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計画 ④
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「こんばんは~」
「い、いらっしゃいませ……」
接客をしていた若い女性が怯えるた声で出迎る。
この酒場も僕とアレクが店内に入ると洋裁店、本屋と同じ反応。アレクが入っただけで店内の空気は凍りつき、入り口近くの人は、そのまま外に逃げ出そうとしている。
アレクの今までの悪評から考えると仕方のないことだけど、どこでもこんな反応をされるとアレクが可哀想……。
ちらりとアレクを見ると、
「おすすめの料理と酒を頼む」
びっくりするぐらい気にしている素振りはなく、どちらかといえば馴染みの店に入っているような雰囲気で、空いている椅子に座る。
「アレク、このお店来たことあるの?」
アレクの前の席に座りつつ、まさかと思いながらも訊いてみた。
「ない。でもユベールがいい店だと言うんだから、いい店だろうなと思っている。で、今度誰情報だ?」
なんだかそう言われると、アレクに全部見透かされていそうな気持ちになる。
「ヒューゴ様情報」
「へぇ~。あの真面目一辺倒のヒューゴがこんな店知っているとはな。意外だ」
「僕もそう思った」
いつもお忙しいヒューゴ様が城下にいかれていたことも、酒場に立ち寄られていたことも意外だった。
「ユベールもヒューゴのこと真面目一辺倒だと思っていたのか?」
アレクはにやりとする。
「ヒューゴ様は仕事に真面目でいつもお忙しいのに、色々ご存知だと思っただけ」
「そうか。ユベールはそう思っていたのか。では宮殿に帰ったらヒューゴに『ユベールがヒューゴのことを、真面目だけが取り柄』だと言っていたと伝えておこう」
「そんな言い方したら、真面目なのがいけないみたいじゃない。僕、そんな感じでなんて言ってない」
「そうなのか?」
本当は僕が言いたいことがわかっているのに、アレクはわざとわからない素振りをする。
「も~アレクのいじわる」
僕は頬を膨らませると、アレクはアハハと楽しそうに笑った。
今日初めてアレクは声を出して笑った。街の人たちの誤解がなくなったかはわからないけど、今、アレクはこの時間を楽しんでいていくれていることがわかって嬉しい。
「アレク、楽しい?」
僕が聞くと、
「ああ、楽しい」
またアレクが笑う。この笑顔が見れて、今日一緒に城下に来てよかったと思った。
「お待たせしました。一番人気の牛肉の味噌煮込み、ソーセージの盛り合わせ、ライ麦パン、それにビールです。ゆっくりしていってください」
お腹の大きな女将さんが料理を運んできてくれる。この女将さん、全くアレクを怖がったりしていない。どうしてなんだろう?
「あの、女将さんはアレクのこと、怖くないんですか?」
思ったのと同時に聞いていた。
「そりゃ怖いですよ。でもここに来られたお客さんは、誰であってもみんな笑顔でいてほしいって思っているんです」
女将さんは微笑み
「それにね、今街ではティナと本屋の店主が話す殿下の話で持ちきりなんですよ」
と、洋裁店や本屋で話した内容の話を聞かせてくれた。
「今まで聞いていた殿下の噂と違うって、みんな驚いていました。ティナも本屋の店主も『あんな素敵な方、お会いしたことがない』って二人して言ってたそうです」
今日あった出来事が噂となって、街の人たちに早く伝わればいいなとおもっていたけど、まさかこんなに早く噂になるなんて思ってもみなかった。
「僕もそう思います」
僕はアレクの本当の姿を少しでもわかってもらえたと思い、嬉しかった。
「実はあと一つ、素敵な話があるんです」
僕は最後の締めに入る。
「僕が宮殿についてはじめての食事は、僕が寂しい思いをしないようにって、アレクが僕が慣れ親しんだ故郷の料理を用意してくれて、小さい頃好きだったお菓子を、わざわざ用意してくれたりしたんだ。それまで家族のことを思うと寂しくなっていたのが、アレクのおかげで楽しかった思い出が蘇ってきんだ」
ずっと不安と恐怖しかなかった僕を助けてくれたのは、アレクだ。
だからみんなにそれを知ってもらいたい。
「アレクは……殿下は本当にお優しい方なんです」
そう言ってから、僕はアレクを見つめると、アレクは嬉しそうに微笑んだ。
「そうなんですね……」
女将さんの目が潤む。
「ちょっと待っててください」
女将さんが厨房に戻ると、奥から何か料理を持ってくる。
「当店自慢のポテトとベーコンのカリカリ焼き。これ店からのサービスです。よかったら食べてください」
料理がテーブルに置かれる。すると周りのお客さんから、
「女将あのワイン、会計は俺で殿下とユベール様のテーブルに運んでくれよ」
「俺はあのチーズと生ハムの盛り合わせ」
と声が上がり、それを皮切りに「俺も」「俺も」と声が上がる。
「はいはい、みんなの気持ちはわかったよ。順番に聞いていくから待ってて」
女将さんがお客さんのテーブルを周り、アレクと僕への注文を聞いて回る。そして、次から次へと運び込まれる料理で3つのテーブルがいっぱいになった。あまりの量でアレクと僕の二人では食べきれず、
「二人では食べきれぬ。みなも一緒にどうだ?」
アレクが店中のお客に声をかけると、一気にアレクの周りに人だかりができた。
よかった。僕はアレクとお客さんとを見ながら安堵する。
「ユベールは俺の隣りにこい。ユベールの隣りは俺だけの場所だ。だからユベールの隣りになるやつは一人席空けてから座れ」
アレクは僕を抱きしめる。
「もう人前でそんなことしないでよ」
恥ずかしさんで僕は爆発しそう。
「だめだ。これは大事なことだ」
そうアレクが言い切ると、
「ユベール様も大変だね」
女将さんがそう言い、周りから楽しそうな笑い声が上がった。店に入ってきた時にあった凍りついた空気は、今では豪快に笑う声が響く楽しい空気となる。
僕の計画は大成功に終わった。
「い、いらっしゃいませ……」
接客をしていた若い女性が怯えるた声で出迎る。
この酒場も僕とアレクが店内に入ると洋裁店、本屋と同じ反応。アレクが入っただけで店内の空気は凍りつき、入り口近くの人は、そのまま外に逃げ出そうとしている。
アレクの今までの悪評から考えると仕方のないことだけど、どこでもこんな反応をされるとアレクが可哀想……。
ちらりとアレクを見ると、
「おすすめの料理と酒を頼む」
びっくりするぐらい気にしている素振りはなく、どちらかといえば馴染みの店に入っているような雰囲気で、空いている椅子に座る。
「アレク、このお店来たことあるの?」
アレクの前の席に座りつつ、まさかと思いながらも訊いてみた。
「ない。でもユベールがいい店だと言うんだから、いい店だろうなと思っている。で、今度誰情報だ?」
なんだかそう言われると、アレクに全部見透かされていそうな気持ちになる。
「ヒューゴ様情報」
「へぇ~。あの真面目一辺倒のヒューゴがこんな店知っているとはな。意外だ」
「僕もそう思った」
いつもお忙しいヒューゴ様が城下にいかれていたことも、酒場に立ち寄られていたことも意外だった。
「ユベールもヒューゴのこと真面目一辺倒だと思っていたのか?」
アレクはにやりとする。
「ヒューゴ様は仕事に真面目でいつもお忙しいのに、色々ご存知だと思っただけ」
「そうか。ユベールはそう思っていたのか。では宮殿に帰ったらヒューゴに『ユベールがヒューゴのことを、真面目だけが取り柄』だと言っていたと伝えておこう」
「そんな言い方したら、真面目なのがいけないみたいじゃない。僕、そんな感じでなんて言ってない」
「そうなのか?」
本当は僕が言いたいことがわかっているのに、アレクはわざとわからない素振りをする。
「も~アレクのいじわる」
僕は頬を膨らませると、アレクはアハハと楽しそうに笑った。
今日初めてアレクは声を出して笑った。街の人たちの誤解がなくなったかはわからないけど、今、アレクはこの時間を楽しんでいていくれていることがわかって嬉しい。
「アレク、楽しい?」
僕が聞くと、
「ああ、楽しい」
またアレクが笑う。この笑顔が見れて、今日一緒に城下に来てよかったと思った。
「お待たせしました。一番人気の牛肉の味噌煮込み、ソーセージの盛り合わせ、ライ麦パン、それにビールです。ゆっくりしていってください」
お腹の大きな女将さんが料理を運んできてくれる。この女将さん、全くアレクを怖がったりしていない。どうしてなんだろう?
「あの、女将さんはアレクのこと、怖くないんですか?」
思ったのと同時に聞いていた。
「そりゃ怖いですよ。でもここに来られたお客さんは、誰であってもみんな笑顔でいてほしいって思っているんです」
女将さんは微笑み
「それにね、今街ではティナと本屋の店主が話す殿下の話で持ちきりなんですよ」
と、洋裁店や本屋で話した内容の話を聞かせてくれた。
「今まで聞いていた殿下の噂と違うって、みんな驚いていました。ティナも本屋の店主も『あんな素敵な方、お会いしたことがない』って二人して言ってたそうです」
今日あった出来事が噂となって、街の人たちに早く伝わればいいなとおもっていたけど、まさかこんなに早く噂になるなんて思ってもみなかった。
「僕もそう思います」
僕はアレクの本当の姿を少しでもわかってもらえたと思い、嬉しかった。
「実はあと一つ、素敵な話があるんです」
僕は最後の締めに入る。
「僕が宮殿についてはじめての食事は、僕が寂しい思いをしないようにって、アレクが僕が慣れ親しんだ故郷の料理を用意してくれて、小さい頃好きだったお菓子を、わざわざ用意してくれたりしたんだ。それまで家族のことを思うと寂しくなっていたのが、アレクのおかげで楽しかった思い出が蘇ってきんだ」
ずっと不安と恐怖しかなかった僕を助けてくれたのは、アレクだ。
だからみんなにそれを知ってもらいたい。
「アレクは……殿下は本当にお優しい方なんです」
そう言ってから、僕はアレクを見つめると、アレクは嬉しそうに微笑んだ。
「そうなんですね……」
女将さんの目が潤む。
「ちょっと待っててください」
女将さんが厨房に戻ると、奥から何か料理を持ってくる。
「当店自慢のポテトとベーコンのカリカリ焼き。これ店からのサービスです。よかったら食べてください」
料理がテーブルに置かれる。すると周りのお客さんから、
「女将あのワイン、会計は俺で殿下とユベール様のテーブルに運んでくれよ」
「俺はあのチーズと生ハムの盛り合わせ」
と声が上がり、それを皮切りに「俺も」「俺も」と声が上がる。
「はいはい、みんなの気持ちはわかったよ。順番に聞いていくから待ってて」
女将さんがお客さんのテーブルを周り、アレクと僕への注文を聞いて回る。そして、次から次へと運び込まれる料理で3つのテーブルがいっぱいになった。あまりの量でアレクと僕の二人では食べきれず、
「二人では食べきれぬ。みなも一緒にどうだ?」
アレクが店中のお客に声をかけると、一気にアレクの周りに人だかりができた。
よかった。僕はアレクとお客さんとを見ながら安堵する。
「ユベールは俺の隣りにこい。ユベールの隣りは俺だけの場所だ。だからユベールの隣りになるやつは一人席空けてから座れ」
アレクは僕を抱きしめる。
「もう人前でそんなことしないでよ」
恥ずかしさんで僕は爆発しそう。
「だめだ。これは大事なことだ」
そうアレクが言い切ると、
「ユベール様も大変だね」
女将さんがそう言い、周りから楽しそうな笑い声が上がった。店に入ってきた時にあった凍りついた空気は、今では豪快に笑う声が響く楽しい空気となる。
僕の計画は大成功に終わった。
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