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白い粉と訪問者 ③

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 要件を話し終えた母様は、すぐさま帰って行った。

 今日は忙しかったのか、サイモンの帰りは遅かったけれど、夕食は一緒に食べた。
 いつものように話し、いつものように笑い食事をしたが、どれも味がしない。食感は砂を食べているように、じゃりじゃりしている。

「ミカエル、何かあった?」
 いつも通りにしていたつもりだったが、サイモンには何かいつもと違うと感じ取られてしまったみたい。
「何もないよ」
 笑顔で答えると、サイモンが「おいで」と手招きをする。
 食事の途中だったが僕は席を立ち、サイモンの方へ向かうと、
「わっ!」
 サイモンは僕を抱き抱え、膝の上に座らせる。

「言いたくないなら聞かない。でも俺はどんなことでも聞きたい。ミカエルのとは全て受け止める。約束する。俺はミカエルの味方で、ミカエルは俺の全てだ。それを忘れないで」
 僕の髪を一束掬い取りキスをする。

「ありがとう……」
 サイモンの気持ちが嬉しくて、涙が出そうだった。
 でも僕は泣かない。泣く権利なんてない。
 僕は今からサイモンに酷いことをする、最低の人間なんだ。

 湯浴みを済ませお茶の用意をすると寝室に入った。
 サイモンはいつものようにベッドの背に体をもたれかけ、本を読んでいる。
 僕が部屋に入ってくると本を閉じ、上の布団をめくり、僕がベッドに入ってきやすいようにしてくれる。
 ハーブティーの用意をサイドテーブルに置き、ベッドの中に入る。
 ふわっとサイモンの香りがして抱きついた。

「ん?」
 愛おしむように頭を撫でてくれた。
「大好きだよ、サイモン」
 いつもは恥ずかしくて言えない言葉を伝えると、一瞬サイモンが目を丸くして僕を見、そのあとすぐに抱きしめてくれる。

「ミカエル愛してる」
 僕も愛してると答える代わりに、ぎゅっと抱きしめ返した。

 もうサイモンに「好き」や「愛してる」を言ったり、サイモンからの愛の言葉も、もらえない。
 いや、最初から僕はサイモンに、それらの言葉をもらえる立場ではない。

ーごめんなさいー

 心の中で呟いて、

「珍しいお茶が手に入ったんだ。一緒に飲もう」
 サイモンに「飲まない?」と聞かず、「飲もう」と誘い、ティーカップにお茶を入れる。

 サイモンに渡すティーカップの底には、母様に渡された痺れ薬と媚薬をはじめから入れてあり、僕は寝室に入る前にヒート促進剤を飲んでいる。
 いくら薬が無味無臭だと言っても、念には念を入れてハーブの香りが濃いお茶にした。

「熱いから気をつけてね」
 ソーサーをつけたティーカップをサイモンに手渡し、僕もティーカップを手にする。
「本当だ。いい香りがする」
 サイモンがハーブティーの香りを嗅ぐ。

 どうか気づかれませんように……。
 そして母様の言いつけが守れますように。
 どうか気づきますように……。
 そして全て本当のことが言えますように。

 ちぐはぐなことを心の中で願う。
 サイモンはティーカップを唇にあて傾けて、ごくんと一口飲んだ。
「美味しい。やっぱりミカエルはお茶を淹れるのが上手だな」
 そう言いながら、もう一口飲んだ。

 ああ、飲んでしまった。
 自分から仕掛けておきながら、もう引き返せことを恨んだ。
 さよならサイモン。
 今まで優しく包み込んでくれて、ありがとう。
 我慢していた涙が、はらりと一粒こぼれた。

「ミカエル?」
 僕の顔をサイモンが覗き込んだ時、サイモンは眉間に皺を寄せる。
「!?」
 薬が効いてきたのだろう。サイモンは持っていたティーカップをベッドのシーツの上に落とし、茶色のシミができる。
 だらんと腕の力が抜け、身動きがとれなさそうだ。

「ミカエル…何を……?」
 表情にだんだんと苦悶の色が浮かび上がってくる。
「ごめんねサイモン」
 痺れ薬と媚薬を混ぜ合わせた紅茶を飲ませてしまい、それしか言えない。

「そうじゃ、なくて……」
 サイモンは何か言いたそうにしていたが、それを聞く前に僕は媚薬で硬くそりかえったサイモンの楔を口にふくむ。

「く…っ!」
 口の中でサイモンの楔がドクンと脈打つ。
 すぐに口の中には精の味がして、蕾がヒクヒクし媚肉が疼く。

 先ほど飲んだヒート抑制剤が効き始め、自分でもわかるぐらいフェロモンの香りがする。
 いつもサイモンがしてくれるように、楔を吸い上げながら裏筋に舌を這わせる。
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