【完結】闇オークションの女神の白く甘い蜜に群がる男達と女神が一途に愛した男

葉月

文字の大きさ
上 下
54 / 77

真実 ④

しおりを挟む
 吐血の原因はやはり病気のせいだった。
 もうどうすることもできないところまできていて、残されたのは対処療法だけとなった。

 それでも入院し、病院で提供される栄養の計算された食事で、雅成は少しずつ元気になっていった。
 時々雅成がわがままを言って、拓海に高カロリーの料理を作ってもらい二人でこっそり食べ、後で看護師に見つかり怒られたりもした。

 退院の日。
 荷造りを終わらせて、いざ帰ろうとなった時、森本が病室に飛び込んできた。

「拓海様! 会長が……旦那様がお倒れになりました!」
「え!?」
 倒れるまで体調が悪くなっていたとは思っていなかった雅成は、飛び込んできた森本を凝視した。

「容態は?」
 驚く雅成の隣で、拓海は驚いてはいなかった。
「意識がありません。至急本宅までお越しください」
 森本は落ち着いた口調だったが、声色は強張り緊急度合いを示している。
「わかった」
 拓海が答えると、森本はホッと息を吐き微笑む。
「だが今すぐは無理だ。一度雅成を家に送って、体調が安定しているのが確認できてから行く」
 安堵の表情だった森本の顔から笑みが消える。

「……わかりました。ではマンションの下で車を停めて、お待ちしています……」
 拓海が出した条件はぎりぎりまで譲歩したものだと、森本も感じ取っているようだ。
「拓海、僕は病院で待ってるから、すぐにお義祖父様のところに行ってあげて」
 そう言い、雅成は先ほど詰めた荷物をベッドの上に置き、荷解きを始める。

「雅成を置いては行けない」
 荷物を広げる雅成の手を、拓海が止めた。
「病院にいた方が何かあった時、すぐに対応してもらえるから、家にいるより安心だよ」
 本当は家に帰りたかった。
 でも今、嶺塚のところに行かないと、せっかく埋まってきていた二人の溝が深くなりそうだった。

「でも……」
「僕もお義祖父様の容態が心配なんだ。だから行ってきて。ね、お願い」
 重ねられた手の上に、雅成がさらに手を重ねた。
 肉親の危篤より自分を選んでくれた。
 それだけで嬉しかった。

 長い沈黙の後、
「わかった……」
 拓海は小さく言った。

「様子がわかったら、すぐに帰ってくる。それまでは安静にしててくれ。森本さん、雅成のそばにいてやってくれませんか?」
 拓海は自分が不在の間を、森本に託す。
「わかりました」
 森本が強く頷くと、拓海は雅成を抱きしめ、
「いい子で待ってて」
 優しく微笑み額にキスをした。

「わかった。気をつけてね」
 雅成は背伸びをして、拓海の唇にキスをする。
「行ってくる」
 もう一度ギュッと雅成を抱きしめ、体を離すと拓海の表情と纏う空気がピリッと一気に変わる。
「車の用意を」
「はい!」
 森本が頭を下げ、廊下でまつ部下に指示を出し、拓海が部屋を後にする。

 雅成が初めて見る、拓海の険しい表情だった。
 拓海は雅成が知らない何かを知り、一人で背負っているのかもしれないと雅成は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

嫁さんのいる俺はハイスペ男とヤレるジムに通うけど恋愛対象は女です

ルシーアンナ
BL
会員制ハッテンバ スポーツジムでハイスペ攻め漁りする既婚受けの話。 DD×リーマン リーマン×リーマン

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...