82 / 109
計画 ④
しおりを挟む
「こんばんは~」
「い、いらっしゃいませ……」
接客をしていた若い女性が怯えるた声で出迎る。
この酒場も僕とアレクが店内に入ると洋裁店、本屋と同じ反応。アレクが入っただけで店内の空気は凍りつき、入り口近くの人は、そのまま外に逃げ出そうとしている。
アレクの今までの悪評から考えると仕方のないことだけど、どこでもこんな反応をされるとアレクが可哀想……。
ちらりとアレクを見ると、
「おすすめの料理と酒を頼む」
びっくりするぐらい気にしている素振りはなく、どちらかといえば馴染みの店に入っているような雰囲気で、空いている椅子に座る。
「アレク、このお店来たことあるの?」
アレクの前の席に座りつつ、まさかと思いながらも訊いてみた。
「ない。でもユベールがいい店だと言うんだから、いい店だろうなと思っている。で、今度誰情報だ?」
なんだかそう言われると、アレクに全部見透かされていそうな気持ちになる。
「ヒューゴ様情報」
「へぇ~。あの真面目一辺倒のヒューゴがこんな店知っているとはな。意外だ」
「僕もそう思った」
いつもお忙しいヒューゴ様が城下にいかれていたことも、酒場に立ち寄られていたことも意外だった。
「ユベールもヒューゴのこと真面目一辺倒だと思っていたのか?」
アレクはにやりとする。
「ヒューゴ様は仕事に真面目でいつもお忙しいのに、色々ご存知だと思っただけ」
「そうか。ユベールはそう思っていたのか。では宮殿に帰ったらヒューゴに『ユベールがヒューゴのことを、真面目だけが取り柄』だと言っていたと伝えておこう」
「そんな言い方したら、真面目なのがいけないみたいじゃない。僕、そんな感じでなんて言ってない」
「そうなのか?」
本当は僕が言いたいことがわかっているのに、アレクはわざとわからない素振りをする。
「も~アレクのいじわる」
僕は頬を膨らませると、アレクはアハハと楽しそうに笑った。
今日初めてアレクは声を出して笑った。街の人たちの誤解がなくなったかはわからないけど、今、アレクはこの時間を楽しんでいていくれていることがわかって嬉しい。
「アレク、楽しい?」
僕が聞くと、
「ああ、楽しい」
またアレクが笑う。この笑顔が見れて、今日一緒に城下に来てよかったと思った。
「お待たせしました。一番人気の牛肉の味噌煮込み、ソーセージの盛り合わせ、ライ麦パン、それにビールです。ゆっくりしていってください」
お腹の大きな女将さんが料理を運んできてくれる。この女将さん、全くアレクを怖がったりしていない。どうしてなんだろう?
「あの、女将さんはアレクのこと、怖くないんですか?」
思ったのと同時に聞いていた。
「そりゃ怖いですよ。でもここに来られたお客さんは、誰であってもみんな笑顔でいてほしいって思っているんです」
女将さんは微笑み
「それにね、今街ではティナと本屋の店主が話す殿下の話で持ちきりなんですよ」
と、洋裁店や本屋で話した内容の話を聞かせてくれた。
「今まで聞いていた殿下の噂と違うって、みんな驚いていました。ティナも本屋の店主も『あんな素敵な方、お会いしたことがない』って二人して言ってたそうです」
今日あった出来事が噂となって、街の人たちに早く伝わればいいなとおもっていたけど、まさかこんなに早く噂になるなんて思ってもみなかった。
「僕もそう思います」
僕はアレクの本当の姿を少しでもわかってもらえたと思い、嬉しかった。
「実はあと一つ、素敵な話があるんです」
僕は最後の締めに入る。
「僕が宮殿についてはじめての食事は、僕が寂しい思いをしないようにって、アレクが僕が慣れ親しんだ故郷の料理を用意してくれて、小さい頃好きだったお菓子を、わざわざ用意してくれたりしたんだ。それまで家族のことを思うと寂しくなっていたのが、アレクのおかげで楽しかった思い出が蘇ってきんだ」
ずっと不安と恐怖しかなかった僕を助けてくれたのは、アレクだ。
だからみんなにそれを知ってもらいたい。
「アレクは……殿下は本当にお優しい方なんです」
そう言ってから、僕はアレクを見つめると、アレクは嬉しそうに微笑んだ。
「そうなんですね……」
女将さんの目が潤む。
「ちょっと待っててください」
女将さんが厨房に戻ると、奥から何か料理を持ってくる。
「当店自慢のポテトとベーコンのカリカリ焼き。これ店からのサービスです。よかったら食べてください」
料理がテーブルに置かれる。すると周りのお客さんから、
「女将あのワイン、会計は俺で殿下とユベール様のテーブルに運んでくれよ」
「俺はあのチーズと生ハムの盛り合わせ」
と声が上がり、それを皮切りに「俺も」「俺も」と声が上がる。
「はいはい、みんなの気持ちはわかったよ。順番に聞いていくから待ってて」
女将さんがお客さんのテーブルを周り、アレクと僕への注文を聞いて回る。そして、次から次へと運び込まれる料理で3つのテーブルがいっぱいになった。あまりの量でアレクと僕の二人では食べきれず、
「二人では食べきれぬ。みなも一緒にどうだ?」
アレクが店中のお客に声をかけると、一気にアレクの周りに人だかりができた。
よかった。僕はアレクとお客さんとを見ながら安堵する。
「ユベールは俺の隣りにこい。ユベールの隣りは俺だけの場所だ。だからユベールの隣りになるやつは一人席空けてから座れ」
アレクは僕を抱きしめる。
「もう人前でそんなことしないでよ」
恥ずかしさんで僕は爆発しそう。
「だめだ。これは大事なことだ」
そうアレクが言い切ると、
「ユベール様も大変だね」
女将さんがそう言い、周りから楽しそうな笑い声が上がった。店に入ってきた時にあった凍りついた空気は、今では豪快に笑う声が響く楽しい空気となる。
僕の計画は大成功に終わった。
「い、いらっしゃいませ……」
接客をしていた若い女性が怯えるた声で出迎る。
この酒場も僕とアレクが店内に入ると洋裁店、本屋と同じ反応。アレクが入っただけで店内の空気は凍りつき、入り口近くの人は、そのまま外に逃げ出そうとしている。
アレクの今までの悪評から考えると仕方のないことだけど、どこでもこんな反応をされるとアレクが可哀想……。
ちらりとアレクを見ると、
「おすすめの料理と酒を頼む」
びっくりするぐらい気にしている素振りはなく、どちらかといえば馴染みの店に入っているような雰囲気で、空いている椅子に座る。
「アレク、このお店来たことあるの?」
アレクの前の席に座りつつ、まさかと思いながらも訊いてみた。
「ない。でもユベールがいい店だと言うんだから、いい店だろうなと思っている。で、今度誰情報だ?」
なんだかそう言われると、アレクに全部見透かされていそうな気持ちになる。
「ヒューゴ様情報」
「へぇ~。あの真面目一辺倒のヒューゴがこんな店知っているとはな。意外だ」
「僕もそう思った」
いつもお忙しいヒューゴ様が城下にいかれていたことも、酒場に立ち寄られていたことも意外だった。
「ユベールもヒューゴのこと真面目一辺倒だと思っていたのか?」
アレクはにやりとする。
「ヒューゴ様は仕事に真面目でいつもお忙しいのに、色々ご存知だと思っただけ」
「そうか。ユベールはそう思っていたのか。では宮殿に帰ったらヒューゴに『ユベールがヒューゴのことを、真面目だけが取り柄』だと言っていたと伝えておこう」
「そんな言い方したら、真面目なのがいけないみたいじゃない。僕、そんな感じでなんて言ってない」
「そうなのか?」
本当は僕が言いたいことがわかっているのに、アレクはわざとわからない素振りをする。
「も~アレクのいじわる」
僕は頬を膨らませると、アレクはアハハと楽しそうに笑った。
今日初めてアレクは声を出して笑った。街の人たちの誤解がなくなったかはわからないけど、今、アレクはこの時間を楽しんでいていくれていることがわかって嬉しい。
「アレク、楽しい?」
僕が聞くと、
「ああ、楽しい」
またアレクが笑う。この笑顔が見れて、今日一緒に城下に来てよかったと思った。
「お待たせしました。一番人気の牛肉の味噌煮込み、ソーセージの盛り合わせ、ライ麦パン、それにビールです。ゆっくりしていってください」
お腹の大きな女将さんが料理を運んできてくれる。この女将さん、全くアレクを怖がったりしていない。どうしてなんだろう?
「あの、女将さんはアレクのこと、怖くないんですか?」
思ったのと同時に聞いていた。
「そりゃ怖いですよ。でもここに来られたお客さんは、誰であってもみんな笑顔でいてほしいって思っているんです」
女将さんは微笑み
「それにね、今街ではティナと本屋の店主が話す殿下の話で持ちきりなんですよ」
と、洋裁店や本屋で話した内容の話を聞かせてくれた。
「今まで聞いていた殿下の噂と違うって、みんな驚いていました。ティナも本屋の店主も『あんな素敵な方、お会いしたことがない』って二人して言ってたそうです」
今日あった出来事が噂となって、街の人たちに早く伝わればいいなとおもっていたけど、まさかこんなに早く噂になるなんて思ってもみなかった。
「僕もそう思います」
僕はアレクの本当の姿を少しでもわかってもらえたと思い、嬉しかった。
「実はあと一つ、素敵な話があるんです」
僕は最後の締めに入る。
「僕が宮殿についてはじめての食事は、僕が寂しい思いをしないようにって、アレクが僕が慣れ親しんだ故郷の料理を用意してくれて、小さい頃好きだったお菓子を、わざわざ用意してくれたりしたんだ。それまで家族のことを思うと寂しくなっていたのが、アレクのおかげで楽しかった思い出が蘇ってきんだ」
ずっと不安と恐怖しかなかった僕を助けてくれたのは、アレクだ。
だからみんなにそれを知ってもらいたい。
「アレクは……殿下は本当にお優しい方なんです」
そう言ってから、僕はアレクを見つめると、アレクは嬉しそうに微笑んだ。
「そうなんですね……」
女将さんの目が潤む。
「ちょっと待っててください」
女将さんが厨房に戻ると、奥から何か料理を持ってくる。
「当店自慢のポテトとベーコンのカリカリ焼き。これ店からのサービスです。よかったら食べてください」
料理がテーブルに置かれる。すると周りのお客さんから、
「女将あのワイン、会計は俺で殿下とユベール様のテーブルに運んでくれよ」
「俺はあのチーズと生ハムの盛り合わせ」
と声が上がり、それを皮切りに「俺も」「俺も」と声が上がる。
「はいはい、みんなの気持ちはわかったよ。順番に聞いていくから待ってて」
女将さんがお客さんのテーブルを周り、アレクと僕への注文を聞いて回る。そして、次から次へと運び込まれる料理で3つのテーブルがいっぱいになった。あまりの量でアレクと僕の二人では食べきれず、
「二人では食べきれぬ。みなも一緒にどうだ?」
アレクが店中のお客に声をかけると、一気にアレクの周りに人だかりができた。
よかった。僕はアレクとお客さんとを見ながら安堵する。
「ユベールは俺の隣りにこい。ユベールの隣りは俺だけの場所だ。だからユベールの隣りになるやつは一人席空けてから座れ」
アレクは僕を抱きしめる。
「もう人前でそんなことしないでよ」
恥ずかしさんで僕は爆発しそう。
「だめだ。これは大事なことだ」
そうアレクが言い切ると、
「ユベール様も大変だね」
女将さんがそう言い、周りから楽しそうな笑い声が上がった。店に入ってきた時にあった凍りついた空気は、今では豪快に笑う声が響く楽しい空気となる。
僕の計画は大成功に終わった。
24
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士
倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。
フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。
しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。
そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。
ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。
夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。
一人称。
完結しました!
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる