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ニッケルの街
第32話 妖精と出逢ったよ!
しおりを挟む私は淡い光を発する木の枝を見上げながら予想外の出来事に言葉を失った。
「チビ人間! 私の言ってることがわからないの?」
チカは妖精の声にハッとして我に返ると、妖精を見つめながら、
「妖精さん。チビ人間って私のこと?」
「ぷぷっ! お前以外に誰がいるの? お馬鹿なの?」
妖精さんは口元を両手で押さえて楽しそうに笑っている。
──妖精と出逢ったのは初めてなのに......
「それに私は妖精さんなんて名前じゃないの。シィーって立派な名前があるの! シィー様って呼んでもいいのよ?」
そう言うと、シィーは得意げな表情で胸を張った。
──なんだろう......。この既視感は......?
「ちょっと!! チビ人間! 聞いてるの?」
またチビって言ったね。私が気にしていることを何度も。何度も......。
──ちょっとお仕置きが必要みたいだね。
私はシィーを無視して猫耳パーカーのポケットに手を入れてブリュナークを取り出した。
「ち、ちょっと!? チビ人間!! 一体なにをするつもりなの? 少し落ち着くの!! 短気はよくないと思うの!」
槍にほんの少しだけ魔力をこめると、小さな稲妻が槍の周囲に絡みつき輝きだした。
「私の名前はチカだよ。チビ人間じゃないよ?次そう呼んだら......」
「わかったの!! ちょっと言いすぎたの!」
魔力を霧散させてからブリュナークをポケットにしまうと、シィーはホッとした表情で「ふぅーっ!」っと大きく息を吐いた。
「まったくとんでもない奴なの。だいたいなんで私が見えてるの?」
「えっ? 普通は見えないの?」
「見えるわけねえの!」
「でも昔この村の人も妖精に出逢ったんじゃないの?」
「んー?」
シィーは可愛く首を傾げながら少し考えて。
ポンッと両手を叩いた。
「思い出したの! ポロポロと涙を流しながらフラフラした足取りで必死に森の中で探し物をしてた人間なの!!」
「そんな状態だったんだ......」
飢饉《ききん》って言ってたもんね。相当精神的に追い詰められてたのかも。
「あの人間は面白かったの! 暇だったからアイツの目の前にいきなり現れてやったの!」
「え?」
「そうしたら、ぴやぁっ!! って面白い叫び声をあげながら後ろにひっくり返って地面に後頭部をぶつけて気絶しちゃったの! ぷぷっ! あれは傑作だったのっ!!」
そう言うと、シィーはお腹を抱えてクスクスっと笑い声をあげた。
──おじちゃん......。慈愛に満ちた優しい笑顔の妖精様なんかいなかったよ。
「そのあと目を覚まして必死にお願いするから、このシィー様が精霊魔法で助けてあげたの。果物ができる植物とかをパパッ! と成長させたの!」
「精霊魔法ってそんなことができるんだ」
「当たり前なの! もっと色々なことができるの! これで少しはシィー様の偉大さがチカにもわかったんじゃないの~?」
シィーはニヤニヤしながら小さい手でチカの肩をポンポンと叩いた。次の瞬間。突然、顔色を変えてピクッと肩を震わせた。
「ん? ちょっと待つの......」
シィーは私の肩に触れたままゆっくりと瞳を閉じた。
「えっ? 急にどうしたの?」
数秒後。
シイーはゆっくりと目開けると、真面目な顔で私の目をジッと見つめて、
「──どうしてチカからこんなに濃い神気を感じるの?」
「えっ。神気ってなに?」
「簡単にいうと神の力や気配のことなの。神にあったことがある程度の濃さじゃないの。ありえないの......」
そんなこと言われても全然ピンとこない。なんだかすこし不安になってきたなあ......。
「えーと。よく分からないんだけど危ない状態ってわけじゃないんだよね?」
「そういうものではないの。チカは神なの?」
「ぶっ!? いやいやっ!! そんなわけないじゃん!」
この妖精は急に何を言い出すんだ。あっ! もしかして加護と関係あるのかな?
「ねえねえ。女神様からの加護と関係あったりするの?」
「関係ねえの。そんなレベルじゃねえの」
シィーは呆れたような表情で目を細めてジト目でチカを見つめた。
そんな目で見ないでほしい。良かれと思っていっただけだから......。
「んっー!!」
シィーは空中に浮きながら、可愛く腕を組んで考え込んでいる。
「よし!! 決めたの!」
「何を決めたの?」
「面白そうだからチカについていってあげるの!感謝するといいの!」
「遠慮しておきます」
「どうしてなの!?」
シィーは大きく目を見開いて驚いた表情で私の胸をペチペチと叩いてきた。
これ以上目立ちたくないからに決まってるじゃん。ただでさえ猫耳パーカーを着てる十分目立つのに、妖精なんて連れてたらどんな目で見られるか......。
私の頭がストレスでハゲちゃうよ。
「ふぅ......。分かったの。諦めるの......」
「ありがと。なんかごめんね?」
シィーは悲しそうな表情で首を横に振ると、スッと小さな手を私に差し伸べてきた。
「握手してほしいの。それで私はもう......。妖精女王のティターニアに誓うなの」
「うん! また遊びにくるね」
うつむいているシィーの小さな手を見つめながら優しく両手で包み込んだ。
「......遊びにくる必要はねえの」
「えっ?」
突然、シィーの小さな手を包み込んでいた両手からまばゆい光が溢れだした。
「ええええっ!?」
バッと顔を上げて視線を戻すと、シィーがニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべて私を見つめていた。
「あははっ!! 妖精との契約のことも知らねえの? こんな面白そうなことを私が諦めるわけねえの!!」
まばゆい光は輝きを増して、私とシィーを包み込んでいった。
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