二度目の人生は魔王の嫁

七海あとり

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決意

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重たい瞼をあげる。
視界には見慣れたレイバンスミスの壁画。
真っ白な天井じゃない。

夢から覚めたカルミアの頬には、涙が伝っていた。
カルミアは上体を起こして涙をぬぐった。

辺りは淡い藍色の闇に包み込まれている。
ターニャはまだ帰ってきていないようだった。

カルミアはベッドから降りて、鏡の前に移動した。
ジャラジャラと鳴る、足首の鎖。
いつのまにか足枷をつけられているところを見ると、ギルバートが様子を見にきたのだろう。

鏡に写ってる自分の姿は、酷い有り様だった。
ぐしゃぐしゃの頭。涙で落ちたアイライン。まだらになった白粉。よれよれになった衣服。
せっかくターニャが頑張ってくれたのに、台無しだ。


「(僕が送りたかった人生はこんな人生?)」

鏡の中の自分に尋ねた。

足枷をつけられて、行動を制限させられて、挙げ句は罪人のように監視用の機械も置かれて。
クロエも遠ざけられて。ギルバート以外縋れない状態にして。

幸せとは程遠いこんな生活がしたくて、娼館を抜け出したんだっけ?

鏡の中の自分の姿が、夢の中の最期の樹の姿と重なって見える。

次に生まれてくる時は、自由に生きられるように。幸せに生きられるようにと願って死んでいった彼が送りたかった人生は、こんな人生だっただろうか。

答えは全部否だった。

自由になりたい。そう願って、命がけで娼館を抜け出したのに、状況はもっと悪化してる。

カルミアはギルバートに強い怒りを抱いていた。

いつもそうだ。僕を囚人のように囲って、大切な事は何一つ教えてくれない。何が愛だ。そんな一方的で独りよがりの愛は愛と言えない。

僕にはギルバートしかいない?
そんなことない。側にいないだけで、クロエもヨハンもいる。ターニャだって僕の味方だろう。

子供ができたらギルバートの愛を失うかもしれない?
上等だ。むしろ大切にしてくれないギルバートなんてこっちから願い下げだ。
それにギルバートの愛情は僕じゃなく、クローディアとその子供に向かなくてはいけない。
僕は何を勘違いしていたのだろう。



カルミアはベッド脇のキャビンに視線を送った。そこにはヨハンからの、手紙と魔笛が入っている。
これから先どうするか、なんてもう決まってる。
ーーカルミアの瞳は、強い決意を抱いていた。
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