上 下
75 / 135
少女と妖精の里

第75話 ティターニアと漆黒の槍

しおりを挟む
 チカの婚活パーティー参加の宣言に、全員が揃って首をかしげた。

「「「「コンカツパーティー?」」」」

 聴き慣れない言葉に、メリィは瞳をキラキラさせながら、興味深げにチカに問いかけた。

「コンカツパーティーってなんなのニャ?」
「まさかこの世界にはないの!?」
「はじめて聞く言葉だニャ! それでそれで? それはなにをするのニャ!」
「えっとね。結婚したい人をたくさん集めて、パーティを開くんだよ!」
「それはいいアイデアだニャ!!」
「でしょっ!? ──ん? アイデア?」

「ふむ......。そうなると問題は集客かニャ。場所は......。いや、そのまえに......。ジョン爺! いまから商業ギルドに行くからついてくるニャ!!」
「メリィお嬢様、かしこまりました」

「えっ? ちょっと! メリィちゃん!?」

 マリーとジョンは扉を開けると、颯爽と外に出て行った。

 チカが唖然とした様子で、2人が飛び出していった扉の方向を見つめていると、マリーがチカの猫耳パーカーの裾をクイクイッと軽く引っ張る。

「ねえねえ。はやく妖精の里に行ってみたい。今からじゃダメ?」

「えっ? でももう夜も遅いし迷惑なんじゃないかな。 っていうか、メリィちゃん達はなんでこんな時間に商業ギルドに?」
「ん? お金稼ぎになるから」
「お、お金稼ぎ?」
「そう。マネされないように、商業ギルドに登録しにいった」
「あー、そういうことか」

 ──なるほど。メリィちゃんは、ああ見えて商会のトップだもんね。たったあれだけの説明で、すぐにお金になりそうって気がついたってことだ。

「きっとチカにもお金はいってくる。だから安心して?」
「えっ? お金?」
「ん。アイデア料。あとでお姉ちゃんから、また話があるはず」
「おーっ! お金も入って、婚活パーティーにも参加できる! 最高じゃん!」

 ──こっちの世界で、なにか収入になる仕事をしたかったからちょうどよかったかも。今度メリィちゃんに、マリッジカウンセラーのことや、セミナーとかのことも話してみようかな? これがうまくいったら冒険者を引退して、マリッジカウンセラーとして生きていくのも楽しいかも!

 思いを巡らせてニヤニヤしているチカの様子を見つめながら、ティターニアは優しく微笑んだ。

「ふふっ、ホントカエデにそっくり。シィーちゃんが羨ましいわ」
「ふふふっ!」
「私もついていこうかしら?」
「ええええっ!? 妖精の里はどうするつもりなの!?」
「そうよね......。そうだ。シィーちゃんが女王やってみる?」
「いやなの!! チカは私の契約者なの!」
「ふふっ、冗談よ、じょーだん♪」
「そうは見えなかったの......」
「それよりシィーちゃん。チカちゃんをほっといていいの? あのままだと大変なことになるかもしれないわよ?」
「あー。いいの! 危険はなさそうだし。それに......」
「あー、そういうことね......」

「面白そうなの!」
「面白そうだものね」

 同時にそう言うと、顔を見合わせてプッと吹きだし、楽しそうに笑いあった。


 ◆◇◆◇

 結局あのあと、マリーちゃんのお願いに負けて、妖精の里に戻ってきた。あの潤んだ瞳はずるいと思う。

「んんっー............」

 チカは妖精城の客室にあるソファーに座りながら、両手をあげて、足をピンっと伸ばしながら大きく伸びをした。

 疲労感と眠気を感じながら、テーブルに置かれたカップを手に取り、口元に運ぶ。

「2人とも戻ってこないなあ......」

 チカはカップをテーブルに置くと、寂しそうにポツリと呟いた。


 いま部屋には私しかいない。
 なんでかって?

 マリーちゃんが、初めてきた妖精の里に興奮して、私をおいてシィーと一緒に出ていっちゃったからだよ! 

 マリーちゃんが小さい頃からみてた絵本にでてくるんだってさ。この妖精の里って。ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶマリーちゃんなんて初めてみたよ。


 ──コンコン。

 チカが2人を待ってボーッとしていると、突然、扉を叩く音が鳴り響いた。

「はーい?」
「チカちゃん。いま少しいいかしら?」

 ティターニア様だ。

「あっ、大丈夫だよ?」
「ふふっ。急にごめんなさいね」

 ティターニアは客室に入ると、優しい微笑みを浮かべながら、ゆっくりとチカまで歩み寄りソファーに腰を下ろした。

「それでどうしたの? っていうか女王様が直接きて大丈夫なの?」
「えぇ。大丈夫よ。チカちゃんが気にするようなことじゃないわ。......そんなことよりシィーちゃんに聞いたの。もう一人のチカちゃんについて」
「あぁ......」

 ──そうでした。その件があったんでした。すっかり忘れてたや。

「それでね。ちょっとだけ私に、チカちゃんの武器を見せてもらえないかしら?」
「うん。もちろんいいよ」

 チカは猫耳パーカーのポケットからブリュナークを取り出した。ティターニアはそっと手を伸ばす。

「あっ! ちょっと──」
「きゃっ!?」

 ティターニアの指先がブリュナークに触れた瞬間、刹那の光を発して、雷鳴が鳴り響き、まるでティターニアを拒むかのように、稲妻が走る。

「こ、これは?」
「わっ! ごめんね? こういう武器なんだよ。いま持とうとしたんでしょ?」
「え、えぇ」
「今度は触るだけのつもりで触れてみて?」
「分かりました。で、でも大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だよ! 多分ね!」
「た、多分ですか......」

 ティターニアは息を呑み、恐る恐るブリュナークに手を伸ばした。

「ね? 大丈夫でしょ?」
「えぇ。不思議な武器ね。それになんて威圧感......。シィーちゃんがいってたことも分かるわ」
「あー。シィーは不気味っていってるね」
「ふふっ。シィーちゃんがごめんなさいね。きっと怖がっているのよ。だってこの槍の色。吸い込まれそうになるぐらい、真っ黒なんですもの」
「あはは......。それは分かるかも。私も初めて『彼女』がこの槍を見せてくれた時は、同じことを思ったもん」
「彼女とは?」
「それが......」

 私は元の世界で出会った『彼女』から、武器を譲り受けた経緯と、この世界で加護を使って創りだした経緯を簡潔に説明した。

 ティターニアは話を最後まで聞き終えると、ゆっくりと瞳を閉じた。

「──なるほど。そういうことでしたか......」
「なにか分かったの?」
「チカちゃんの言う『彼女』のことは分かりません。だけどこの槍からは意思を感じます」
「意思?」
「えぇ......。血に飢えた獣のように、全てを喰らい尽くしたいと渇望する強い意思を」
「えっ......?」

 ──なにそれこわい......。そういえば魔槍ブリュナークの元になった武器って、ケルト神話のブリューナクだよね? そんな物騒な武器だったのこれ。

 ティターニアは小さく息を吐くと、ゆっくりと瞳を開いた。

「しかしそれ以外の意思はないようですね」
「どういうこと?」
「神気を感じるのが気になるけど、おそらくもう一人のチカちゃんとは無関係ね。この槍からは原初的な感情。『殺意』しか感じないもの」
「............」

 ──それはそれで大問題だよね? なんだか頭痛くなってきた......。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...