9 / 44
和解
しおりを挟む
「....ギルのこと」
絞り出した声は消え入りそうなくらい小さかった。カルミアは足元に視線を落とした。
「…最初は信頼してたよ。一国の王太子である貴方が、素性の知らない僕を助けてくれて、食べ物も寝床も与えてくれて。感謝してもしきれないくらい、感謝してた。…いや、実際今も感謝してる」
カルミアは頬を包むギルバートの手に、自らの手を重ねた。
「ギルが優しいから、僕が勝手に勘違いをしてしまったんだ。ギルが僕を、性を吐きだす道具ではなく、一人の人間として見てくれているって。だからこそ、あの晩。泣き叫んでいる僕を犯し続けるギルに、強く失望した。結局僕を道具のようにしか思っていなかったのかと。心が暗い雲に覆われていくようだった」
「…カルミア」
「だから僕は、ギルとの関係を主人と男娼という関係に割り切った。おかげで随分と楽な気持ちになった。でも、今はその関係で収めたくない。正直、自分の心の変化に戸惑ってる。――もしかして僕は、ギルに恋をしているの?」
カルミアの視線が、ギルバートを射抜いた。
カルミア自身から、ギルバートへの気持ちを尋ねられるとは夢にも思わなかったギルバートは、面を食らったような表情を浮かべた。しかしそれはほんの一瞬だった。ギルバートの表情が、見る見る綻んでいく。
ギルバートはカルミアの額に、自らの額をくっ付けた。
「恋じゃない。愛だ」
「愛?」
「カルミアも俺を愛しているんだよ。俺がカルミアを愛しているように」
カルミアの胸に、何かがストン、と落ちた。長年思い出せなかった記憶が、突然甦ったような感覚だ。思えば、思い当たる節があった。男娼時代、汚らしい男達に抱き寄せられると鳥肌が立った。キスをされれば、唇に歯を突き立てたくなった。
しかしギルバートならどうだろう。抱き寄せられても、キスをされても、不思議と嫌な気持ちにはならない。ギルバートが嫉妬に狂ったあの晩。強引に抱かれて腹を立てたのだって、ギルバートに強く失望したのだって、本当はギルバートに恋心を抱いていたからなのではないのだろうか。
赤、青、緑、黄色。突然、視界に色とりどりの閃光が走る。
「…僕はギルを愛している?愛してる。……そっか、愛してるのか」
カルミアは驚いたような表情で、愛の言葉を繰り返した。ギルバートはとっくの昔に、カルミアの心が自分に向いている事に気付いていた。おそらくカルミアは誰かを愛した事がなかったため、この結論までには至らなかったのだろう。ギルバートにとって、長年欲していた物が、やっと手に入った瞬間だった。
「俺達は晴れて両想いになったわけだけど。遠い未来、俺の妃になってくれる?」
「…僕は何も知らない世間知らずだ。妃に必要な知識も度胸もない。身分もなければ、後ろ盾もない。こんな僕でいいの?」
「そんなカルミアがいいんだよ」
カルミアは頬を赤く染めて、微笑んだ。
ギルバートは瞼を伏せ、そんなカルミアに口付ける。カルミアもそれを甘んじて受け入れた。
――その姿を、クロエは複雑そうな表情で眺めていた。
絞り出した声は消え入りそうなくらい小さかった。カルミアは足元に視線を落とした。
「…最初は信頼してたよ。一国の王太子である貴方が、素性の知らない僕を助けてくれて、食べ物も寝床も与えてくれて。感謝してもしきれないくらい、感謝してた。…いや、実際今も感謝してる」
カルミアは頬を包むギルバートの手に、自らの手を重ねた。
「ギルが優しいから、僕が勝手に勘違いをしてしまったんだ。ギルが僕を、性を吐きだす道具ではなく、一人の人間として見てくれているって。だからこそ、あの晩。泣き叫んでいる僕を犯し続けるギルに、強く失望した。結局僕を道具のようにしか思っていなかったのかと。心が暗い雲に覆われていくようだった」
「…カルミア」
「だから僕は、ギルとの関係を主人と男娼という関係に割り切った。おかげで随分と楽な気持ちになった。でも、今はその関係で収めたくない。正直、自分の心の変化に戸惑ってる。――もしかして僕は、ギルに恋をしているの?」
カルミアの視線が、ギルバートを射抜いた。
カルミア自身から、ギルバートへの気持ちを尋ねられるとは夢にも思わなかったギルバートは、面を食らったような表情を浮かべた。しかしそれはほんの一瞬だった。ギルバートの表情が、見る見る綻んでいく。
ギルバートはカルミアの額に、自らの額をくっ付けた。
「恋じゃない。愛だ」
「愛?」
「カルミアも俺を愛しているんだよ。俺がカルミアを愛しているように」
カルミアの胸に、何かがストン、と落ちた。長年思い出せなかった記憶が、突然甦ったような感覚だ。思えば、思い当たる節があった。男娼時代、汚らしい男達に抱き寄せられると鳥肌が立った。キスをされれば、唇に歯を突き立てたくなった。
しかしギルバートならどうだろう。抱き寄せられても、キスをされても、不思議と嫌な気持ちにはならない。ギルバートが嫉妬に狂ったあの晩。強引に抱かれて腹を立てたのだって、ギルバートに強く失望したのだって、本当はギルバートに恋心を抱いていたからなのではないのだろうか。
赤、青、緑、黄色。突然、視界に色とりどりの閃光が走る。
「…僕はギルを愛している?愛してる。……そっか、愛してるのか」
カルミアは驚いたような表情で、愛の言葉を繰り返した。ギルバートはとっくの昔に、カルミアの心が自分に向いている事に気付いていた。おそらくカルミアは誰かを愛した事がなかったため、この結論までには至らなかったのだろう。ギルバートにとって、長年欲していた物が、やっと手に入った瞬間だった。
「俺達は晴れて両想いになったわけだけど。遠い未来、俺の妃になってくれる?」
「…僕は何も知らない世間知らずだ。妃に必要な知識も度胸もない。身分もなければ、後ろ盾もない。こんな僕でいいの?」
「そんなカルミアがいいんだよ」
カルミアは頬を赤く染めて、微笑んだ。
ギルバートは瞼を伏せ、そんなカルミアに口付ける。カルミアもそれを甘んじて受け入れた。
――その姿を、クロエは複雑そうな表情で眺めていた。
1
お気に入りに追加
1,050
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる