にじ せか

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つめ

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最近恵が冷たい。

いつも通り五条が呼べば部屋には来てくれるし、触らせてもくれるし、キスだってしてくれる。

それでも、伊達に9年間過ごしてきたわけじゃない。

目線とか、息遣いとか。いつもと違う。理由は全く思い当たらないが、五条を避けようとしているのが分かる。

(僕なんか怒らせることしたかなぁ…)



最近、恵が冷たい気がする



恵を怒らせたことは星の数ほどあるが、あの不器用な少年は怒るととにかく分かりやすい。
わざとらしくつっけんどんにしてみたり、呼び出しを無視してみたり。

今回はそんなこともなく、そもそも怒っているのかも分からない。無視されるわけでもチクチクと小言を言われるでもなく、こんなに素っ気なくされるのは初めてで首を傾げることしかできない。

今も大人しく腕の中に収まっている恵の顔を上から覗き込んでみる。

「めーぐみっ」

「………」

反応なし。
読んでいる文庫本から方時も目を離さない。
周りから見ればいつものことかと特に気にもしないだろうが。

(……やっぱいつもと違う)

いつもなら、肩が少しだけピクリと動いたり、顔だけ少し上げてくれたり、抱き締めている腕をそっと握ってくれたりするのだ。かわいい。

今のは完全なる無視だ。
五条の背中に見えない矢がグサグサと刺さる。
……これは、なかなかに痛い。

(もしかして、ムラムラしてんのかな?)

前に、五条と2人きりになった途端、恵が急につっけんどんになってたことがあった。
あまりにも態度が急変したので問い詰めたら。
数十分に及ぶ押し問答の結果、なんと五条に抱いて欲しいという意思表示のつもりだった、とキレ気味に白状されるいう事件があった。

(あの時の恵、顔真っ赤にしながら怒ってて可愛かったなあ……)

なぜこちらが怒られるのかという話は置いておいて、愛しくてたまらなくて、すぐに押し倒した。
あの夜は五条がなにもかもしてあげたのだった。
ーーそれは行為においてはいつもそうなのだが。

(もしかして最近のコレも、抱いて欲しいっていうやつ?)

そうかもしれない。いや、そうに違いない。

気づいたら行動。
五条は相変わらず本から目を離さない恵の部屋着のスウェットにゴソゴソと手を入れる。
素肌の腹をゆっくりとなぞって、首筋に唇を寄せて軽く口付ける。

ここで、恵の体がピクリと反応して、本を閉じて迷惑そうな顔を作ってこっちを見てくれる。
そのままスウェットを脱がせて、その次はーー

「っ、やめろ!」

「エッ」

その先の五条の甘い想像は、恵の鋭い声にプツリと千切れる。

やめろ?今、やめろって言った?

そんなあからさまな拒否の言葉を受けたのは初めてで五条は目をパチクリしてフリーズする。
真っ白な大型犬が固まっている隙に、恵は五条の腕を自分の体から振り解くと本を持って立ち上がった。

「………あの。」

恵に見下ろされるの、新鮮だなあなんて思いながら目の前に立つスラリとした顔を見上げる。
五条とはまた違った色味の真っ白な肌に影を落とす黒い睫毛が、艶やかな黒髪が、深い色の瞳が美しいなと毎日思う。

「かわい………」

「…はぁ?」

しまった。声に出てた。
恵の眉がピクリと寄せられる。でもこれは、怒ってるわけじゃない。
照れてるだけだ。

「あー、ごめん。恵がかわいくてさぁ。なんか言おうとしてたでしょ?なに?」

「………もういいです。とにかく今日はもう帰ってください。明日朝早いんで。」

「いや。恵、明日の任務午後からでしょ。」

食い気味でサラリと嘘を見抜かれる。
なぜ人の予定を当たり前に把握しているのだと突っ込みたくなるが、そういえばこの人は俺の予定を全て把握している(むしろ管理している)んだった、と諦める。

「……もう、眠いんで。」

「イヤイヤさっき目ギンギンで本読んでたよね???」

「……いいから!!今日は帰れ!!」

腕を引っ張られて立たせられて、背中をグイグイと押されて半強制的に部屋から退室させられる。
気づいたらドアはしっかりと閉じられていて、五条はそのドアの外側に放り出されていた。
呪術界最強の男も、溺愛する年下の恋人の拒絶に対しては無力だった。

「まじかあ~~……」

無理矢理部屋から追い出されたのも、セックスの誘いを断られたのも、これが初めてだった。
というか1週間以上、恵とヤってない。

五条は静かに恵の部屋のドアを見つめて立ち尽くす。

(そろそろ潮時、か)

✳︎

「ねぇ!!!なんでだと思う!?ねえ!!!!」

「うるっっさいわね!!どうせ伏黒を怒らせるよーなことしたんでしょ!?大の大人がピーピー泣くな!!!」

遡ること10時間と少し前。追い出された恵の部屋の前に立ち尽くして「潮時、か…」なんて1人呟いたり、静かにドアを見つめてみたりと格好つけておいて、恵から潔く手を引けるわけなんてなく。

まだ舌の根も乾かない翌日には、五条は悠仁と野薔薇に泣きついていた。

恵は単独の任務中で、しばらく学校には戻ってこない。
恵が出た直後に五条は2人の元へどこからか現れ、昨夜、いや少し前から恵に冷たくあしらわれていることを2人にまくしたてた。

悠仁も野薔薇も、五条がよく恵♡フォルダ(五条により撮影・厳選された恵の写真が保存されているフォルダ。本人非公認。)を自慢するので2人の仲が深いことも、五条の伏黒の溺愛ぶりも嫌というほど知っているし、あのバグっている距離感も、熟年夫婦のようなやりとりにも慣れてきた頃だった。が。

(友達と担任のセックス事情は聞きたくなかったぁ~~~!!!)

悠仁と野薔薇は顔に出さないよう、心の中で叫んで思わずこれ以上聞きたくない、と耳を塞ぎたくなるのを必死で堪える。

今まで薄らぼんやりとそういうことはしてるのかな、いやでも未成年だし、男同士だから色々大変そうだし、そもそも生徒と先生だし…なんて考えていたが、甘かった。

とっくに一線は超えていたようだ。
さすがというか、五条の恵への溺愛ぶり、甘やかしぶりを見て、むしろこの男が手を出していないことの方がありえないと無理矢理納得する。

「それがさあ!怒らせた覚えがマジでないの!ねえ!!なんでぇ!?」

「ふ、伏黒も最近疲れてるんじゃない??任務続きだし…あ、もしかして五条先生のこと考えてくれてるのかも?疲れてる先生を無理させないた、」

「それなら逆に恵ん中入って癒されたいよ僕!!!!!」

「うるさい!いちいち中入るとか言うな!!!」

野薔薇が牙を剥いて五条に怒鳴る。
これには悠仁も傍でウンウンと頷く。

「そんなに気になるなら本人に直接聞けばいいじゃない。こんなとこでギャーギャー喚いたって、私たちだって分かんないわよ。アイツの思考は。」

「そんな冷たいこと言わないでよ野薔薇ぁ…ねえ悠仁、恵が僕のことなんか言ってなかった?ねえ?!ねえ!!!」

野薔薇にはいくら言っても無理だと諦めたのか、五条の猛尋問は悠仁へと集中する。

なんだかんだと放って置けない悠仁は、本気で思い当たる節がなく困っているらしい五条の助けになるような、なにか五条への不満を漏らしている恵の発言はなかったかと首を捻りながら思い起こしてみる。

「うーーん……」

必死に記憶を辿っていくと、恵の眉がしかめられた、文句を言っているような表情が浮かんでくる。

(……あ。そういえば。)

「っ思い出したァ!!!!」

「マジで!?ナイス悠仁!!!!」
 
悠仁に抱きついて頬擦りする。ーーいや、文句を言われていたことを思い出されたのだから、喜ぶところではないのかもしれないが。もしかしたら冷たくされる原因が判明するかもしれない。

五条が跳んで喜んだのも束の間、五条はまだこの時知らなかった。

悠仁の次の発言により五条のライフが限りなくゼロへと近づく会心の一撃をくらうことを。

「そういやちょっと前、伏黒が『五条先生しつこい』みたいなこと言って怒ってた!!」

ピシリ。
確実に五条の中で何かが割れた音が2人の耳に聞こえてくる。

「し、し、しつ、こい………」

「そーそー。いつだったか忘れたけど、確かそん時はーー」

ここから先、せっかく恵の五条への不満の話を語ってくれている悠仁の話は五条の耳には全く入って来ず。

すでに心は満身創痍の状態で、気づいたら恵の部屋の前に来ていた。

(……恵、いないのに。)

特に行くあてもなく、ドアの前にズルズルと座り込む。
久しぶりに膝を抱えて座ると、なんだか小さくなったような気分がして少し落ち着いた。

(恵、僕のことやっぱり鬱陶しがってたんだ…いや、分かってたけど。はっきり言葉にされるとへこむ……)

昔からしつこくしてきた自負はある。
でも、それでも、恵はきっとそんなところも好きだと思ってくれてるのだと勝手に思い込んでいた。
不満は直接本人から言われるよりも、人から又聞きした時が一番クるものがある。

だから昨日も僕からのセックスの誘いも断って追い出したんだ、きっとそうだ。

今まで我慢して抱かれてたってこと?
あんなに可愛い声出して僕のこと離さなかったくせに???

(もう我慢の限界ってことなのかな)

思えば、今まで恵が僕に大人しくいいようにされてたことが奇跡だったのかもしれない。…いや、僕に全くそんなつもりはなかったんだけど、恵からしたら支配されてたような感じだったのかな。

ーー実際、今手出してること自体も法に触れるし。なんなら何年も前からすでに手出してるし。

まだ今からやめたら嫌いにならないでくれるかもしれない。

恵にこれから先嫌われて冷たくあしらわれて無視され続けるか、しばらくセックスその他諸々のイチャイチャを我慢して恵が成人するまで待つか(今更だけど)を天秤にかける。

(……そんなの、僕が我慢するしかないじゃん。恵に嫌われたら死ぬ。無理。)

今の状態ですら既に瀕死なのに、本気で嫌われてしまったら本当に生きていける自信がない。辛すぎる。

こうして五条は〝恵から嫌われる〟という死亡不可避のイベントから逃れるために、恵との行為をしばらく我慢しようと固く決意したのだった。

「……何してるんですか」

決意を決めた直後。
背後から、愛しの声が。

「!!!…め、恵!おかえり!」

ここ数日間、五条の頭の中を支配している張本人が現れたのだった。

✳︎

五条と恵は並んでベッドに座って、特に目玉のニュースもない、他愛もない夜の報道番組を眺めている。

お互い、あまりニュースなど熱心にみる習慣はないのだが、なぜか2人とも無言で画面を目に映している。

つまり、内容は全く頭に入っていない。

五条はとにかく焦っていた。
さっき決意したばかりなのに、さっそく2人きりになってしまった。
それも、

『…ちょっと入ってかないですか?………時間あったんで土産買ってきました。』

なんていつものように僕を見上げて誘われてしまっては、入らないなんて選択肢はなかった。
しかもあの恵が珍しくお土産だなんて。

(ヤバーーー!!!ムラムラしてくる…恵と2人きりだとだいたいセックスだからなあ…)

それもどうかと思うが、体が反応してしまっているのだから仕方がない。

五条のすぐ横に座って、風呂上りの少し上気したほんのりピンク色の頰で、シャンプーの清潔な香りをさせている恵をなんとか意識の外に放り出すので精一杯だった。

恵が風呂に入っている間にこっそり抜け出してしまおうかとも思ったが、あの恵が珍しく自分から部屋に誘ってくれたのに、勝手に出て行くなど出来なかった。

ーー1人でぐるぐると思考の渦に呑まれていると。
無言でニュースを目に映すだけの時間の終わりが、報道時間の終了と共に訪れる。

五条は恵に手を出してしまう前に、断腸の思いでベッドから立ち上がった。

「恵、任務で疲れてるっしょ。お土産は授業ん時でいいからさ、……僕今日はそろそろ帰るよ。」

恵の顔をできるだけ見ないようにして早口で告げる。
返事は、ない。

(あー!!もったいない!!恵から部屋に入れてくれて、2人きりでなんて最高のシチュエーションなのにぃ…!!!でも、恵にこの先一生嫌われるのに比べたらマシだろ!
頑張れ僕!帰れ五条悟!!)

目から血の涙を流す勢いで必死に自分を煽り、未だ何も言わないままの恵に背を向けてドアへと歩き出す。

ドアノブに手を掛けた時。
背中が心地よい温かさに包まれたことに気づく。

「……なんで。」

「っ、ぅえ???」

変な声が出た。
恵の声が、背中の向こう側から寂しそうに訴える。この背中の温かさは、風呂上りの恵の体温だった。

「…な、なんでって…恵、疲れてるかなーーって…ホラ、昨日もさ、こんくらいの時間でもう眠いって言ってたでしょ?だから疲れてんのかなーって」

しまった。
ついいつもの癖で意地悪なことを言ってしまった。ダラダラと冷や汗が出る。

(また突き飛ばされて追い出されるコースだ…ヤダーーー!)

ーーが。いくら待っても衝撃は来ず。
アレ?と拍子抜けしていると、お腹に回った恵の腕にぎゅっと力が込められたのを感じる。
その後たっぷり約30秒の間を置いて、恵が声を発した。


「……昨日、もう眠いって言ったの嘘です。…今日は眠くない。」

「……そ、そう??…でもさ、」

やっぱり嘘だったんかい。
恵の意図が読めなくて焦り始める。
早く部屋から出ないと。
こんなにあったかくていい匂いの恵にずっと抱き締められてたら、五条の五条はあっという間に元気になってしまうのだ。

(も、もしかして僕との別れ話を切り出せなくて迷ってる!?ヤダーー!絶対にイヤ!!!!死ぬ!!!)

恵の腕は相変わらず回されたまま。
ムラムラしてしまう。やばい。もう限界だ。

五条は恵の腕を掴むと、お腹から剥がそうとして少し力を込める。
恵が小さく「ぇ、」と声を上げたのが耳に入って、五条は思わず恵の顔を見てしまった。

困ったような、少し泣きそうな顔にジクリと胸が痛んだら、もうダメだった。

「……恵。僕に何か言いたいことあるの?」

気づいたら、恵の頰にそっと触れてそう声に出していた。

(ウワー僕の馬鹿!!これで別れたいなんて言われたらどうすんの!?なんてこと聞いてんだ馬鹿!アホ!)

思わず口をついて出た声に、すぐさまイマジナリー五条悟が最悪の想定を考えて反論してくる。

それでも、このままの恵をただ放って置いていくなんて、できなかった。

静寂。時間が止まる。
五条はどんな凶悪邪悪な呪霊と対峙している時よりも緊張していた。
バクバクと自分の心臓の音が煩い。

「………セッ、クス、しません、か」

「……へ、?」

やっと絞り出された恵の声は小さくて、なんと言ったのか五条は耳を疑うほどだった。
が。恵の声を聞き間違えるはずがない。
〝セックスしませんか〟って言った。絶対。

(えぇえ!?どういうこと!?)

恵は五条とのそういう行為の誘いをしつこいと思っていて嫌がっているのだと思ってた。だとしたら、この誘いは?

「め、恵?いいんだよ無理しなくて…僕我慢するから。昨日も僕から誘った時、早く帰れって嫌がってたでしょ?」

「…え、あ、それは、」

「今まで2人きりの時ずっとヤってばっかだったじゃん?…僕も恵のこと好きすぎて、しつこかったかなーって。だからーーー」

「……べつに、嫌がってません。」

「エ!?」

衝撃発言。
昨日の恵、嫌がってなかった?
じゃあなんでいきなり僕を部屋から追い出したりした?ーーとさらに疑問符が頭の上に浮かぶ。

「ーーーいいから、はやくシてください、…そしたら教える。」

やっと真正面からジッと恵の目を見つめて今更気づいた。
頰がほんのり赤いのは風呂上がりだからってだけじゃない。
恵もムラムラしてるんだ、ずっと。僕と2人きりになった時から。

「アッ、え、……うん、ヤりたいです」

それに気づいた瞬間、1時間前にも満たないついさっき固めたばかりの決意は簡単に破綻した。





✳︎


「めっ、めめ恵!?なにしてんの!?ねえ!!」

五条が恵をお姫様抱っこでベッドに連れて行ってそのまま寝かせ、その上に五条が覆い被さってキスをするーーーというのがいつもの行為の流れだった。

ところが、恵は五条をさっさとベッドに押し倒すと、なんとその腹の上に馬乗りになった。
いつもと真逆の目の前に広がる光景に、五条は混乱する。

「うるさい。ちょっと黙ってください」

「いや黙ってらんないでしょ!?だってこれ騎乗ーーー」

「アンタ、ほんとに黙れ…やめるぞ」

「ヤダ!!!!!ごめんなさい!!」

恵が自分からセックスしたいと五条に持ち掛けるなんて、しかも騎乗位なんて体位は初めてでなんだか緊張する。

普段は正常位かバックが多い。

恵の腰に負担をかけないようにバックでしたいといつも思っているのだが、恵の感じているいやらしい、同じくらい可愛らしいあの表情を堪能したくて、ついいつも正常位になってしまう。
初めは嫌がっていた恵も、やはり五条の顔が見えると安心するのか最近は少しずつ正常位に慣れてきた頃だった。

(そ、それが急に、これ……)

本当に、一体どうしてしまったのだろうか。いや五条からすれば喜ばしいことこの上ないのだが、先日からの冷たい態度の謎は依然として解けておらず、モヤモヤが残る。

「…あの、…もう挿れていいですか、」

「いやいや待って、そんな急に僕の挿れたら恵のお尻切れちゃうって。」

もう数え切れないくらい五条のモノを受け入れている恵はもちろんその大きさを知っている。

身長に見合った大きさだから、恵は毎回じっくりと五条に解してもらっているのだ。

恵は五条の言葉を無視して、すでに半勃ちとなった五条のそこを上からなぞり、ズルリと下着を下げた。
五条も恵も、ほとんど服を着たまま。

五条は自分の中心だけが外気に晒されている状況にブルリと身震いする。

「…なんもしてないのに勃ってる」

「だって恵が珍しいことしてくれるから…」

恵が自身のジャージのパンツと下着を、五条の腹の両横に膝立ちになってずり下げる。

さすがに少し恥ずかしいのか、ほんのりと耳から首が赤く染まっているのが可愛らしい。
いつもの癖で恵のうしろに手を伸ばしかけて、パシッと掴まれる。

「え。今日は解さないの??」

一瞬の間を負いて、恵が消え入りそうな小さな声で答える。

「………もう、解してあるんで、いいです。」

もう解してある?????

その言葉の理解に時間を有する。

目をパチクリしている五条に見せつけるように、恵が自分のうしろに腕を回して、何かを引っ張り出すような動きをする。

「…っ、…ん、んん、」

恵の尻越しに、見慣れない蛍光色が覗く。
恵のナカから出て来たのは、ローションでテカテカに卑猥に光ったディルドだった。それも、五条のアレとほぼ同じくらいのビッグサイズ。

「こっ、これ、え!?」

処理しきれない目の前の情報に、声が裏返る。驚きすぎて言葉にならない。

(もしかして恵、僕が解さなくていいように自分でこれ挿れて来たの!?)

信じられない、あの恵が。
解されてる間も黙って作業を受けているような顔をしてた恵が。

「一応聞くけどさあ、…それ、自分でお尻に挿れたんだよね??誰かに挿れてもらったとか言わないよね!?」

五条が恵の両腕をガッシリと掴んで顔を寄せて問い詰める。

五条のあまりの必死さと気迫に、恵はつい笑いそうになるのをこらえてムッとした表情を作ってみる。

「何言ってんスか、当たり前でしょ。…大変だったんですよこれ挿れるの。」

その一言で恵がこの派手な色のディルドを1人で一生懸命挿れているのを想像してしまう。

「は?えっっっろ……恵、いつからそんなエッチな子になっちゃったの…??」

「………っ、デカくしないでください。もう挿れていいですか?」

おもむろに恵が五条の腕を掴んで、自分のうしろに導く。

はっとして尻穴を指で探り当ててそこへゆっくりと指を埋めると、いつもは解さない限りきついくらいの狭い穴は、今やトロトロとローションを垂らして物欲しそうにキュウキュウと五条の指を締め付けた。

「……はは、締まってる、かわい。…挿れる、てか挿れていい?」

ナチュラルに恵を押し倒して形勢逆転しようと肩に手を乗せるが、恵はいつもの正常位になるつもりはないらしい。

五条のもはや完全に勃ち上がった性器を、垂れて来たローションで滑りを良くして何往復かしごく。

「ねーまさかさぁ、恵、自分で挿れんの?」

「……だめ、ですか」

欲情して濡れた瞳と視線が合う。

久しぶりの恵の薄くて白い体に動悸がおさまらない。

まるで、初めて体を重ねた時のような感動と欲情と独占欲と、いつもよりもまたもっと深い愛おしさが込み上げてくる。

思わず手を伸ばしてさらりと艶やかな黒髪を梳くと、それすらも快感なのか、ピクリと恵のまだ色の薄い性器が反応したのが分かった。

「ううん、駄目じゃないよ。…挿れてみて?恵」

恵は五条の性器に手を添えて、もう片手は自分の体を支え、ゆっくり、ゆっくりと腰を下ろしていく。

はあ、と恵が熱い息を吐く。

まずは亀頭がそこへ吸い付き、そのまま飲み込まれていく。

「ん、っ、はぁ、…んーっ、…う、」

一番張っている所に行き着くと、恵の喉からくぐもった声が漏れる。

膝が、ついている手が震えている。

五条の顔を見ないようにしているのか、少し上に虚ろに向けられた瞳は今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいる。

真っ赤な顔で震えながら腰を下ろして、感じてしまっているのを必死に逃しながら五条のものを体の中へ少しずつ招いているその姿はとても扇情的だった。

「大丈夫?恵。苦しそーだけど」

「っ、大丈夫、です……ん、…っはぁ、アンタの、デカすぎんだよッ…!」

「あは、褒めてくれてありがと♡」

まだ三分の一くらいしか入っていない。
恵はなんとしてでも自分で全部入れたいのだろうが、恵がディルドを引っ張り出しているその前からお預けを食らったままの五条は我慢の限界をとっくに超えていた。

目の前の細い腰に手を添える。
恵がハッとして五条を見下ろす。

「っ、おい!今日は俺がやるって、」

「恵が頑張って自分で挿れてくれてるのもめちゃくちゃえろくてかわいいけどさあ。こんなゆっくりじゃ朝になっちゃうよ?」

添えた手に少しずつ力を込める。
ズズ、と今までより速いペースで五条の巨根がズブズブと中へと沈んでいくのがよく見える。

「あっ、あ、ぃやだ、…まって、」

「どんだけ待ったと思ってんのー?もう無理。恵がエロすぎて待てないよ。」

次の瞬間、恵は一体何が起こったのか分からなかった。

目の前が真っ白に点滅している。下半身の感覚がない。

ぼやける視界で自分の下腹部になんとか目を落とすと、五条の腹と自分の腹が白濁で汚れているのが見えた。

「ぇ、…あ、…おれ、…?」

「恵トコロテンしちゃったねえ♡そんなに僕の一気に挿れたの気持ちよかった~~??」

言葉の意味を理解して、カッと顔が、耳まで熱くなるのを感じる。

(う、嘘だろ、挿れただけなのに、もう!?)

信じられない。恥ずかしい。
早々に出してしまったせいで頭がぼんやりとして体が熱い。

恵がぼんやりとしている隙に、ぐるりと視界が反転して、気づいたら上に五条の顔があって、その向こうに天井があった。

「形勢逆転~!…騎乗位の恵かわいかったけど、ちょっとつらそうだったから交代ね」

真っ赤になってしまった恵の熱い頰をゆっくりなぞる。
伏せ気味だった長い睫毛がふるりと震えて、その瞳の中に五条が映る。

(あー、なんで恵ってこんなに可愛いんだろ。めちゃくちゃエッチだし、美人だし、可愛いし、大好き。)

恵が絶頂から落ち着いたのを見計らって、ゆるゆると腰を擦り付けるように動かし始める。

いつもは甘い雰囲気もそこそこに出すことを目的として腰を動かしてしまうが、今日は違った。

「ぁ、あっ、…う、ンッ、…ああっ、」

抑え気味に漏れる恵の喘ぎ声も、いつもより何倍も甘さを帯びている気がする。

ストロークを徐々に、上げていく。
ゾクゾクとした快感が、五条の背筋を撫でていく。

「っ、は、…あーきもちい……ね、めぐみ、…きもちいいね、」

恵の顔。
いつも自分の腕で隠してしまうから、五条はその腕をいつもどける。

今日もいつものように腕を掴んで頭の上に固定するーーーーと、五条の表情が一瞬にしてピキリと固まった。

「………えっ、???恵!?!?」

恵が、腕の下で泣いていた。

明らかに快楽による生理的なものではない涙がポロポロとこぼれ落ちて赤みを帯びた頰を伝っていく。
突然の恵の涙に、五条は一度動きをやめて恵の顔を両手で包む。

「…恵?どうしたの??なんで泣いてるの。」

自分に出せる精一杯の優しい声で恵に問いかける。包んだ両手で恵の頰を、頭を耳をゆっくり撫でる。

恵の泣いた顔、こんなにちゃんと見たの初めてだな、なんてぼんやり考える。
ーーそれよりも、この涙がとにかく心配だった。

「もしかして痛かった…?ごめんね、ゆっくりするからーー」

「……す、いません…違うんです…なんでもない、」

恵は手のひらでガシガシと目を乱暴にこすって落ち着こうとするが、次から次へと涙は溢れてくる。

「ね、お願いだから泣かないでよ、恵。
どうしたの?話して。」

恵が泣いてると、どういう訳かこっちまで泣きたい気分になってくる。
どうしようもなく胸が切なくなる。

数年前に恵の涙を初めて見た日から、この痛みは知っている。

「………きょう、」

「…ん?今日?」

恵が絞り出すように口を開いた。

「…今日、…ほんとは俺が全部、したかった、…いつも全部アンタがやるから、…たまには俺が、って、思った、…でも、」

「…うん。」

恵が小さくしゃくり上げる。

五条は急かさないで、ゆっくりと黒髪を髪を梳きながら続きを待った。

「…でも、ぜんぜんうまく、できねぇし、……結局先生自分で、挿れるし、……うまくできなかったから、鬱陶しいって、思われたのかもって、思ったら、」

また溢れてこぼれ落ちた涙を今度は五条が親指で優しく拭う。

恵、今日は自分でしたかったのか。
僕のためにローションもディルドまで自分で挿れてきて準備して、それなのに時間がかかってしまってうまくできなかったって思ってて。
それで僕に鬱陶しい奴だって思われたらどうしようって思ったら気づいたら泣いてたってこと?

欲情だけじゃなくて胸がぽかぽかと暖かいもので包まれるのを感じる。

「…なにそれ…恵、かわいすぎ」

「…っるさい、」

「ねえ、でもなんで今日はそんなに自分でやりたいの?」

それがさっきからずっと引っかかっていたのだ。恵が準備までしてきて、普段なら頼んでもやってくれそうにない騎乗位を自分からして。

恵が少し目を見開いて口を開ける。
ーーそして、小さくため息をついた。

「それはーーーアンタが今日誕生日だからに決まってんでしょ」

「………へっ???」

思わず恵の部屋の壁掛けカレンダーに目をやる。

今日の日付。12月7日。
確かに、今日は五条の生まれた日だった。

五条の頭の中で、すべての線が繋がっていく。

あしらわれ続けた数日間。自分ですべてやりたがった恵。

「っあっ、おい、でかくなって、」

「もしかして…僕の誕生日だから、全部恵がやってくれようとしたの…??」

「………そう、です。……去年、アンタが自分で言ってた。」

「ん?」

なんだか恥ずかしくなってきたのか、恵が視線を逸らしてボソボソと言う。

「…去年、アンタが自分の誕生日くらいは恵に自分でえっちに誘ってほしいな~って。…言ってた、から……」

もしかして嫌だったんですか?と言わんばかりの不安そうな目が上目遣いに五条の様子を伺う。

五条は無言で恵の体を力一杯抱きしめた。
抱きしめる力で、恵に嬉しかったと、ただただ恵のことが大好きなんだと伝えて、安心させたかった。

五条の他愛ない言葉をそのような言葉を覚えてくれて、実行のために頑張ってくれた恵が、とんでもなく愛おしかった。

「はーーーっ…確かに言ったわ、僕…」

「数日前からずっと準備してたから、先生と2人きりにならないように、なってもこういうのに雪崩れ込まないように、今日のために先生のこと避けてたんです。……それは、すみません。」

どうして今まで忘れていたのだろう。
怒っておらず、嫌われているのでもなければ。

「……こんな格好で言うのも嫌だけど、…五条先生、誕生日おめでとうございます。」

やっと泣き止んだ恵の目元が緩んで、少し笑う。

やっぱり、泣き顔よりも笑ってる方が好きだなぁ、なんて月並みなことを考える。

こんなに愛おしくて可愛らしい生き物がこの世に存在していいのだろうか。
それも、僕の腕の中で、僕と一緒に今を生きているなんて。

「ありがとね、恵。…自分からしてくれるえっちな恵も大好きだけど、いつもの恵ももちろん大好きだからね。…無理しなくていいんだよ。」

恵の顔がカッとまた赤くなって、多分、大好きって言葉に反応してナカが切なそうにキュウと締め付けてくる。

素直な反応に、こっちまで顔が熱くなりそうだ。

「べっ、…つに、無理してなんか、」

「うまくできなくて泣いてたじゃん♡」

「……忘れてください」

「はいはーい。……ね、動いていい?」

恵の目尻に残った雫を拭って、耳元にトーンを落とした声を吹き込む。

五条の目をまっすぐに見つめて、恵は頷く。

今の時刻、12月7日の午前0時少し過ぎ。
恵は精一杯腕を伸ばして五条の首に巻きつけて引き寄せて、誕生日を迎えたばかりの唇にそっとキスをした。

少し照れ臭そうに目を伏せる恵の顔を間近でたっぷりと見つめて、五条はとんでもなく幸せな心地で微笑んで恵を抱き締めた。

「あは、かわいい。大好き。…ずっとこうしてたいね、恵。」

「…まだこれからでしょ。…今日からはもう、逃げないんで。」

「わお、熱烈~♡」

「…うるさい。」

この温かい体をずっと抱きしめてたいな、なんて。

目の前の熱くて小さな舌を吸いながら、指を絡めて握りしめ合って体温を確かめながら、柄にもなく思ったりした。

一年に一度の誕生日が、更けていく。

~終~
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