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魔笛
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夜になった。
普段なら街灯は消え、煤のような暗闇に浸されるはすだが、今日は違っていた。
祭りがあるからか、無数の明かりが周囲を照らし、窓から見える景色は明るい。
庭園には素朴な衣服を身に纏った人達がうろうろしている。
城外から訪れた一般人だろう。
ターニャは梯子の天板に腰掛け、シャンデリアの蝋燭に明かりを灯している。
カルミアはというと、何処か落ち着かない様子で、部屋中を行ったり来たりしていた。
「カルミア様、落ち着いてくださいまし」
「落ち着けるものなら落ち着いてるって」
本当にうまくいくのか、カルミアは不安だった。
花火が打ち上がる時間が迫れば迫るほど、落ち着かない気分になる。
ヨハンの手紙に書かれたことは不透明なことが多い。
本当にヨハンは王宮の裏門にいるのか。魔笛を吹いたらどうなるのか。ちゃんとここから脱出できるのか。
これから先に訪れる未来が予測出来ない。
ターニャが最後の蝋燭に、火を灯し終えた時だった。
ドンッと。
体が震える程の炸裂音と共に、夜空に大輪の花が咲いた。
ーー祭りの始まりを告げる花火だ。
カルミアはピタリと足を止め、窓の方に視線を移した。
「始まった」
「始まりましたわね」
綺麗だと見とれてる時間は今はない。
カルミアは急いでベッド脇のキャビンへと足を運び、そこの一番上段に隠してある銀笛ーー魔笛を手に取った。
胴体部分に描かれた魔方陣は、薄い緑の光を纏わせている。じんわりと熱を宿してるそれは、まるでそれ自体が生き物のようだ。
「それが噂の魔笛ですの?」
「うん」
「それを吹いたら何が起こるんですの?」
「分からない。でもきっと何が起こるはずだ」
それこそ。この足枷を解いてくれる何が。
カルミアはターニャと視線を交わらせた。
「いくよ」
「ええ」
カルミアは笛を唇に当て、静かに吹いた。
ピーと、澄んだ音色が部屋中に響く。
その音色は、朝の訪れを告げる鳥の鳴き声のようだった。思わず聞き惚れてしまうほど綺麗だ。
(...あれ?)
なにも起こらない。
ーーーと思ったその刹那、カルミアの足元に大きな魔方陣のような模様が浮かび上がった。それは植物のように部屋中を覆いつくす。
途端に何処からともなく目がくらむ程の白々とした光が降り注ぎ、カルミアは思わず目を眇めた。
(なんだあれ)
光の中で、徐々に形を作る小さな黒い影。
足、胴体、頭部、そして耳と来て、カルミアはその独特なシルエットから魔物だと察した。そのシルエットは前世でいうところの言うところの猫に似ている。
強烈な夕日が、藍色の闇に染まるように。
徐々に徐々に光は収まる。
そしてそれと同時に視界に映った魔物に視線を奪われた。いや、奪われざる負えなかった。何故ならーー。
『こうして眠りから覚めるのも二百年ぶりくらいか』
ーー人間の言葉を話したからだ。
普段なら街灯は消え、煤のような暗闇に浸されるはすだが、今日は違っていた。
祭りがあるからか、無数の明かりが周囲を照らし、窓から見える景色は明るい。
庭園には素朴な衣服を身に纏った人達がうろうろしている。
城外から訪れた一般人だろう。
ターニャは梯子の天板に腰掛け、シャンデリアの蝋燭に明かりを灯している。
カルミアはというと、何処か落ち着かない様子で、部屋中を行ったり来たりしていた。
「カルミア様、落ち着いてくださいまし」
「落ち着けるものなら落ち着いてるって」
本当にうまくいくのか、カルミアは不安だった。
花火が打ち上がる時間が迫れば迫るほど、落ち着かない気分になる。
ヨハンの手紙に書かれたことは不透明なことが多い。
本当にヨハンは王宮の裏門にいるのか。魔笛を吹いたらどうなるのか。ちゃんとここから脱出できるのか。
これから先に訪れる未来が予測出来ない。
ターニャが最後の蝋燭に、火を灯し終えた時だった。
ドンッと。
体が震える程の炸裂音と共に、夜空に大輪の花が咲いた。
ーー祭りの始まりを告げる花火だ。
カルミアはピタリと足を止め、窓の方に視線を移した。
「始まった」
「始まりましたわね」
綺麗だと見とれてる時間は今はない。
カルミアは急いでベッド脇のキャビンへと足を運び、そこの一番上段に隠してある銀笛ーー魔笛を手に取った。
胴体部分に描かれた魔方陣は、薄い緑の光を纏わせている。じんわりと熱を宿してるそれは、まるでそれ自体が生き物のようだ。
「それが噂の魔笛ですの?」
「うん」
「それを吹いたら何が起こるんですの?」
「分からない。でもきっと何が起こるはずだ」
それこそ。この足枷を解いてくれる何が。
カルミアはターニャと視線を交わらせた。
「いくよ」
「ええ」
カルミアは笛を唇に当て、静かに吹いた。
ピーと、澄んだ音色が部屋中に響く。
その音色は、朝の訪れを告げる鳥の鳴き声のようだった。思わず聞き惚れてしまうほど綺麗だ。
(...あれ?)
なにも起こらない。
ーーーと思ったその刹那、カルミアの足元に大きな魔方陣のような模様が浮かび上がった。それは植物のように部屋中を覆いつくす。
途端に何処からともなく目がくらむ程の白々とした光が降り注ぎ、カルミアは思わず目を眇めた。
(なんだあれ)
光の中で、徐々に形を作る小さな黒い影。
足、胴体、頭部、そして耳と来て、カルミアはその独特なシルエットから魔物だと察した。そのシルエットは前世でいうところの言うところの猫に似ている。
強烈な夕日が、藍色の闇に染まるように。
徐々に徐々に光は収まる。
そしてそれと同時に視界に映った魔物に視線を奪われた。いや、奪われざる負えなかった。何故ならーー。
『こうして眠りから覚めるのも二百年ぶりくらいか』
ーー人間の言葉を話したからだ。
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