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手作りの昼食 ①
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鳥の鳴き声で目が覚めた。隣を見ると、いつもは僕より早起きのアレクが珍しく寝息を立てながら眠っている。
「アレク、大好きだよ」
そう言いながら黒い艶やかな髪に口付けをする。そっと引き締まった筋肉に触れる。だがその肌には無数の剣で切り付けられた跡がある。アレクは日々の鍛錬の時にできたと言っていたけど、多分それだけじゃないと思う。
右頬を左掌で包み込むと長いまつ毛が少し揺れる。瞼で閉じられたルビーのような瞳を思い出すと、その瞳で見つめられたいと思う。
それでも起こしてしまうのはやっぱり可哀想なので、アレクを起こさないようにそっとベッドから降り、クロエを呼びに行こうとドアノブに手をやると、
「その無防備な姿を俺以外に見せるつもりか?」
後からアレクに抱きしめられる。
「クロエを呼びに行こうとしただけで……」
「それならベルで呼べばいいじゃないか」
「それだとアレクを起こしちゃうでしょ?」
「起こせばいい」
「あんなに気持ちよさそうに寝てるの、起こしたら可哀想だよ」
「俺はユベールが髪に口付けをしてくれた時から、目は覚めている」
「そんな前から眠ったふりをしていたの?」
「もっと口付けしてくれるかと思ってな」
僕を抱きしめながら、アレクは僕の頬に口付けをする。柔らかなアレクの唇が頬に当たると、アレクを独り占めしたようで嬉しくなる。
もう少しだけ、アレクを独り占めしたいな。
僕はアレクに抱きしめられたまま、アレクと対面になるように、くるりと後を向き、そのままアレクの背中に腕を回す。
「ベッドに戻って、昨日できなかったマッサージして欲しいのか?」
こくんと頷くと、アレクにヒョイっと抱き抱えられベッドに押し倒された。熱い眼差しでアレクは僕を見る。
このまま口付け、されるのかな?僕はそっと瞳を閉じた。
ートントントンー
ドアをノックする音がし、
「殿下、ユベール様、お目覚めの時間です」
廊下からヒューゴ様の声がした。でもアレクは音を立てながら僕に口付けをする。
「殿下、ユベール様、お目覚めの時間です」
またヒューゴ様の声がした。
「アレク、ヒューゴ様の声が……ン、ンンン……」
まだ話の途中なのに、アレクの舌が僕の口内に入ってきて息があがる。
ートントントンー
「アレク様、起きてらっしゃるのはバレていますよ」
そんなことは気にせず、口付けをしたまま僕のパジャマの中にアレクの手が入ってきて、乳首を摘まれ腰がビクンと飛び跳ねた。
ーダメだよアレク。ヒューゴ様が来てるー
そう言いたいけど、口付けで口が塞がれていて何も言えない。
「そうですか……。では3数えたあと、ドアを開けさせていただきます。その間にユベール様から離れてくださいよ。では3、2、1……」
僕は急いでアレクを押しのけたのと同時に、バンっと部屋のドアが開かれる。
「おはようございます」
いつも通り爽やかな表情でヒューゴ様が部屋に入ってこられた。
「空気を読めヒューゴ」
「空気を読んだので今来たのです」
「じゃあもっと読め」
「これ以上は無理です」
二人とも笑顔だが言葉はケンカしてそう。
「おはようございます、ユベール様」
ヒューゴ様はアレクの後に隠れていた僕に近づき、ガウンを羽織らせてくれる。
「クロエが今、湯浴みの用意をしています。ご用意でき次第お声がけさせていただきますので、それまで少々お待ちください」
僕には笑顔を見せていたヒューゴ様だったのに、アレクの方に向き直すと険しい顔になり、
「アレク様の湯浴みの用意はできています。湯浴み後、朝食がすみ出来次第、調査会議、その後皇帝陛下に報告、出発の日にちを決めます。お急ぎください」
アレクにガウンを手渡す。
「せっかくのユベールとの朝が台無しだ。昼食と夕食は一緒に食べられるのか?」
「それはアレク様次第です」
ヒューゴ様の言葉に明らかにアレクはムッとしている。このままでは会議に参加する騎士団員が震え上がるのは、目に見えている。こんなことでアレクの機嫌が良くなるとは思わないけど、
「アレク頑張って!」
アレクに抱きついた。
機嫌……なおったかな?
チラリと見上げると、少し機嫌がよくなってそう。
僕の頑張っての言葉だけで機嫌が良くなるアレクは、なんて可愛いんだろう。アレクのために僕がもっと何かできないかな?
う~んと考え、いい考えが思いついた。
「ヒューゴ様、厨房お借りしてもいいですか?」
「ええ、それは構いませんが、どうされるんですか?」
「それはですね……。アレク、今日の昼食は僕が作って待っているから、会議頑張れる?」
「本当か!?」
今にも飛び上がりそうになりながら、アレクは最上級に嬉しそうに笑顔を僕に向ける。
「凝ったものは作れないけど、食べたいものとかある?」
「ユベールが作ってくれたものが食べたい」
「それ、答えになってないよ~」
「それでもユベール手作りが、一番のご馳走だ。あ~今から昼食が楽しみだ」
ついさっきまでご機嫌斜めだった人とは思えないほどの、上機嫌。コロコロ変わるアレクの表情が面白くて、可愛くて、愛おしい。
「頑張ってね」
背伸びをし、アレクの頬に口付けをすると、そのままアレクにきつく抱きしめられる。
「あ~会議に行かずに、ずっとユベールと一緒にいたい」
「でもそうすると、僕、昼食作りに行けないよ」
「それは困る」
「じゃあ会議頑張れる?」
「頑張ってくる」
名残惜しそうにアレクが僕から離れると、
「私はいつまでこんな茶番を見せられるんですか?さ、アレク様、行きますよ!」
ヒューゴ様がアレクの腕を掴む。
「あ~ユベール~」
アレクはヒューゴ様に引きずられるように、部屋から連れ出された。
「アレク、大好きだよ」
そう言いながら黒い艶やかな髪に口付けをする。そっと引き締まった筋肉に触れる。だがその肌には無数の剣で切り付けられた跡がある。アレクは日々の鍛錬の時にできたと言っていたけど、多分それだけじゃないと思う。
右頬を左掌で包み込むと長いまつ毛が少し揺れる。瞼で閉じられたルビーのような瞳を思い出すと、その瞳で見つめられたいと思う。
それでも起こしてしまうのはやっぱり可哀想なので、アレクを起こさないようにそっとベッドから降り、クロエを呼びに行こうとドアノブに手をやると、
「その無防備な姿を俺以外に見せるつもりか?」
後からアレクに抱きしめられる。
「クロエを呼びに行こうとしただけで……」
「それならベルで呼べばいいじゃないか」
「それだとアレクを起こしちゃうでしょ?」
「起こせばいい」
「あんなに気持ちよさそうに寝てるの、起こしたら可哀想だよ」
「俺はユベールが髪に口付けをしてくれた時から、目は覚めている」
「そんな前から眠ったふりをしていたの?」
「もっと口付けしてくれるかと思ってな」
僕を抱きしめながら、アレクは僕の頬に口付けをする。柔らかなアレクの唇が頬に当たると、アレクを独り占めしたようで嬉しくなる。
もう少しだけ、アレクを独り占めしたいな。
僕はアレクに抱きしめられたまま、アレクと対面になるように、くるりと後を向き、そのままアレクの背中に腕を回す。
「ベッドに戻って、昨日できなかったマッサージして欲しいのか?」
こくんと頷くと、アレクにヒョイっと抱き抱えられベッドに押し倒された。熱い眼差しでアレクは僕を見る。
このまま口付け、されるのかな?僕はそっと瞳を閉じた。
ートントントンー
ドアをノックする音がし、
「殿下、ユベール様、お目覚めの時間です」
廊下からヒューゴ様の声がした。でもアレクは音を立てながら僕に口付けをする。
「殿下、ユベール様、お目覚めの時間です」
またヒューゴ様の声がした。
「アレク、ヒューゴ様の声が……ン、ンンン……」
まだ話の途中なのに、アレクの舌が僕の口内に入ってきて息があがる。
ートントントンー
「アレク様、起きてらっしゃるのはバレていますよ」
そんなことは気にせず、口付けをしたまま僕のパジャマの中にアレクの手が入ってきて、乳首を摘まれ腰がビクンと飛び跳ねた。
ーダメだよアレク。ヒューゴ様が来てるー
そう言いたいけど、口付けで口が塞がれていて何も言えない。
「そうですか……。では3数えたあと、ドアを開けさせていただきます。その間にユベール様から離れてくださいよ。では3、2、1……」
僕は急いでアレクを押しのけたのと同時に、バンっと部屋のドアが開かれる。
「おはようございます」
いつも通り爽やかな表情でヒューゴ様が部屋に入ってこられた。
「空気を読めヒューゴ」
「空気を読んだので今来たのです」
「じゃあもっと読め」
「これ以上は無理です」
二人とも笑顔だが言葉はケンカしてそう。
「おはようございます、ユベール様」
ヒューゴ様はアレクの後に隠れていた僕に近づき、ガウンを羽織らせてくれる。
「クロエが今、湯浴みの用意をしています。ご用意でき次第お声がけさせていただきますので、それまで少々お待ちください」
僕には笑顔を見せていたヒューゴ様だったのに、アレクの方に向き直すと険しい顔になり、
「アレク様の湯浴みの用意はできています。湯浴み後、朝食がすみ出来次第、調査会議、その後皇帝陛下に報告、出発の日にちを決めます。お急ぎください」
アレクにガウンを手渡す。
「せっかくのユベールとの朝が台無しだ。昼食と夕食は一緒に食べられるのか?」
「それはアレク様次第です」
ヒューゴ様の言葉に明らかにアレクはムッとしている。このままでは会議に参加する騎士団員が震え上がるのは、目に見えている。こんなことでアレクの機嫌が良くなるとは思わないけど、
「アレク頑張って!」
アレクに抱きついた。
機嫌……なおったかな?
チラリと見上げると、少し機嫌がよくなってそう。
僕の頑張っての言葉だけで機嫌が良くなるアレクは、なんて可愛いんだろう。アレクのために僕がもっと何かできないかな?
う~んと考え、いい考えが思いついた。
「ヒューゴ様、厨房お借りしてもいいですか?」
「ええ、それは構いませんが、どうされるんですか?」
「それはですね……。アレク、今日の昼食は僕が作って待っているから、会議頑張れる?」
「本当か!?」
今にも飛び上がりそうになりながら、アレクは最上級に嬉しそうに笑顔を僕に向ける。
「凝ったものは作れないけど、食べたいものとかある?」
「ユベールが作ってくれたものが食べたい」
「それ、答えになってないよ~」
「それでもユベール手作りが、一番のご馳走だ。あ~今から昼食が楽しみだ」
ついさっきまでご機嫌斜めだった人とは思えないほどの、上機嫌。コロコロ変わるアレクの表情が面白くて、可愛くて、愛おしい。
「頑張ってね」
背伸びをし、アレクの頬に口付けをすると、そのままアレクにきつく抱きしめられる。
「あ~会議に行かずに、ずっとユベールと一緒にいたい」
「でもそうすると、僕、昼食作りに行けないよ」
「それは困る」
「じゃあ会議頑張れる?」
「頑張ってくる」
名残惜しそうにアレクが僕から離れると、
「私はいつまでこんな茶番を見せられるんですか?さ、アレク様、行きますよ!」
ヒューゴ様がアレクの腕を掴む。
「あ~ユベール~」
アレクはヒューゴ様に引きずられるように、部屋から連れ出された。
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