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少女と妖精の里

第82話 すっかり忘れてたよ。

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 翌朝。
 お世話になったティターニア様にお礼を言って、私達は王都に戻ってきた。

 さすがに数日が経っているので、王都はもとの平穏を取り戻しているようだった。

 変わったことがあるとしたら、チラチラと視線は感じることぐらいかな? もうこんなの慣れっこだし、気にしても仕方ないんだけどね。

「わーっ! 人間がたくさんいるのです!」
「フィーちゃん。しぃー!」
「わわっ。ごめんなのです。初めて妖精の里から出たから、舞い上がっちゃったのです」
「ん。気持ちは分かる。あとでゆっくり見てまわろ?」
「やったのです! 楽しみなのです!」

 2人の微笑ましいやり取りを眺めながら、王都を歩いていると、遠くに私たちの拠点が見えてきた。

 ──そういえば婚活パーティの件は、どうなったんだろう? 帰ったらメリィちゃんに進捗を聞かないとなあー。


 婚活パーティのことを考えながら拠点の扉を開くと、メリィちゃんがすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。

「いったいどこに行ってたのニャッ!!」
「わわっ!!」
「私がどんな想いで、いままで待ってたと思ってるのニャ!!」
「く、苦しいよ。メリィちゃん」

 メリィはチカの襟首を掴むと、顔を真っ赤にしてユサユサと激しくチカを揺らした。

 ──そ、そういえばメリィちゃんに何も言ってなかったや。というか。締め付けがだんだん強く.......。

「お姉ちゃん。ただいま」
「マリー! 心配したのニャ! いったいどこに行ってたのニャ?」
「ん。妖精の里に行ってきた。どうしても我慢出来なかったの。ごめんね?」
「なるほどニャ。それなら仕方ないニャ! それで? 楽しかったかニャ?」
「ん。すごく楽しかった」
「ニャハハッ! それならよかったのニャ! でも今度からは、ちゃんと私に言ってから出かけてほしいのニャ!」
「ん! 分かった」

 メリィは優しく微笑むと、頷くマリーの頭を左手で優しく撫でた。

 2人の様子を眺めながら、シィーは呆れ顔でメリィの右肩をトントンっと叩いた。

「どうしたのニャ?」
「メリィ。そろそろ右手を離してあげたほうがいいと思うの。ほら、チカの顔が真っ青になってるの」
「あっ!!」

 メリィが手を離すと、チカはそのままフラリと仰向けに倒れたそうになったので、慌ててマリーが間に入り、チカを支える。

「チカっ!? 大丈夫!? 」
「うぅ............」
「チカー? しっかりするの! おーい」

 シィーはチカの頬をペチペチ叩くと、反応がないチカの様子を見て、首を横に振った。

「あー。これはダメそうなの......。完全に気を失ってるの」
「あわわっ!! ジョン爺!! すぐに回復ポーションを持ってくるのニャ!!」
「か、かしこまりました!!」


 マリーの肩に座っていたフィーは、顔を青ざめながらポツリと呟いた。

「あわわ。人間の街......。やっぱり恐ろしいところなのです......」


 ◆◇◆◇

 爽やかで心地いい風を肌に感じながら、私はテーブルに並べられたケーキをフォークで口元に運んだ。

 口の中に、フワッと広がる甘みと果物の風味を味わいながら、ゆっくり飲み込む。

「んーっ!! やっぱりここのケーキすごく美味しいよねー!」
「ふふっ。 気に入ってくれたみたいでよかったの!」
「また一緒に──」


 ──カ......。チ......。カ......。チカー!!


「わっ!!」

 大きな声に驚いて目を開けると、シィーが覗き込むように私の瞳を見つめていた。

「ここは......?」
「拠点の部屋にあるベットの上なの!」
「ベットの上? あっ......」

 ──そうか。私メリィちゃんに首を締められて気を失ってたのか......。

「思い出したみたいでよかったの! なんか寝ながらニヤニヤしてたから心配しちゃったの! 楽しい夢でも見てたの?」
「いや......。その。シィーと一緒にケーキを食べる夢を見てました......」
「はぁー? チカはどんだけケーキが好きなの? 食いしん坊にもほどがあるの!」
「うぐっ......」


 チカはベットから起き上がると、窓から外を眺めた。

 夕日に照らされた王都の建物が、綺麗なオレンジに色づいている。

「もう夕方? けっこう長い時間寝てた?」
「そうなの! だから見にきたの!」
「そっか。あっ、みんなは?」
「マリーとフィルネシアは街を観光しに出掛けたの! メリィは商業ギルドで、ジョンとマリアは下にいるの! あとは──」

 シィーの話を聞いていると、突然ドアからガチャッと扉を開くときの音が鳴った。

 アージェさんだ。

 アージェさんはベットにいる私と目が合うと、突然走りだし、私の胸の中に飛び込んできた。

「チカさん!! 目を覚まされたんですね──ッ!!」
「わっ! ちょっとアージェさん!?」
「ぐすっ。ひどいじゃないですか!! 私だけ置いていくなんてぇ!!」
「あー......」

 ──すっかり忘れてた。なんて言える雰囲気じゃないよね......。困ったなぁー。アージェさん泣いちゃってるよ......。

「ぐすっ。今までどこに行ってたんですか!? 私が一体どんな想いでいたのか分かりますか!?」

「えーと......」


 チカは困り顔で頭を掻きながら、助けを求めるように周囲に視線を送り、シィーの姿を探した。

 ──いない!? さっきまでいたじゃん! 一体どこに......。あっ!!

 シィーはチカの視線に気がつくと、窓の外からニッコリ笑顔でチカに向かって手を振った。

「ちょっ!!」

 チカがシィーの名前を呼ぼうと言葉を発した瞬間、シィーはチカの言葉を無視して、街の方へ飛んでいった。

 ──シィーのやつ!! 逃げやがった!!

「チカさん!? 私の話聞いてますか!? ちゃんとこっちを向いてください!!」

「はいっ!! 聞いてます!」


 チカがアージェから解放されたのは、それから2時間後のことだった......。
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