上 下
69 / 105

恐れていたこと ⑤

しおりを挟む
「お前が身分を偽っているのを、今知っているのは俺とサイモンだけだ。レオナルド、これからのお前の身の振り方は、お前自身に任せる。その答えによっては、このことを陛下にお伝えするか、しないかを決めさせてもらう」

 何てことなんだ……。
 僕の答え次第で、これからのサイモンやオリバー家の処罰が変わる。
 考えないと、考えないと、考えないと……。
 ルーカス様の望まれている答えは、なに?
 ルーカス様の目を見ながら考えたが、何も思い浮かばない。

「答えは出たか?」
 そう問われ、僕は首を横に振る。
「では、そもそもの嘘を作り出したカトラレル家と、真実を知っておきながら黙っていたサイモン。そしてオリバー家のことは陛下に報告を……」

 そんな!
 僕のせいで!

「僕はなんと答えれば……、なんと答えればカトラレル家やサイモン、オリバー家は処罰を受けずに済むのですか?」
 その答えは教えてもらえないと思う。
 でも藁でもすがる思いで聞いてみた。

「サイモンと離縁し、俺の妃になれ」
「……え……?」
 思いもよらない答えに思考が止まる。

「どうして……、それは、どういう、意味で、しょうか……?」
 思うより先に言葉が出ていた。
「俺が何をどうしようが、お前には関係ない」
 ピシャリと言われてしまう。
「ですが……」
 そこまで言った時、ルーカス様にギロリと睨まれる。

 冷静になって考えてみた。
 僕はまだ今の段階ではサイモンの妻。
 それにルーカス様は第二王子という高貴な方。
 そのルーカス様が一度結婚したことのある人を、しかも僕みたいな人間を妃に……?

「お前が俺の妃になるのならば、カトラレル家よサイモンもオリバー家も不問とする。だが妃にならないのであれば……わかるな?」
 最後まで言われなくてもわかる。

 妃にならなければ、カトラレル家もサイモンもオリバー家も処罰される。
 カトラレル家には父様と母様、そして僕の妹か弟が母様のお腹にいる。
 僕のことを一人の人間として接してくれた、大好きなオリバー家の人たち。
 僕のことを『ミカエル様』と親しくしてくれた、街の人達。
 僕が嘘をついていても、知らないふりをして僕をそばに置いてくれた、僕の愛する人。サイモン……。
 僕の大切な人達の笑顔が浮かんでは、消えていく。
 僕のせいでなんの罪も犯していない人達が、処罰を受けるなんておかしい。
 路頭に迷うのはおかしい。
 今まで通り、幸せで穏やかに過ごしてほしい……。

「どうだ?答えは決まったか?」
 さらに僕の顎をグイッとルーカス様があげる。
「はい。決まりました」
「ほう、それで?」
 僕の答えは決まっている。
 大きく息を吸い込み、ふぅ~と小さく息をはく。
「僕はルーカス様の妃になります」
 ルーカス様の目をしっかりと見て、答えた。
しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...