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真実 ③
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「一緒に、いられない……」
「!」
アレクはハッと息をのみ、その次に出てくる言葉が見つからないようだった。
「僕、ジェイダとのことで思ったんだ。アレクは帝国の第一王子。ゆくゆくは皇帝になる身だし、お世継ぎは必要なんだ。でも僕は男で、アレクの子供は絶対に授からない。だからアレクは女性の正室を迎えるべきなんだ。僕は心が狭いから、アレクとその女性が一緒にいる姿を、そばで見守ることができない。二人が愛し合っていると思うと、身が引き裂かれる思いなんだ。ねぇアレク、僕からの最後のお願いは、僕を後宮から追い出して。そしてアレクの子供を授かれる方を、正室迎え入れて」
ずっと考えていた。アレクには守るべき大切なものがある。
帝国のこと、国民のこと……。
それらを守るためアレクはずっと頑張ってきた。
僕がただアレクのそばにいたいからって想いだけで、アレクのそばにはいられない。
「……。そんなことのために、ユベールは俺の前からいなくなろうとしているのか?」
怒りを込めた目で睨まれ、背筋が凍る思いがしたのは束の間、すぐにアレクの瞳は深く傷ついた色に変わる。
今まで一人で抱え込んできたアレクに、僕がまた苦しい思いをさせている。
僕だってアレクのそばにいたい。そうすることで、僕だけ苦しい思いをするのであれば、そうしたい。
でも、きっと優しいアレクは、僕のために正室は迎え入れないだろう。そんなことはさせられない。
「ごめんねアレク。僕が女の人なら……。アレクの子供を授かる可能性があるのなら……」
「跡取りがいたら、ユベールは俺のそばにいてくれるんだな」
「え?」
「後継者がいれば、ユベールは俺のそばにいてくれるんだな」
「う、うん……。でもそんな子どもは……」
僕がそういうと、
「待ってろ」
アレクは部屋を飛び出した。そしてしばらくすると、金色の髪をした10歳ぐらいの男の子を連れてきた。
「この子は?」
「この前の調査に行っているとき、盗賊ひ襲われたキャラバンにいた唯一の生き残りだ」
「!唯一ってことは……」
「この子の親は、この子の目の前で殺されてしまっていた」
「そんな……」
こんな子どもが親が殺されるのを、目撃してしまっていたなんて……。
「この子を守ってくれる大人がおらず、俺が内密に連れて帰ってきて、ヒューゴに面倒をみさせていた。俺はこの子を後継者にしようと思っている。だからユベールが後継者を心配する必要はないんだ」
「え……?」
絶句してしまった。
「それって、僕と一緒にいたいからだけで、この子を後継者にしようとしているの!?」
沸々と怒りが込み上げてくる。
「この子の気持ちはどうなる?親がいなくなって、知らない土地に連れて来られて、自分を連れてきた人に有無も言わせず帝国の後継者になれって言うの?そんなことのために連れて帰ってきたの?アレクはなんてことを言うの?そんなの最低だ!」
信じられなかった。
アレクがこんな子供を、私利私欲のために使おうとしていたなんて。
「それは違う。犯人がマティアス達かもしれず、もしこの子が犯人を見ていたのなら、犯人は必ずこの子どもの命を奪いにくるだろう。だから連れて帰ってきたんだ。決して後継者にするつもりで連れて帰ってきたんじゃない」
「その時はそうかも知れないけど、今はこの子の将来の自由を奪おうとしているんだよ。どうしてそれがわからないの!?」
悔しくて涙が出る。俺が愛したアレクが、僕といることでここまで変わってしまったなんて。
このまま僕がここにいたら、アレクもこの子も幸せになれない。
「僕は出ていくよ」
くるりとアレクに背を向けて、歩き出そうとした時、
「待って!」
腕を掴まれた。
振り返ると、俺の腕を掴んでいたのは、あの男の子。
「!」
アレクはハッと息をのみ、その次に出てくる言葉が見つからないようだった。
「僕、ジェイダとのことで思ったんだ。アレクは帝国の第一王子。ゆくゆくは皇帝になる身だし、お世継ぎは必要なんだ。でも僕は男で、アレクの子供は絶対に授からない。だからアレクは女性の正室を迎えるべきなんだ。僕は心が狭いから、アレクとその女性が一緒にいる姿を、そばで見守ることができない。二人が愛し合っていると思うと、身が引き裂かれる思いなんだ。ねぇアレク、僕からの最後のお願いは、僕を後宮から追い出して。そしてアレクの子供を授かれる方を、正室迎え入れて」
ずっと考えていた。アレクには守るべき大切なものがある。
帝国のこと、国民のこと……。
それらを守るためアレクはずっと頑張ってきた。
僕がただアレクのそばにいたいからって想いだけで、アレクのそばにはいられない。
「……。そんなことのために、ユベールは俺の前からいなくなろうとしているのか?」
怒りを込めた目で睨まれ、背筋が凍る思いがしたのは束の間、すぐにアレクの瞳は深く傷ついた色に変わる。
今まで一人で抱え込んできたアレクに、僕がまた苦しい思いをさせている。
僕だってアレクのそばにいたい。そうすることで、僕だけ苦しい思いをするのであれば、そうしたい。
でも、きっと優しいアレクは、僕のために正室は迎え入れないだろう。そんなことはさせられない。
「ごめんねアレク。僕が女の人なら……。アレクの子供を授かる可能性があるのなら……」
「跡取りがいたら、ユベールは俺のそばにいてくれるんだな」
「え?」
「後継者がいれば、ユベールは俺のそばにいてくれるんだな」
「う、うん……。でもそんな子どもは……」
僕がそういうと、
「待ってろ」
アレクは部屋を飛び出した。そしてしばらくすると、金色の髪をした10歳ぐらいの男の子を連れてきた。
「この子は?」
「この前の調査に行っているとき、盗賊ひ襲われたキャラバンにいた唯一の生き残りだ」
「!唯一ってことは……」
「この子の親は、この子の目の前で殺されてしまっていた」
「そんな……」
こんな子どもが親が殺されるのを、目撃してしまっていたなんて……。
「この子を守ってくれる大人がおらず、俺が内密に連れて帰ってきて、ヒューゴに面倒をみさせていた。俺はこの子を後継者にしようと思っている。だからユベールが後継者を心配する必要はないんだ」
「え……?」
絶句してしまった。
「それって、僕と一緒にいたいからだけで、この子を後継者にしようとしているの!?」
沸々と怒りが込み上げてくる。
「この子の気持ちはどうなる?親がいなくなって、知らない土地に連れて来られて、自分を連れてきた人に有無も言わせず帝国の後継者になれって言うの?そんなことのために連れて帰ってきたの?アレクはなんてことを言うの?そんなの最低だ!」
信じられなかった。
アレクがこんな子供を、私利私欲のために使おうとしていたなんて。
「それは違う。犯人がマティアス達かもしれず、もしこの子が犯人を見ていたのなら、犯人は必ずこの子どもの命を奪いにくるだろう。だから連れて帰ってきたんだ。決して後継者にするつもりで連れて帰ってきたんじゃない」
「その時はそうかも知れないけど、今はこの子の将来の自由を奪おうとしているんだよ。どうしてそれがわからないの!?」
悔しくて涙が出る。俺が愛したアレクが、僕といることでここまで変わってしまったなんて。
このまま僕がここにいたら、アレクもこの子も幸せになれない。
「僕は出ていくよ」
くるりとアレクに背を向けて、歩き出そうとした時、
「待って!」
腕を掴まれた。
振り返ると、俺の腕を掴んでいたのは、あの男の子。
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