【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

文字の大きさ
上 下
84 / 109

手作りの昼食 ①

しおりを挟む
 鳥の鳴き声で目が覚めた。隣を見ると、いつもは僕より早起きのアレクが珍しく寝息を立てながら眠っている。

「アレク、大好きだよ」
 そう言いながら黒い艶やかな髪に口付けをする。そっと引き締まった筋肉に触れる。だがその肌には無数の剣で切り付けられた跡がある。アレクは日々の鍛錬の時にできたと言っていたけど、多分それだけじゃないと思う。

 右頬を左掌で包み込むと長いまつ毛が少し揺れる。瞼で閉じられたルビーのような瞳を思い出すと、その瞳で見つめられたいと思う。
 それでも起こしてしまうのはやっぱり可哀想なので、アレクを起こさないようにそっとベッドから降り、クロエを呼びに行こうとドアノブに手をやると、
「その無防備な姿を俺以外に見せるつもりか?」
 後からアレクに抱きしめられる。

「クロエを呼びに行こうとしただけで……」
「それならベルで呼べばいいじゃないか」
「それだとアレクを起こしちゃうでしょ?」
「起こせばいい」
「あんなに気持ちよさそうに寝てるの、起こしたら可哀想だよ」
「俺はユベールが髪に口付けをしてくれた時から、目は覚めている」
「そんな前から眠ったふりをしていたの?」
「もっと口付けしてくれるかと思ってな」
 僕を抱きしめながら、アレクは僕の頬に口付けをする。柔らかなアレクの唇が頬に当たると、アレクを独り占めしたようで嬉しくなる。
 もう少しだけ、アレクを独り占めしたいな。

 僕はアレクに抱きしめられたまま、アレクと対面になるように、くるりと後を向き、そのままアレクの背中に腕を回す。
「ベッドに戻って、昨日できなかったマッサージして欲しいのか?」
 こくんと頷くと、アレクにヒョイっと抱き抱えられベッドに押し倒された。熱い眼差しでアレクは僕を見る。
 このまま口付け、されるのかな?僕はそっと瞳を閉じた。

ートントントンー

 ドアをノックする音がし、
「殿下、ユベール様、お目覚めの時間です」
 廊下からヒューゴ様の声がした。でもアレクは音を立てながら僕に口付けをする。
「殿下、ユベール様、お目覚めの時間です」
 またヒューゴ様の声がした。

「アレク、ヒューゴ様の声が……ン、ンンン……」
 まだ話の途中なのに、アレクの舌が僕の口内に入ってきて息があがる。

ートントントンー

「アレク様、起きてらっしゃるのはバレていますよ」
 そんなことは気にせず、口付けをしたまま僕のパジャマの中にアレクの手が入ってきて、乳首を摘まれ腰がビクンと飛び跳ねた。
ーダメだよアレク。ヒューゴ様が来てるー
 そう言いたいけど、口付けで口が塞がれていて何も言えない。

「そうですか……。では3数えたあと、ドアを開けさせていただきます。その間にユベール様から離れてくださいよ。では3、2、1……」
 僕は急いでアレクを押しのけたのと同時に、バンっと部屋のドアが開かれる。

「おはようございます」
 いつも通り爽やかな表情でヒューゴ様が部屋に入ってこられた。
「空気を読めヒューゴ」
「空気を読んだので今来たのです」
「じゃあもっと読め」
「これ以上は無理です」
 二人とも笑顔だが言葉はケンカしてそう。

「おはようございます、ユベール様」
 ヒューゴ様はアレクの後に隠れていた僕に近づき、ガウンを羽織らせてくれる。
「クロエが今、湯浴みの用意をしています。ご用意でき次第お声がけさせていただきますので、それまで少々お待ちください」
 僕には笑顔を見せていたヒューゴ様だったのに、アレクの方に向き直すと険しい顔になり、
「アレク様の湯浴みの用意はできています。湯浴み後、朝食がすみ出来次第、調査会議、その後皇帝陛下に報告、出発の日にちを決めます。お急ぎください」
 アレクにガウンを手渡す。

「せっかくのユベールとの朝が台無しだ。昼食と夕食は一緒に食べられるのか?」
「それはアレク様次第です」
 ヒューゴ様の言葉に明らかにアレクはムッとしている。このままでは会議に参加する騎士団員が震え上がるのは、目に見えている。こんなことでアレクの機嫌が良くなるとは思わないけど、
「アレク頑張って!」
 アレクに抱きついた。

 機嫌……なおったかな?
 チラリと見上げると、少し機嫌がよくなってそう。
 僕の頑張っての言葉だけで機嫌が良くなるアレクは、なんて可愛いんだろう。アレクのために僕がもっと何かできないかな?
 う~んと考え、いい考えが思いついた。
「ヒューゴ様、厨房お借りしてもいいですか?」
「ええ、それは構いませんが、どうされるんですか?」
「それはですね……。アレク、今日の昼食は僕が作って待っているから、会議頑張れる?」
「本当か!?」
 今にも飛び上がりそうになりながら、アレクは最上級に嬉しそうに笑顔を僕に向ける。
「凝ったものは作れないけど、食べたいものとかある?」
「ユベールが作ってくれたものが食べたい」
「それ、答えになってないよ~」
「それでもユベール手作りが、一番のご馳走だ。あ~今から昼食が楽しみだ」
 ついさっきまでご機嫌斜めだった人とは思えないほどの、上機嫌。コロコロ変わるアレクの表情が面白くて、可愛くて、愛おしい。

「頑張ってね」
 背伸びをし、アレクの頬に口付けをすると、そのままアレクにきつく抱きしめられる。
「あ~会議に行かずに、ずっとユベールと一緒にいたい」
「でもそうすると、僕、昼食作りに行けないよ」
「それは困る」
「じゃあ会議頑張れる?」
「頑張ってくる」
 名残惜しそうにアレクが僕から離れると、
「私はいつまでこんな茶番を見せられるんですか?さ、アレク様、行きますよ!」
 ヒューゴ様がアレクの腕を掴む。
「あ~ユベール~」
 アレクはヒューゴ様に引きずられるように、部屋から連れ出された。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士

倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。 フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。 しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。 そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。 ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。 夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。 一人称。 完結しました!

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

処理中です...