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2人の出会い

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もうすぐ4月だというのに、まだ肌寒い3月の終わり。
つい先日、伊吹と蒼は同じ高校を卒業したばかりで、この4月からは晴れて同じ大学の大学生だ。

2人の実家から距離があるので、2人は一つの部屋をシェアハウスすることになったが、この2人は恋人同士なので…
同棲といってもいいだろう。

寺前 伊吹はベータだ。
162センチと少し低い背丈に、ベータには珍しく目を見張るほどの透明感のある肌に澄んだ瞳。
可愛い顔立ちで、伊吹が微笑めば、その場にいた人々は頬を赤らめるぐらいだ。
曲線美をもつ体つきは、可愛い中にも色気を醸し出していた。
が、本人としては女の子顔負けの可愛い顔立ちはコンプレックス。

そのせいか『可愛い』と言われることが大嫌いで、毛嫌いしている。
また、イケメンという人種も苦手だった。
自分にはない高身長と爽やかさとを、兼ね備えているからだ。

そんな中、出会ったのが、両親共にアルファで2人いる兄達もアルファ。
そして当人もアルファ。
アルファ一家の『東 蒼』(あずま あおい)だった。

彼は普通のアルファとは少し違っていた。
『自分は他の人とは違う』と人を見下したり、オメガを蔑んだりせず、
アルファもベータもオメガも分け隔てなく、接していた。

そんな蒼にどんな人も心奪われるのに時間はかからなかった。
伊吹もその1人。
だが、伊吹が他の人とは違っていたのは、蒼とお近づきになりたいと思わなかった事。

ただ遠くから見つめるだけで幸せだった。



だがそれは、運命なのか、偶然なのか……
その日は突然訪れた。

伊吹が二年生のある日………




「伊吹!避けろ‼︎」

体育の授業中バスケの試合があり、自分のチームが試合をする順番待ちをしていた伊吹は、仲の良かった友達との話に夢中になりすぎ、自分の方にボールが飛んできたのに気がつかず………

バンッ‼︎

伊吹の後頭部に強いボールが直撃した。

ん?

伊吹が状況を把握する前に、目の前がスローモーションに見え……
そのまま、暗い闇へと落ちていった。





ここは……

次に伊吹が目を覚ましたところは、保健室のベットの上だった。

えーっと…確か…
バスケの試合待ちをしてた時……
飛んできたボールが、頭を直撃して……
今、ここに至る…か。

保健室の天井を見つめながら、伊吹は記憶を辿る。

うん。
ちゃんと覚えてる。
打ち所は、悪くはなかったみたいだ……

少しずきんと痛む頭を押さえながら、伊吹が体を起こすと……

‼︎‼︎
誰⁉︎

伊吹が眠ってたベットには、一人の男子生徒がベットに組んだ腕を乗せ、その腕の上に頭を乗せて眠っていた。
その男子生徒を、よくよく見ると……

東 蒼⁉︎⁉︎

もともと綺麗な顔立ちだが、無防備に寝ている彼は、いつもにも増して魅力的だ。
保健室の窓から入る風が、蒼の艶やかな髪をたなびかせる。

綺麗な顔してるな~。
綺麗過ぎて、やっぱり近付き難い……
東くんが起きる前に、ここから退散しようかな…

なるべくイケメンとは関わりたくなかった伊吹は、蒼に気づかれないように、ベットからそーっと降りようとした時…

ん??

伊吹は自分の手を見た。

え?
なんで?

蒼は伊吹の手を、ギュッと握ったまま寝ていたのだった。
手をそーっと抜こうにも、しっかりと握られていて、抜けない。

どうしよう……
もう一度、抜けるか試してみよう…

ゆっくりと蒼の手から抜こうとすると……

!!

今度は強くぎゅっと握り返され…

起きた⁉︎

恐る恐る蒼の方を見ると、寝起きだが、うっとりするほど美しいその顔で伊吹は見つめられ、蒼が甘い声色で囁く。

「ねぇ、伊吹くん。俺と結婚を前提に付き合ってくれませんか?」
「‼︎」

言葉の意味が理解できずに、伊吹が固まっていると、蒼は伊吹の耳元に顔を寄せ、

「お願い。付き合って……」

伊吹の耳元で囁かれたその言葉は、まるで呪文のように伊吹を痺れさせ、

「…はい…」

伊吹は考える間もなく答えていた。
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