていませんから』
あっさりとそう返されて、私は動揺せざるを得なかった。
『各区画にいるゾンビ対策チームを、ハウンドと呼んでいます。インフラ整備やゾンビの侵入阻止なんかが主な任務です』
「さいしょにダイサン東京区画って言ってたけど」
『そうです。ダイイチからダイサンまである区画の一つです』
「それぞれがゾンビ対策用の自警団を持っているってこと? 政府が機能してないってことは、自治体がそれを主導してるの?」
『区画はそれぞれが自治権を持った巨大なコミュニティです。ですから防衛機能なんかも、それぞれの区画によって構成されています』
頭が痛くなってきた。
一度、始めからこの世界についての情報を整理する必要があったし状況を確認したかった。
あまりにも情報量が多すぎて、それを断片的にしかインプット出来ていない。
とにかく、今の話で分かったのは、現状日本の政府組織や都道府県の公的組織は崩壊しており、この東京においては三つのコミュニティが成立している事になる。
政府組織が瓦解している為に、それぞれのコミュニティが自治権を持ち、対ゾンビ用に武装した部隊を有しているという事らしい。
先を行っていた四人に追い付く。
素早く移動していくその姿に遅れないように、ワイヤーを再度撃ち込む。
コツを掴んできた気がした。
慣れてきてみれば、確かに有用な装備であるのは理解した。
地上はゾンビに溢れ行き来出来ない以上、安全な通路ではある。
けれども、これ以外に方法はありそうなものだった。
この世界の全容を早く確かめてみたくあった。
それに。私は明瀬ちゃんを捜さなければいけない。
『このペースで付いてこれる?』
私のヘッドセッドにカイセさんからの通信が入った。
ルート上、超高層ビルの壁面を登る必要があるようで、カイセさん達は斜め上へ向かってワイヤーを撃ち出し、数十メートル、上に移動していく。
先程までと比べて、かなり距離が空いてしまっていた。
「大丈夫です、なんとか」
ビル壁面にワイヤーを撃ち込み、AMADEUSの出力を上げる為に引き金を引き絞る。
その加減で出力の強弱が上がる事にも慣れてきた。
ワイヤーの巻き上げに引き上げられて、その勢いでビル壁面に衝突しそうになる直前に、ワイヤーの設置を解除する。
身を捻って、WIIGの銃口を斜め上へと向けて反対側のビルへとワイヤーを撃ちこむ。
斜めに移動する負荷でワイヤーがたわみ、巻き上げる際に鈍い摩擦音が混ざる。
風の勢いが増してきて、身体が流される。
動きとしては慣れてきたが、何が違うのか私よりも移動速度が全く違った。
「私より全然早い」
私の言葉に追い付いてきたレベッカが言葉を返す。
彼女はAMADEUSの操作が下手だと評されていたが、素人目には彼女達の差が分からない。
『カイセさんは、一番飛ぶのが上手いですから』
「参考にするよ」
その短い会話で呼吸を整えて、私は再度移動を開始する。
ワイヤーに引かれて飛んでいる際には、その風圧で呼吸が乱れる為、息苦しさがあった。
次の地点にワイヤーを撃ちこみながら私はカイセさんに聞く。
カイセさん達より数メートル下ではあるが、何とか足元まで追い付けそうだった。
「ペースを上げてますけど、何か理由が?」
『それは』
その言葉は、雑音と共に途絶えた。
ヘッドセッド越しに聞こえた大きな何かの音が、頭上で響いた音と被る。
目の前を過ったのは、黒い影で。
それが私を掠めて、私のワイヤーが揺れる。
頬に何かの感触を覚えた。
空いている右手でつと触れる。
生暖かく、そして粘性のある液体。
その感覚は覚えがあった。
『カイセさん!』
落下していた黒い影を見て、レベッカがそう叫ぶのが聞こえた。
『その指摘に関して言えばですけど、もう政府という組織は機能はしていませんから』
あっさりとそう返されて、私は動揺せざるを得なかった。
『各区画にいるゾンビ対策チームを、ハウンドと呼んでいます。インフラ整備やゾンビの侵入阻止なんかが主な任務です』
「さいしょにダイサン東京区画って言ってたけど」
『そうです。ダイイチからダイサンまである区画の一つです』
「それぞれがゾンビ対策用の自警団を持っているってこと? 政府が機能してないってことは、自治体がそれを主導してるの?」
『区画はそれぞれが自治権を持った巨大なコミュニティです。ですから防衛機能なんかも、それぞれの区画によって構成されています』
頭が痛くなってきた。
一度、始めからこの世界についての情報を整理する必要があったし状況を確認したかった。
あまりにも情報量が多すぎて、それを断片的にしかインプット出来ていない。
とにかく、今の話で分かったのは、現状日本の政府組織や都道府県の公的組織は崩壊しており、この東京においては三つのコミュニティが成立している事になる。
政府組織が瓦解している為に、それぞれのコミュニティが自治権を持ち、対ゾンビ用に武装した部隊を有しているという事らしい。
先を行っていた四人に追い付く。
素早く移動していくその姿に遅れないように、ワイヤーを再度撃ち込む。
コツを掴んできた気がした。
慣れてきてみれば、確かに有用な装備であるのは理解した。
地上はゾンビに溢れ行き来出来ない以上、安全な通路ではある。
けれども、これ以外に方法はありそうなものだった。
この世界の全容を早く確かめてみたくあった。
それに。私は明瀬ちゃんを捜さなければいけない。
『このペースで付いてこれる?』
私のヘッドセッドにカイセさんからの通信が入った。
ルート上、超高層ビルの壁面を登る必要があるようで、カイセさん達は斜め上へ向かってワイヤーを撃ち出し、数十メートル、上に移動していく。
先程までと比べて、かなり距離が空いてしまっていた。
「大丈夫です、なんとか」
ビル壁面にワイヤーを撃ち込み、AMADEUSの出力を上げる為に引き金を引き絞る。
その加減で出力の強弱が上がる事にも慣れてきた。
ワイヤーの巻き上げに引き上げられて、その勢いでビル壁面に衝突しそうになる直前に、ワイヤーの設置を解除する。
身を捻って、WIIGの銃口を斜め上へと向けて反対側のビルへとワイヤーを撃ちこむ。
斜めに移動する負荷でワイヤーがたわみ、巻き上げる際に鈍い摩擦音が混ざる。
風の勢いが増してきて、身体が流される。
動きとしては慣れてきたが、何が違うのか私よりも移動速度が全く違った。
「私より全然早い」
私の言葉に追い付いてきたレベッカが言葉を返す。
彼女はAMADEUSの操作が下手だと評されていたが、素人目には彼女達の差が分からない。
『カイセさんは、一番飛ぶのが上手いですから』
「参考にするよ」
その短い会話で呼吸を整えて、私は再度移動を開始する。
ワイヤーに引かれて飛んでいる際には、その風圧で呼吸が乱れる為、息苦しさがあった。
次の地点にワイヤーを撃ちこみながら私はカイセさんに聞く。
カイセさん達より数メートル下ではあるが、何とか足元まで追い付けそうだった。
「ペースを上げてますけど、何か理由が?」
『それは』
その言葉は、雑音と共に途絶えた。
ヘッドセッド越しに聞こえた大きな何かの音が、頭上で響いた音と被る。
目の前を過ったのは、黒い影で。
それが私を掠めて、私のワイヤーが揺れる。
頬に何かの感触を覚えた。
空いている右手でつと触れる。
生暖かく、そして粘性のある液体。
その感覚は覚えがあった。
『カイセさん!』
落下していた黒い影を見て、レベッカがそう叫ぶのが聞こえた。
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