【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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贈り物と守りたいもの ②

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 ガゼボの周りにはたくさんの子供達と数人の大人の姿がみえる。

「父様~、母様~」
「殿下~、ユベール様~」
「アレキサンドロス様~、ユベール」
 僕達が近づくと、ガゼボの周りに集まっているのが誰かわかってきた。そこにはハイネとカイトくん達、そして孤児院の子ども達と牧師様、ヒューゴ様とクロエがいた。

 ガゼボの前には大きな敷物が敷かれていて、その周りを鉢に埋められている花が、いくつも並べられている。
 銀色のカートが数台あり、その上にはケーキタワーのほかに、大人数の朝食の用意と飲み物が置かれていた。

「これは……」
「あのね、あのね、父様と母様に僕達からのプレゼントだよ」
 とハイネ。

「僕達からも殿下とユベール様にお祝いできないか?ってヒューゴ様に相談したら『皆さん主催のお茶会はいかがですか?』って教えてくれたんだ」
 とカイトくん。

「でね、僕達はユベールが好きだったクッキー焼いてきたんだ」
 と孤児院の子ども達。

「皆さんとてもがんばって用意していましたよ」
 よくよく見ると、色々なところがリボンなどで装飾されている。

「あのね僕達、父様と母様にいっぱい助けてもらったんだよ。だから今とってもしあわせなんだ。結婚式には僕だけしか出られなかったけど、お祝いしたい気持ちはみんな一緒なんだ。でね、これ……」
 ハイネがカイトくんに目配せをすると、カイトくんは背中に隠していた、色とりどり紙で作られた王冠を二つ差し出す。

「綺麗な宝石は用意できなかったけど、僕達だけでつくったんだよ。殿下には王様の冠。ユベール様にはお姫様のティアラ。受け取って下さい」
 僕達の頭に冠をのせた。

「世界で一番の冠に、世界で一番嬉しいお茶会だよ」
 泣かずに笑顔で言おうと思ったけど、みんなの気持ちが嬉しくて涙が溢れる。
「もっと素敵な冠が用意できなくて、ごめんね」
 ハイネは僕が泣いているのは、悲しいからだと思っているようだ。

「違うよ。あのねすっごく嬉しい時でも涙は出るんだ。でね今の涙は嬉しい時の涙だよ」
「母様、嬉しいの?」
「うん!とっても嬉しい」
「父様、うれしい?」
「ああ、嬉しすぎて父様も泣きそうだ」
 アレクを見ると目には涙が浮かんでいる。

 そんな僕達の姿を見て、子供達は嬉しそうに「えへへ」と互いの顔を見合わせる。
「クッキーたくさん作ったから、みんなで食べよう」
 孤児院の子供達がクッキーを差し出す。
 形はふぞろいで焦げているものもあったけど、ひとつひとつどれをとっても優しい気持ちが溢れている。

「ありがとう。それじゃあ、みんなでいただきましょう」
 いつもの朝食は使用人達が、綺麗に並べてくれているものを食べているけど、今日は自分が食べたいものを自分で皿に取って食べる。
 孤児院の子ども達は、いつもは好き嫌いせず食べていけど、今日は特別。好きなものを好きなだけ食べられる。

 僕とアレクを囲むように子供達と、ヒューゴ様もクロエも牧師様も一緒に食べる。
 自然とたのしそうな笑い声が、あたりに響く。
 僕は……アレクと僕は僕たちは幸福に包まれてる。
 
 僕は思う。
 悲しい涙を流す人が少しでもいなくなるよう。
 生まれてくる命が皆、祝福されるよう。
 一歩ずつ一歩ずつ歩んでいこう。
 僕がアレクと出逢えた奇跡を忘れずにしよう。
 と。

 アレクと共に、この帝国を守り、争いのない、全ての人々が安心して過ごせる国を作ろう。
 子ども達の笑顔と未来を守っていこう。
 だからアレクと僕僕たちは手を取り、共に歩こう。

 僕は隣に座るアレクに抱きついた。
 そこからアレクの息遣いがわかる。体温が伝わる。心臓の音が響いてくる。
 アレクは生きている。生きて僕の隣にいてくれる。

「アレク、僕を探して出してくれて、ありがとう」
「ユベール、俺を選んでくれてありがとう」
 アレクは愛おしそうに僕の額に口付けし、抱き返してくれた。

「あ~父様だけずるい!」
「本当だ。殿下だけずるい」
「僕だって、ユベールとぎゅってしたい」
 子ども達が離そうとアレクを引っ張る。

「お前達がどんなに強く引っ張っても、俺はびくもしない。宣言する。俺がこの世で一番ユベールを愛してるからな」
 みんなの前で宣言され、顔から火が出るほど真っ赤になるのがわかる。

「そう言うことは、二人きりの時に言って!」
「二人きりの時は言ってもいいのか?」
「いつも囁いてくれるじゃない。……!」
 言ってしまったあとに、しまったと後悔しても、もう遅い。
 ここには子供達以外に、牧師様もヒューゴ様もクロエもいる。耳の後ろまで熱くなる。

「二人きりの時に囁く?」
「二人きりっていつ?」
 興味津々な顔の子供達に見つめられた。
「えっと……それは……」
 チラリとクロエに助けを求めたけど、クロエは『私は知りませんよ』というように、僕から視線を逸らす。

 そんな~。

 今度はヒューゴ様に助けを求めるが、クロエと同じ対応。牧師様も同じで……。

 どうしよう……。

 頭の中で色々考えていると、
「それは心から大切だと思った人と出逢えた時にわかる。それまでは大切な人を守れるよう、勉学に鍛錬に励め。そして俺のようになれ」
 アレクが言うと、
「うん、わかった!」 
 口々に子供達が答えた。

「勉学に鍛錬に励むことは素晴らしいですが、殿下のようになるのは考えものです。もっと素晴らしい人を目標にしなさい」
 アレクの最後の言葉を、ヒューゴ様がすかさず訂正する。

「俺だって素晴らしいだろ」
「いえ、手がかかります」
「手がかかるはないだろう。な、ユベール」
 同意をもとめられたけど、笑ってしまって返事ができないでいるとアレクが拗ねた。
「ほら、手がかかります」
「なに~!?」
 いつものようにアレクとヒューゴ様の掛け合いが始まり、周りにはポカンとする子ども達と大笑いする大人の姿があった。

 穏やかな日差しの下、花の香りと、そよそよと木々の間を通り抜ける風が心地いい。
 ずっとこんな日々が続けばいいのに。
 ずっとこんな日々が続くようにしよう。
 
 誰にも気づかれないようにアレクの手の上に、僕の手を重ね、指を絡める。
 アレクも僕以外には気づかれないように、絡めた指をしっかりと絡め返してくれる。
ー愛してるよ、アレクー
 心の中で、そうつぶやく。
 そして、この命尽きるまで、僕はこの手を離さないと誓った。

ーおわりー
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みんなの感想(35件)

iku
2023.12.04 iku
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葉月
2023.12.04 葉月

長編にも関わらず、最後まで読んで下さり、ありがとうございます🥹💖
初めは誤解と距離があったユベールとアレクでしたが、徐々に距離が近くなりお互い大切な存在になっていたのに、ジェイダの存在で距離が離れてしまい、嘘の罪で裁かれそうになり……😭
それでも互いに信じあい幸せを掴んでくれて、良かったです😊
これからは互いに尊敬しあえる関係でいて欲しいです☺️
いつもikuさんのコメントに力をいただいていました😍
また大賞後も読んでくださったこと、本当に嬉しかったです♥️
ありがとうございました❣️
こちらこ、これからもよろしくお願いいたします‪(*∩´꒳`∩*)

解除
iku
2023.12.04 iku
ネタバレ含む
葉月
2023.12.04 葉月

あの人‼️(私も呼びません(-᷅_-᷄))なんてことをするんでしょう‼️
わざわざユベールにそんなことをするなんて、酷い……。
アレクもアレクです‼️
ユベールを大切にしなさい‼️
それにユベールに近くマティアス……。
ユベールの周りは不振な動きばかりです💦

解除
iku
2023.12.04 iku
ネタバレ含む
葉月
2023.12.04 葉月

この時のマティアスは紳士的ですよね。
でもこの前のことがあるし……💦
信じていいのか⁉️
アレクがしっかりしないから、こんなことになるんだよ( ・᷅-・᷄ )

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