【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

文字の大きさ
92 / 109

アレクのいない日々 ②

しおりを挟む
 次の日、服の出来上がりは夕方だと言っていたのに、ティナはお昼過ぎには僕の元に服を持ってきてくれた。それはイメージ画として描いてくれていた服以上に美しいできだった。

 ティナはまた大急ぎで何着か作ってくるといってくれ「無理しないでね」といったものの、多分ティナは無理してでも作ってくれる。ティナはそういう人だ。

 昼食はいつまでも自室で食べるのもおかしいので、いつも食堂で食べることにした。
「あ……」
 いつも僕の向いの席はアレクの席。そこにも料理が用意されている。 

 席に付き、しばらくアレクの席を見る。
 いないはずなのに、その席にアレクが座っているように見える。
「暖かいうちに召し上がってください」
 クロエはそう言ったけど、
「もう少し待ってみるよ」
 僕はそう答えた。
 もしかして、もしかして、アレクが来てくれるかもしれないと、どこかで淡い期待があったから、待っていたかった。

 でもどれだけ待っても、アレクは来なかった。

 次の日も、その次の日も来なかった。
 食堂にはただ僕が座っているだけ。
「ユベール様、少しだけでも召し上がってください」
 一口、二口しか食べられない僕をクロエは心配してくれている。
 皿の上には手もつけられていない料理が残っている。これじゃあ食材が勿体無いし、料理人にも失礼だ。
「うん。そうだね、いただくよ。あとね、次の食事からアレクの分はここには出さなくていいよ」
 アレクはもうここにここには来てくれない。それを認めないと……。


 その日から午前中はクロエと刺繍をして、午後からは子ども達と過ごした。
 園庭の花々や子ども達の笑い声が僕を癒してくれる。
 夕方、子ども達が各家庭に帰った後、いつもはクロエと一緒に園庭を散歩するのが日だけど、今日は僕は一人になりたくてクロエとは別行動にした。

 花の香りを嗅いだり、たまに飛んでくる蝶々を眺めたり。心が落ち着くひと時。
 アレクがいない生活に早く慣れないと……。
 そんな気持ちに押し潰されそうになるのを、紛らわせた。

「ユベール?」
 後ろから声を掛けられ振り返ると、そこにはマティアス様の姿があった。
「やっぱりユベールだ。こんな所で何をしてるの?」
 マティアス様が僕の方に歩いて来る。

「少し散歩に……」
 今、マティアス様は一人だ。
 今日に限ってクロエと別行動にしたことが悔やまれた。
「俺は薔薇の手入れをしに来ていただけだから、そんなに警戒しなくても、大丈夫」
「警戒だなんて……」
「してるって。ほら顔が引き攣ってる」
 マティアス様は『あはは』と笑っている。

 マティアス様とお茶をした一件で、僕はマティアス様が少し苦手だ。
 でもそれを気づかれてはいけないと、反省した。

「とりあえず歩きながら話さないか?俺が手入れしている薔薇も見てほしいし」
「マティアス様と二人でですか?」
「今はクロエがいないから、そういうことになるね」
 マティアス様は二人きりの時『マティ』と呼んでほしいと言っていた。でも僕はアレクと『マティ』と呼ばないし、二人きりで会わないとも約束した。

「あの、それは……」
 僕が断りかけた時、
「この前のこと、すまなかった。ずっと謝りたかったんだ」
 僕が話すより先に、マティアス様が言った。

「あんなことをしてしまったのは、ユベールがアレク兄さんとだけ仲がいいのが悔しくて。でも後で考えると 私の行動は、ユベールからしてみればよく知りもしない人から、あんな言い方されると困るし怖いと思ってね。この前の失礼を許してほしい」
 そう言い、マティアス様は頭を下げる。
「頭をお上げください!」
「ユベールが許してくれるまで、頭を上げることはできない」

 どうしよう……。

 この前のマティアス様は威圧的で怖かったけど、今のマティアス様は真摯な態度で接してくれている。そんな人を、僕はいつまでも避けていてもいいのだろうか?

「僕はもうマティアス様のことを怖がっていませんし、避けたりもしません」
「本当か?」
 マティアス様はやっと顔を上げる。


「この前のマティアス様は少し怖いと感じましたが、今のマティアス様は怖くありません。だから僕もマティアス様と色々とお話したいと思います。ただ二つお願いがあるのです」
「なんでも言ってくれ」
「一つ目は、今後、僕とマティアス様は二人きりでは会わない。二つ目は、もし二人きりになったとしてもマティアス様のことは『マティ』と呼ばない。この二つです」
 この二つはアレクと約束したこと。だからもうアレクが僕のことを見てくれなくても、僕は守っていきたい。
「その約束必ずまもる。誓うよ」
 僕のお願いに嫌な顔せず、マティアス様は了承してくれた。

「本当はもう少しユベールと園庭を散歩したいが、二人きりになってしまうから今はやめておくよ。今度クロエか誰か他の侍女と一緒の時に散歩してくれないか?」
「ええ、もちろんです」
「よかった」
 マティアス様は安心したように微笑んでから、
「それじゃあ、また」
 と僕の前から去っていった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

生き急ぐオメガの献身

雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。 実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。 こうなることは最初からわかっていた。 それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。 健気オメガの切ない献身愛ストーリー!

処理中です...