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「迎えにきたよ」
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宮殿ではサムナンと雅成の結婚式の準備が急ピッチで進められた。
国をあげての大々的なもので、祭りのようなものにもなっている。
雅成の体調はますます悪くなっていくが、誰にも悟られまいと気力で生きていた。
結婚式当日。
国民の前では純白のドレスを着て、サムナンと手を振りながらパレードするが、夜に開かれた闇のオークションでは、光の加減で虹色に輝く最高級のオーガンジーで作られた、オフショルダーのストレートドレスを着せられた。
生地が全てオーガンジーなので、身体のラインはすべて透けていて、乳首と楔の周りだけ散りばめられたダイヤで隠されている。
オークション会場の最上席に雅成とサムナンが現れると、客達が一斉に立ち上がり、頭を深々と下げた。
客席からは雅成を見て、うっとりとため息を漏らす者。
見惚れすぎ放心状態になる者。
自慰する者。
:悍(おぞ)ましい光景だった。
「それではオークションを始めます」
ステージ上で司会の男が、拉致した人達を売り捌いていく。
この日まで雅成は、どうにかオークションを辞めさせられないかと、無茶して手に入れた毒をサムナンに盛ったが、体調が少し悪くなっただけで特に変化なく、延期してもらえないか頼んでみたが変更されず、色々試行錯誤したが無理だった。
国外追放となった彼女達の消息もつかめず、嶺塚が動いている気配もない。
自分のしたことが正しかったのかと何度も考えた。
最後の女性も売られていき、ついに結婚の儀式が始まる。
ステージ上にベッドやソファー、拘束具が並べられ、今からこのステージ上で、サムナンは雅成を抱き夫婦の契りを交わす。
拓海以外に抱かれる。
これから先、雅成はサムナンに抱かれ続けることになる。
大切な人を傷付け犠牲にして、守らなければならないことのために、ここまで生きてきた。
だが今からサムナンに抱かれる。
愛する人ただ一人に貫かれていた身体は、もう彼だけに愛されてもいい身体ではなくなってしまう。
穢れた身体ではもう、二度と彼の元へは帰れない。
覚悟はしていたが、絶望で目の前が真っ暗になった。
拉致されてから拓海との記憶を胸に、微かに残されていた自分という存在が、音を立てて消滅していくようだった。
(拓海以外に貫かれるなら、今すぐにでも死んでしまいたい……。でも……)
まだ雅成は指使命が残っている。
犠牲者を出さないという使命が。
犠牲者は雅成で最後にしたかった。
心は死んでしまっても、病が雅成を生かし続ける限り、サムナンが好む雅成を演じ続けなければいけない。
雅成はゆっくり瞳を閉じる。
(さよなら……拓海……)
今まで心の:拠(よ)り所にしていた拓海を、美しく幸せだった記憶が穢されないよう奥深くに大切にしまいこみ、蓋をした。
「雅成、怖いことは何もない。わしに身を委ねればいいんだ。わしらがどれほど愛し合っているか、ここにいるみんなに見てもらおうじゃないか。さぁこっちへおいで」
ステージの中央でスポットライトを浴びたサムナンが、両手を広げる。
「はい……」
近付くと、サムナンは雅成の背後からドレスに手をかけ客席に見えるように脱がせていく。
虹色に輝くオーガンジーのドレスの下から、真珠のような艶めきの肌が現れる。
ドレスが床にストンと落とされると、会場から歓喜の響めきが湧き起こる。
「ああなんて美しいんだ」
雅成の肩に触れた手は、胸の突起におりてくる。
「たくさん可愛がってやろうな」
ねっとりと蛇のようなしたが、雅成の首を這った時、
ードカンッッ!ー
何かが爆破された音がし、会場の出入り口近くに土埃が舞う。
(え?)
雅成は爆音がした方を見ると、埃の中から銃で武装した兵士が次々に現れ、
「動くな!」
怒号がし、抵抗する間もなく客席が鎮圧される。
「お前達は何者だ!? 出てこい! ここをどこだと思っている!」
サムナンが姿を見せない指揮官に怒鳴りかける。
「……」
だが何も返事はない。
「姿を……姿を表せ! 殺してやる!」
見えない敵をサムナンはステージ上から一心不乱に探す。
すると落ち着きだした土煙の奥から、コツコツコツと靴音が聞こえる。
先ほどで威勢よく怒鳴っていたサムナンが固まり、靴音に耳を澄ませた。
規則正しい靴音と共に人影が現れ、
「迎えに来たよ」
愛しい人の声がした。
(まさか……)
幻聴かと思った。
でも幻聴でもよかった。
枯れた湖に水が染み渡るように、雅成の心にもその声が染み渡る。
「一緒に帰ろう」
土埃から徐々に姿を現した男が雅成に言った。
(まさか……)
「拓……海?」
信じられず問いかけた。
(本当に、拓海?)
次第に輪郭がはっきりし始め、疑いから確信に変わっていく。
「お前! お前! お前!!」
誰にも渡すまいと、雅成の腕を引き寄せようとしたサムナンは武装した兵士に取り押さえられた。
「遅くなってごめん」
拓海が雅成の目の前までやって来る。
「帰ろう。俺たちの家へ」
着ていた上着を雅成にかけると、真綿を包み込むように、雅成を抱きしめる。
「……うん」
涙で消え入りそうになる声で、雅成は返事をした。
国をあげての大々的なもので、祭りのようなものにもなっている。
雅成の体調はますます悪くなっていくが、誰にも悟られまいと気力で生きていた。
結婚式当日。
国民の前では純白のドレスを着て、サムナンと手を振りながらパレードするが、夜に開かれた闇のオークションでは、光の加減で虹色に輝く最高級のオーガンジーで作られた、オフショルダーのストレートドレスを着せられた。
生地が全てオーガンジーなので、身体のラインはすべて透けていて、乳首と楔の周りだけ散りばめられたダイヤで隠されている。
オークション会場の最上席に雅成とサムナンが現れると、客達が一斉に立ち上がり、頭を深々と下げた。
客席からは雅成を見て、うっとりとため息を漏らす者。
見惚れすぎ放心状態になる者。
自慰する者。
:悍(おぞ)ましい光景だった。
「それではオークションを始めます」
ステージ上で司会の男が、拉致した人達を売り捌いていく。
この日まで雅成は、どうにかオークションを辞めさせられないかと、無茶して手に入れた毒をサムナンに盛ったが、体調が少し悪くなっただけで特に変化なく、延期してもらえないか頼んでみたが変更されず、色々試行錯誤したが無理だった。
国外追放となった彼女達の消息もつかめず、嶺塚が動いている気配もない。
自分のしたことが正しかったのかと何度も考えた。
最後の女性も売られていき、ついに結婚の儀式が始まる。
ステージ上にベッドやソファー、拘束具が並べられ、今からこのステージ上で、サムナンは雅成を抱き夫婦の契りを交わす。
拓海以外に抱かれる。
これから先、雅成はサムナンに抱かれ続けることになる。
大切な人を傷付け犠牲にして、守らなければならないことのために、ここまで生きてきた。
だが今からサムナンに抱かれる。
愛する人ただ一人に貫かれていた身体は、もう彼だけに愛されてもいい身体ではなくなってしまう。
穢れた身体ではもう、二度と彼の元へは帰れない。
覚悟はしていたが、絶望で目の前が真っ暗になった。
拉致されてから拓海との記憶を胸に、微かに残されていた自分という存在が、音を立てて消滅していくようだった。
(拓海以外に貫かれるなら、今すぐにでも死んでしまいたい……。でも……)
まだ雅成は指使命が残っている。
犠牲者を出さないという使命が。
犠牲者は雅成で最後にしたかった。
心は死んでしまっても、病が雅成を生かし続ける限り、サムナンが好む雅成を演じ続けなければいけない。
雅成はゆっくり瞳を閉じる。
(さよなら……拓海……)
今まで心の:拠(よ)り所にしていた拓海を、美しく幸せだった記憶が穢されないよう奥深くに大切にしまいこみ、蓋をした。
「雅成、怖いことは何もない。わしに身を委ねればいいんだ。わしらがどれほど愛し合っているか、ここにいるみんなに見てもらおうじゃないか。さぁこっちへおいで」
ステージの中央でスポットライトを浴びたサムナンが、両手を広げる。
「はい……」
近付くと、サムナンは雅成の背後からドレスに手をかけ客席に見えるように脱がせていく。
虹色に輝くオーガンジーのドレスの下から、真珠のような艶めきの肌が現れる。
ドレスが床にストンと落とされると、会場から歓喜の響めきが湧き起こる。
「ああなんて美しいんだ」
雅成の肩に触れた手は、胸の突起におりてくる。
「たくさん可愛がってやろうな」
ねっとりと蛇のようなしたが、雅成の首を這った時、
ードカンッッ!ー
何かが爆破された音がし、会場の出入り口近くに土埃が舞う。
(え?)
雅成は爆音がした方を見ると、埃の中から銃で武装した兵士が次々に現れ、
「動くな!」
怒号がし、抵抗する間もなく客席が鎮圧される。
「お前達は何者だ!? 出てこい! ここをどこだと思っている!」
サムナンが姿を見せない指揮官に怒鳴りかける。
「……」
だが何も返事はない。
「姿を……姿を表せ! 殺してやる!」
見えない敵をサムナンはステージ上から一心不乱に探す。
すると落ち着きだした土煙の奥から、コツコツコツと靴音が聞こえる。
先ほどで威勢よく怒鳴っていたサムナンが固まり、靴音に耳を澄ませた。
規則正しい靴音と共に人影が現れ、
「迎えに来たよ」
愛しい人の声がした。
(まさか……)
幻聴かと思った。
でも幻聴でもよかった。
枯れた湖に水が染み渡るように、雅成の心にもその声が染み渡る。
「一緒に帰ろう」
土埃から徐々に姿を現した男が雅成に言った。
(まさか……)
「拓……海?」
信じられず問いかけた。
(本当に、拓海?)
次第に輪郭がはっきりし始め、疑いから確信に変わっていく。
「お前! お前! お前!!」
誰にも渡すまいと、雅成の腕を引き寄せようとしたサムナンは武装した兵士に取り押さえられた。
「遅くなってごめん」
拓海が雅成の目の前までやって来る。
「帰ろう。俺たちの家へ」
着ていた上着を雅成にかけると、真綿を包み込むように、雅成を抱きしめる。
「……うん」
涙で消え入りそうになる声で、雅成は返事をした。
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