82 / 135
少女と妖精の里
第82話 すっかり忘れてたよ。
しおりを挟む
翌朝。
お世話になったティターニア様にお礼を言って、私達は王都に戻ってきた。
さすがに数日が経っているので、王都はもとの平穏を取り戻しているようだった。
変わったことがあるとしたら、チラチラと視線は感じることぐらいかな? もうこんなの慣れっこだし、気にしても仕方ないんだけどね。
「わーっ! 人間がたくさんいるのです!」
「フィーちゃん。しぃー!」
「わわっ。ごめんなのです。初めて妖精の里から出たから、舞い上がっちゃったのです」
「ん。気持ちは分かる。あとでゆっくり見てまわろ?」
「やったのです! 楽しみなのです!」
2人の微笑ましいやり取りを眺めながら、王都を歩いていると、遠くに私たちの拠点が見えてきた。
──そういえば婚活パーティの件は、どうなったんだろう? 帰ったらメリィちゃんに進捗を聞かないとなあー。
婚活パーティのことを考えながら拠点の扉を開くと、メリィちゃんがすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。
「いったいどこに行ってたのニャッ!!」
「わわっ!!」
「私がどんな想いで、いままで待ってたと思ってるのニャ!!」
「く、苦しいよ。メリィちゃん」
メリィはチカの襟首を掴むと、顔を真っ赤にしてユサユサと激しくチカを揺らした。
──そ、そういえばメリィちゃんに何も言ってなかったや。というか。締め付けがだんだん強く.......。
「お姉ちゃん。ただいま」
「マリー! 心配したのニャ! いったいどこに行ってたのニャ?」
「ん。妖精の里に行ってきた。どうしても我慢出来なかったの。ごめんね?」
「なるほどニャ。それなら仕方ないニャ! それで? 楽しかったかニャ?」
「ん。すごく楽しかった」
「ニャハハッ! それならよかったのニャ! でも今度からは、ちゃんと私に言ってから出かけてほしいのニャ!」
「ん! 分かった」
メリィは優しく微笑むと、頷くマリーの頭を左手で優しく撫でた。
2人の様子を眺めながら、シィーは呆れ顔でメリィの右肩をトントンっと叩いた。
「どうしたのニャ?」
「メリィ。そろそろ右手を離してあげたほうがいいと思うの。ほら、チカの顔が真っ青になってるの」
「あっ!!」
メリィが手を離すと、チカはそのままフラリと仰向けに倒れたそうになったので、慌ててマリーが間に入り、チカを支える。
「チカっ!? 大丈夫!? 」
「うぅ............」
「チカー? しっかりするの! おーい」
シィーはチカの頬をペチペチ叩くと、反応がないチカの様子を見て、首を横に振った。
「あー。これはダメそうなの......。完全に気を失ってるの」
「あわわっ!! ジョン爺!! すぐに回復ポーションを持ってくるのニャ!!」
「か、かしこまりました!!」
マリーの肩に座っていたフィーは、顔を青ざめながらポツリと呟いた。
「あわわ。人間の街......。やっぱり恐ろしいところなのです......」
◆◇◆◇
爽やかで心地いい風を肌に感じながら、私はテーブルに並べられたケーキをフォークで口元に運んだ。
口の中に、フワッと広がる甘みと果物の風味を味わいながら、ゆっくり飲み込む。
「んーっ!! やっぱりここのケーキすごく美味しいよねー!」
「ふふっ。 気に入ってくれたみたいでよかったの!」
「また一緒に──」
──カ......。チ......。カ......。チカー!!
「わっ!!」
大きな声に驚いて目を開けると、シィーが覗き込むように私の瞳を見つめていた。
「ここは......?」
「拠点の部屋にあるベットの上なの!」
「ベットの上? あっ......」
──そうか。私メリィちゃんに首を締められて気を失ってたのか......。
「思い出したみたいでよかったの! なんか寝ながらニヤニヤしてたから心配しちゃったの! 楽しい夢でも見てたの?」
「いや......。その。シィーと一緒にケーキを食べる夢を見てました......」
「はぁー? チカはどんだけケーキが好きなの? 食いしん坊にもほどがあるの!」
「うぐっ......」
チカはベットから起き上がると、窓から外を眺めた。
夕日に照らされた王都の建物が、綺麗なオレンジに色づいている。
「もう夕方? けっこう長い時間寝てた?」
「そうなの! だから見にきたの!」
「そっか。あっ、みんなは?」
「マリーとフィルネシアは街を観光しに出掛けたの! メリィは商業ギルドで、ジョンとマリアは下にいるの! あとは──」
シィーの話を聞いていると、突然ドアからガチャッと扉を開くときの音が鳴った。
アージェさんだ。
アージェさんはベットにいる私と目が合うと、突然走りだし、私の胸の中に飛び込んできた。
「チカさん!! 目を覚まされたんですね──ッ!!」
「わっ! ちょっとアージェさん!?」
「ぐすっ。ひどいじゃないですか!! 私だけ置いていくなんてぇ!!」
「あー......」
──すっかり忘れてた。なんて言える雰囲気じゃないよね......。困ったなぁー。アージェさん泣いちゃってるよ......。
「ぐすっ。今までどこに行ってたんですか!? 私が一体どんな想いでいたのか分かりますか!?」
「えーと......」
チカは困り顔で頭を掻きながら、助けを求めるように周囲に視線を送り、シィーの姿を探した。
──いない!? さっきまでいたじゃん! 一体どこに......。あっ!!
シィーはチカの視線に気がつくと、窓の外からニッコリ笑顔でチカに向かって手を振った。
「ちょっ!!」
チカがシィーの名前を呼ぼうと言葉を発した瞬間、シィーはチカの言葉を無視して、街の方へ飛んでいった。
──シィーのやつ!! 逃げやがった!!
「チカさん!? 私の話聞いてますか!? ちゃんとこっちを向いてください!!」
「はいっ!! 聞いてます!」
チカがアージェから解放されたのは、それから2時間後のことだった......。
お世話になったティターニア様にお礼を言って、私達は王都に戻ってきた。
さすがに数日が経っているので、王都はもとの平穏を取り戻しているようだった。
変わったことがあるとしたら、チラチラと視線は感じることぐらいかな? もうこんなの慣れっこだし、気にしても仕方ないんだけどね。
「わーっ! 人間がたくさんいるのです!」
「フィーちゃん。しぃー!」
「わわっ。ごめんなのです。初めて妖精の里から出たから、舞い上がっちゃったのです」
「ん。気持ちは分かる。あとでゆっくり見てまわろ?」
「やったのです! 楽しみなのです!」
2人の微笑ましいやり取りを眺めながら、王都を歩いていると、遠くに私たちの拠点が見えてきた。
──そういえば婚活パーティの件は、どうなったんだろう? 帰ったらメリィちゃんに進捗を聞かないとなあー。
婚活パーティのことを考えながら拠点の扉を開くと、メリィちゃんがすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。
「いったいどこに行ってたのニャッ!!」
「わわっ!!」
「私がどんな想いで、いままで待ってたと思ってるのニャ!!」
「く、苦しいよ。メリィちゃん」
メリィはチカの襟首を掴むと、顔を真っ赤にしてユサユサと激しくチカを揺らした。
──そ、そういえばメリィちゃんに何も言ってなかったや。というか。締め付けがだんだん強く.......。
「お姉ちゃん。ただいま」
「マリー! 心配したのニャ! いったいどこに行ってたのニャ?」
「ん。妖精の里に行ってきた。どうしても我慢出来なかったの。ごめんね?」
「なるほどニャ。それなら仕方ないニャ! それで? 楽しかったかニャ?」
「ん。すごく楽しかった」
「ニャハハッ! それならよかったのニャ! でも今度からは、ちゃんと私に言ってから出かけてほしいのニャ!」
「ん! 分かった」
メリィは優しく微笑むと、頷くマリーの頭を左手で優しく撫でた。
2人の様子を眺めながら、シィーは呆れ顔でメリィの右肩をトントンっと叩いた。
「どうしたのニャ?」
「メリィ。そろそろ右手を離してあげたほうがいいと思うの。ほら、チカの顔が真っ青になってるの」
「あっ!!」
メリィが手を離すと、チカはそのままフラリと仰向けに倒れたそうになったので、慌ててマリーが間に入り、チカを支える。
「チカっ!? 大丈夫!? 」
「うぅ............」
「チカー? しっかりするの! おーい」
シィーはチカの頬をペチペチ叩くと、反応がないチカの様子を見て、首を横に振った。
「あー。これはダメそうなの......。完全に気を失ってるの」
「あわわっ!! ジョン爺!! すぐに回復ポーションを持ってくるのニャ!!」
「か、かしこまりました!!」
マリーの肩に座っていたフィーは、顔を青ざめながらポツリと呟いた。
「あわわ。人間の街......。やっぱり恐ろしいところなのです......」
◆◇◆◇
爽やかで心地いい風を肌に感じながら、私はテーブルに並べられたケーキをフォークで口元に運んだ。
口の中に、フワッと広がる甘みと果物の風味を味わいながら、ゆっくり飲み込む。
「んーっ!! やっぱりここのケーキすごく美味しいよねー!」
「ふふっ。 気に入ってくれたみたいでよかったの!」
「また一緒に──」
──カ......。チ......。カ......。チカー!!
「わっ!!」
大きな声に驚いて目を開けると、シィーが覗き込むように私の瞳を見つめていた。
「ここは......?」
「拠点の部屋にあるベットの上なの!」
「ベットの上? あっ......」
──そうか。私メリィちゃんに首を締められて気を失ってたのか......。
「思い出したみたいでよかったの! なんか寝ながらニヤニヤしてたから心配しちゃったの! 楽しい夢でも見てたの?」
「いや......。その。シィーと一緒にケーキを食べる夢を見てました......」
「はぁー? チカはどんだけケーキが好きなの? 食いしん坊にもほどがあるの!」
「うぐっ......」
チカはベットから起き上がると、窓から外を眺めた。
夕日に照らされた王都の建物が、綺麗なオレンジに色づいている。
「もう夕方? けっこう長い時間寝てた?」
「そうなの! だから見にきたの!」
「そっか。あっ、みんなは?」
「マリーとフィルネシアは街を観光しに出掛けたの! メリィは商業ギルドで、ジョンとマリアは下にいるの! あとは──」
シィーの話を聞いていると、突然ドアからガチャッと扉を開くときの音が鳴った。
アージェさんだ。
アージェさんはベットにいる私と目が合うと、突然走りだし、私の胸の中に飛び込んできた。
「チカさん!! 目を覚まされたんですね──ッ!!」
「わっ! ちょっとアージェさん!?」
「ぐすっ。ひどいじゃないですか!! 私だけ置いていくなんてぇ!!」
「あー......」
──すっかり忘れてた。なんて言える雰囲気じゃないよね......。困ったなぁー。アージェさん泣いちゃってるよ......。
「ぐすっ。今までどこに行ってたんですか!? 私が一体どんな想いでいたのか分かりますか!?」
「えーと......」
チカは困り顔で頭を掻きながら、助けを求めるように周囲に視線を送り、シィーの姿を探した。
──いない!? さっきまでいたじゃん! 一体どこに......。あっ!!
シィーはチカの視線に気がつくと、窓の外からニッコリ笑顔でチカに向かって手を振った。
「ちょっ!!」
チカがシィーの名前を呼ぼうと言葉を発した瞬間、シィーはチカの言葉を無視して、街の方へ飛んでいった。
──シィーのやつ!! 逃げやがった!!
「チカさん!? 私の話聞いてますか!? ちゃんとこっちを向いてください!!」
「はいっ!! 聞いてます!」
チカがアージェから解放されたのは、それから2時間後のことだった......。
0
お気に入りに追加
701
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる