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真実 ④
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吐血の原因はやはり病気のせいだった。
もうどうすることもできないところまできていて、残されたのは対処療法だけとなった。
それでも入院し、病院で提供される栄養の計算された食事で、雅成は少しずつ元気になっていった。
時々雅成がわがままを言って、拓海に高カロリーの料理を作ってもらい二人でこっそり食べ、後で看護師に見つかり怒られたりもした。
退院の日。
荷造りを終わらせて、いざ帰ろうとなった時、森本が病室に飛び込んできた。
「拓海様! 会長が……旦那様がお倒れになりました!」
「え!?」
倒れるまで体調が悪くなっていたとは思っていなかった雅成は、飛び込んできた森本を凝視した。
「容態は?」
驚く雅成の隣で、拓海は驚いてはいなかった。
「意識がありません。至急本宅までお越しください」
森本は落ち着いた口調だったが、声色は強張り緊急度合いを示している。
「わかった」
拓海が答えると、森本はホッと息を吐き微笑む。
「だが今すぐは無理だ。一度雅成を家に送って、体調が安定しているのが確認できてから行く」
安堵の表情だった森本の顔から笑みが消える。
「……わかりました。ではマンションの下で車を停めて、お待ちしています……」
拓海が出した条件はぎりぎりまで譲歩したものだと、森本も感じ取っているようだ。
「拓海、僕は病院で待ってるから、すぐにお義祖父様のところに行ってあげて」
そう言い、雅成は先ほど詰めた荷物をベッドの上に置き、荷解きを始める。
「雅成を置いては行けない」
荷物を広げる雅成の手を、拓海が止めた。
「病院にいた方が何かあった時、すぐに対応してもらえるから、家にいるより安心だよ」
本当は家に帰りたかった。
でも今、嶺塚のところに行かないと、せっかく埋まってきていた二人の溝が深くなりそうだった。
「でも……」
「僕もお義祖父様の容態が心配なんだ。だから行ってきて。ね、お願い」
重ねられた手の上に、雅成がさらに手を重ねた。
肉親の危篤より自分を選んでくれた。
それだけで嬉しかった。
長い沈黙の後、
「わかった……」
拓海は小さく言った。
「様子がわかったら、すぐに帰ってくる。それまでは安静にしててくれ。森本さん、雅成のそばにいてやってくれませんか?」
拓海は自分が不在の間を、森本に託す。
「わかりました」
森本が強く頷くと、拓海は雅成を抱きしめ、
「いい子で待ってて」
優しく微笑み額にキスをした。
「わかった。気をつけてね」
雅成は背伸びをして、拓海の唇にキスをする。
「行ってくる」
もう一度ギュッと雅成を抱きしめ、体を離すと拓海の表情と纏う空気がピリッと一気に変わる。
「車の用意を」
「はい!」
森本が頭を下げ、廊下でまつ部下に指示を出し、拓海が部屋を後にする。
雅成が初めて見る、拓海の険しい表情だった。
拓海は雅成が知らない何かを知り、一人で背負っているのかもしれないと雅成は思った。
もうどうすることもできないところまできていて、残されたのは対処療法だけとなった。
それでも入院し、病院で提供される栄養の計算された食事で、雅成は少しずつ元気になっていった。
時々雅成がわがままを言って、拓海に高カロリーの料理を作ってもらい二人でこっそり食べ、後で看護師に見つかり怒られたりもした。
退院の日。
荷造りを終わらせて、いざ帰ろうとなった時、森本が病室に飛び込んできた。
「拓海様! 会長が……旦那様がお倒れになりました!」
「え!?」
倒れるまで体調が悪くなっていたとは思っていなかった雅成は、飛び込んできた森本を凝視した。
「容態は?」
驚く雅成の隣で、拓海は驚いてはいなかった。
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森本は落ち着いた口調だったが、声色は強張り緊急度合いを示している。
「わかった」
拓海が答えると、森本はホッと息を吐き微笑む。
「だが今すぐは無理だ。一度雅成を家に送って、体調が安定しているのが確認できてから行く」
安堵の表情だった森本の顔から笑みが消える。
「……わかりました。ではマンションの下で車を停めて、お待ちしています……」
拓海が出した条件はぎりぎりまで譲歩したものだと、森本も感じ取っているようだ。
「拓海、僕は病院で待ってるから、すぐにお義祖父様のところに行ってあげて」
そう言い、雅成は先ほど詰めた荷物をベッドの上に置き、荷解きを始める。
「雅成を置いては行けない」
荷物を広げる雅成の手を、拓海が止めた。
「病院にいた方が何かあった時、すぐに対応してもらえるから、家にいるより安心だよ」
本当は家に帰りたかった。
でも今、嶺塚のところに行かないと、せっかく埋まってきていた二人の溝が深くなりそうだった。
「でも……」
「僕もお義祖父様の容態が心配なんだ。だから行ってきて。ね、お願い」
重ねられた手の上に、雅成がさらに手を重ねた。
肉親の危篤より自分を選んでくれた。
それだけで嬉しかった。
長い沈黙の後、
「わかった……」
拓海は小さく言った。
「様子がわかったら、すぐに帰ってくる。それまでは安静にしててくれ。森本さん、雅成のそばにいてやってくれませんか?」
拓海は自分が不在の間を、森本に託す。
「わかりました」
森本が強く頷くと、拓海は雅成を抱きしめ、
「いい子で待ってて」
優しく微笑み額にキスをした。
「わかった。気をつけてね」
雅成は背伸びをして、拓海の唇にキスをする。
「行ってくる」
もう一度ギュッと雅成を抱きしめ、体を離すと拓海の表情と纏う空気がピリッと一気に変わる。
「車の用意を」
「はい!」
森本が頭を下げ、廊下でまつ部下に指示を出し、拓海が部屋を後にする。
雅成が初めて見る、拓海の険しい表情だった。
拓海は雅成が知らない何かを知り、一人で背負っているのかもしれないと雅成は思った。
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