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和解

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「....ギルのこと」

絞り出した声は消え入りそうなくらい小さかった。カルミアは足元に視線を落とした。

 

「…最初は信頼してたよ。一国の王太子である貴方が、素性の知らない僕を助けてくれて、食べ物も寝床も与えてくれて。感謝してもしきれないくらい、感謝してた。…いや、実際今も感謝してる」

 

カルミアは頬を包むギルバートの手に、自らの手を重ねた。

 

「ギルが優しいから、僕が勝手に勘違いをしてしまったんだ。ギルが僕を、性を吐きだす道具ではなく、一人の人間として見てくれているって。だからこそ、あの晩。泣き叫んでいる僕を犯し続けるギルに、強く失望した。結局僕を道具のようにしか思っていなかったのかと。心が暗い雲に覆われていくようだった」

「…カルミア」

「だから僕は、ギルとの関係を主人と男娼という関係に割り切った。おかげで随分と楽な気持ちになった。でも、今はその関係で収めたくない。正直、自分の心の変化に戸惑ってる。――もしかして僕は、ギルに恋をしているの?」

 

カルミアの視線が、ギルバートを射抜いた。

カルミア自身から、ギルバートへの気持ちを尋ねられるとは夢にも思わなかったギルバートは、面を食らったような表情を浮かべた。しかしそれはほんの一瞬だった。ギルバートの表情が、見る見る綻んでいく。

ギルバートはカルミアの額に、自らの額をくっ付けた。

 

「恋じゃない。愛だ」

「愛?」

「カルミアも俺を愛しているんだよ。俺がカルミアを愛しているように」

 

カルミアの胸に、何かがストン、と落ちた。長年思い出せなかった記憶が、突然甦ったような感覚だ。思えば、思い当たる節があった。男娼時代、汚らしい男達に抱き寄せられると鳥肌が立った。キスをされれば、唇に歯を突き立てたくなった。

しかしギルバートならどうだろう。抱き寄せられても、キスをされても、不思議と嫌な気持ちにはならない。ギルバートが嫉妬に狂ったあの晩。強引に抱かれて腹を立てたのだって、ギルバートに強く失望したのだって、本当はギルバートに恋心を抱いていたからなのではないのだろうか。

赤、青、緑、黄色。突然、視界に色とりどりの閃光が走る。

 

「…僕はギルを愛している?愛してる。……そっか、愛してるのか」

 

カルミアは驚いたような表情で、愛の言葉を繰り返した。ギルバートはとっくの昔に、カルミアの心が自分に向いている事に気付いていた。おそらくカルミアは誰かを愛した事がなかったため、この結論までには至らなかったのだろう。ギルバートにとって、長年欲していた物が、やっと手に入った瞬間だった。

 

「俺達は晴れて両想いになったわけだけど。遠い未来、俺の妃になってくれる?」

「…僕は何も知らない世間知らずだ。妃に必要な知識も度胸もない。身分もなければ、後ろ盾もない。こんな僕でいいの?」

「そんなカルミアがいいんだよ」

 

カルミアは頬を赤く染めて、微笑んだ。

ギルバートは瞼を伏せ、そんなカルミアに口付ける。カルミアもそれを甘んじて受け入れた。

 

――その姿を、クロエは複雑そうな表情で眺めていた。
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