【完結】闇オークションの女神の白く甘い蜜に群がる男達と女神が一途に愛した男

葉月

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真実 ①

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 喉の渇きで、雅成は目が覚めた。
 振り返ると拓海が雅成を抱きしめながら、穏やかな顔で眠っていた。
 時計を見ると9時。
 寝室で拓海と深く愛し合ってから、数時間しか経っていない。

 いつも冷静で穏やかな拓海が、どうしてあんなに取り乱し乱雑に雅成を抱いたのか、どうしてあんなに自己嫌悪に陥り、不安に押しつぶされそうになっていたのか、はっきりとは雅成にはわからなかった。
 でもなんに対しても敏感な拓海だ。
 ルイとの関係に気がついたのかもしれない。
 関係性には気づいていないかもしれないが、雅成とルイの間に何かあると、勘づいたのかもしれない。
 もしそうなら、ルイと会うのはしばらくやめたほうがいいのかもしれない。
 雅成は拓海の腕から抜け出すと、スマホを持ってキッチンに向かった。

 締め切られていたカーテンを開くと、眩しいくらいの日差しが部屋の中に入ってくる。

(今日も少しでも長く、拓海といられますように)

 太陽に向かって願い、スマホのロックを外す。

ーメールでごめんね。今日の約束、延期にしてもらってもいい?ー
 
 ルイに送った。
 するとすぐに

ーわかりました。またいい日があれば教えてくださいー

 返信がきた。
 理由を何も聞かずにいてくれて受け入れてくれたルイに感謝した。
 
 コーヒーメーカーのスイッチを入れエスプレッソを入れる。
 ガリガリと豆が引かれる音と、香ばしい香が広がる。
 喉が渇いていた。
 本当なら水を飲みたいところだが、最近はほとんど食べ物の味がしなくなっていて、少しでも味がするものが欲しかった。

 香はするのに味はしない。
 おかしな話に、雅成は自嘲気味に笑ってしまった。
 エスプレッソが入り、コーヒーメーカーが止まる。
 コップの持ち手に手を伸ばし、一口飲んだ。

(やっぱり……)

 予想はしていたが、もしかして今回は味化するのかもと期待していたが、現実はしなかった。

(誕生日の料理、味見してもきっとわからないから、ルイに分量を正確に書いたレシピをもらわないと)

 もう一口飲もうとコップに口をつけた時、気管に異物が入った時のように急激な激しい咳がでた。
 ゴホゴホと咳は続き、全身が痛む。
 苦しくて涙が浮かんだ。
 立っていられなくなって、座り込み咳が落ち着くのを待つ。

「雅成!?」
 拓海がキッチンに飛び込んで来た。
 返事をしたかったが、咳で返事ができない。

「雅成!?」
 咳こむ音で拓海は雅成を見つけ、雅成を抱きしめながら背中をさする。
「大丈夫……大丈夫……」
 穏やかな声で拓海が声をかけ続けた。
「大丈夫……大丈夫……」
 背中から伝わる拓海の体温は、優しく温かい。
 苦しいだけだった咳が、次第に落ち着いていき止まった。

 「大丈夫。俺がついてる。俺がついてるから……」
 咳が止まっても背中をさすってくれる。
 拓海に包みこまれ、雅成は目を瞑った。
「ベッドに行く?」
 聞かれ、雅成は「うん」と頷く。

 そっと拓海に抱き抱えられる。
 すーっと眠りに落ちていきそうになった時、急に胃の奥から何かが上に上がってきた。

ーゴポッツー

 嘔吐とも咳とも言えない音と共に、雅成の口から生暖かい液体が吐き出される。
「!!」
 雅成を見る拓海の目が見開かれ、真っ青になっていく。
「雅……」

ーゴポッツー

 拓海が名前を呼ぶ前に、もう一度生暖かい液体が吐き出された。
 雅成が恐る恐る液体がついた手を見ると、手も服も真っ赤に染まっている。
 口の中はネバネバしているが味はしない。
 臭いを嗅いでみると……。

(血……?)

 口元を拭うと、べっとりと血がついていた。
「雅成!!」
 雅成を抱き上げながら、拓海が叫ぶ。

ーゴポッツー

 もう一度吐く。
 みるみる拓海の顔が恐怖と不安に歪み、目には涙が溜まる。
「大丈……夫……、大丈……夫……」
 不安を和らげるため、雅成は拓海の頬に手を当てようとしたが、手が血で真っ赤に染まっているのに気付き途中でやめた。

「拓海……僕は……大丈……夫……」
 拓海に言い聞かせる。
「拓海……」
 意識が白くなり始めた。

(ああ、このまま死ぬのかな?)

 漠然と思った。
 嶺塚に余命を言い渡され、検査結果を知らされていたので、死に対して心づもりはしていたが、直面すると恐ろしい。
 でも拓海の腕の中で死ねたら本望だとも思った。
 すっと瞳を閉じた。

「死なせない……死なせない……!」
 拓海が雅成の体を強く抱きしめる。
 雅成を抱き抱えたまま、拓海は寝室に走り、スマホを掴み取る。

「すぐに車を回してください。雅成が血を吐いた」
 森本に電話をした。
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