【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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帰還 ③

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 アレクの書斎から、自室まで走った。すれ違う使用人たちは驚いたように僕を見て道をあける。

 走って走って走って……。
 勢いよく自室のドアを開け、そのままベッドに倒れ込んだ。泣き声が廊下に漏れないように、顔をベッドに押し付ける。

「ユベール様!?」
 クロエが僕の方に掛けてくる足音が聞こえる。
「……。何があったんですか?」
「うっ、ううっ……」
 クロエの声に、我慢していた涙が決壊したダムのように溢れてくる。我慢しようとしても嗚咽がもれる。

「大丈夫ですよ、大丈夫」
 僕の背中をクロエが何度も「大丈夫、大丈夫」と言いながら優しく撫でる。
「ユベール様にはクロエがついています。何があってもクロエはユベール様の味方です。さ、顔をあげてください。クロエにお顔を見せてください」
 僕の手をクロエが握り、僕がゆっくりと顔をあげると僕をしっかりと抱きしめる。クロエは僕に何も訊かない。ただ両手で僕の頬を包み込む。

「お茶の用意をしますね。急いで用意しますので、少しの間お待ちください」
 もう一度僕を抱きしめ、椅子を園庭がよく見える窓際まで運ぶと、その椅子に僕を座らせ、お茶の用意をしに部屋を出た。

 園庭を見ると、アレクと花の世話をしていたことが思い出される。あの時、僕に向けてくれていた笑顔は、どこへいってしまったんだろう?もうあの笑顔には会えないのだろうか?

 頬に涙が伝う。
 涙を拭くのも億劫で、涙は流れるまま頬をつたい服にシミをつけていく。

 今日のアレクの声色、視線、態度。
 どれも僕を煩わしいと思い、嫌っていそうだった。
 調査に行く時はあんなに優しかったのに、人が変わってしまったみたい。

 何があったの?そんなこと決まっている。
 ジェイダさんに出会ったから、僕は邪魔になったんだ。

 そもそも僕は偽り側室。僕のことをどうしようかなんて、アレクが決めることだ。
 今までが幸せすぎたんだ。僕がアレクのことを勝手に想っていただけなんだ。
 勝手に……。
 僕が勝手に落ち込むのも、悲しむのも、泣いてしまうのも、アレクにとっては面倒なこと。ごめんねアレク。僕はアレクの邪魔にならないように過ごしていくよ。


 クロエと作った料理は、クロエと一緒に食べた。
「作りすぎちゃったね」
 ほとんど残ってしまった料理を目の前にすると、一生懸命僕と作ってくれたクロエに申し訳ない。

「料理は余るぐらいがちょうどいいんです。それにこの料理は日持ちがしますので、料理人に言って保存してもらっておきましょう」
 下げてちょうだいとクロエが他の他の侍女に合図すると、食事は下げられた。

「ユベール様。今日の湯浴みは湯にラベンダーの製油を少し混ぜてみました。とてもよい香りがしますよ。さ、いきましょう」
 抜け殻のようになってしまった僕の手を、クロエが引いてくれる。
 服を脱がしてくれ湯船に浸からせてくれる。ラベンダーの香りがして、心地いい。
 いつもは体は自分で洗うけど今日は体が重くて何もできず、体も髪もクロエが洗ってくれた。パジャマに着替え、髪を溶かしてもらいベッドに入る。

「今日は私のお気に入りの話を、読んで差し上げますね」
 ベッドの近くに椅子を持ってきて、子供を寝かしつけるように本を読む。内容は頭に入ってこなかった。でもクロエの穏やかな声は心地よく、いつの間にか僕は眠りについていた。
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