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計画 ②
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まずはじめに僕たちが訪れたのは、街一番のお針子がいる洋裁店。
「こんにちは」
店にはお供も連れず、僕とアレクの二人で店内に入と、そこにいたすべての人が目を丸くし、そして次の瞬間、怯えた表情になる。
「い、いらっしゃいませ…」
店主であり、帝国一番と言われるお針子が出てきた。
確か彼女の名前は『ティナ』
「こんにちは。僕はユベール。貴方はティナさんだよね」
僕に名前を知られていたことが驚きだったようで、彼女は目を丸くした。
「貴方は帝国一番と名が知れているお針子。だから今日はアレクと僕の服を作ってもらいたいんだ」
僕は店内に漂う恐怖の雰囲気に気づかない様子を装い、元気に振る舞う。
「そんな!平民の私がお二人の服を作るなんて滅相もございません」
その言い方に怯えと恐れ多さが混ざっている。
「謙遜しなくていいよ。僕は貴方のデザインの服を着たいんだ」
「そんな……」
ティナさんが口籠ると、
「お前は俺とユベールの服を作りたくないと言いたいのか?」
アレクがギロリと睨む。するとおティナさんは「ヒィッ!」と恐怖で縮こまった。
「もう、ティナさんはそんなこといってないでしょ?そんな言い方したら誰だって怖いよ」
僕に指摘され、アレクはプイッと横を向く。
「僕達は服を作ってもらうお願いに来たんだから、ちゃんとお願いしないと」
僕は背伸びをし、横を向いたままのアレクの頬を人差し指でツンツンと突く。
「……」
アレクも心のどこかで自分の言い方が悪かったと思っていそうだか、それを認めたくなさそう。ここで僕の出番。
「僕もお願いするから、一緒にお願いしよう。ね、アレク」
僕が下から見上げると、口を尖らせたアレクがチラリと僕を見、僕はアレクの手を握る。
「よろしくお願いします」
そう僕が言うと、
「よろしく頼む」
アレクがそう続く。ティナがまた目を丸くしたかと思うと、次は怯えではなく笑顔になり、
「お任せください!」
笑顔で答えた。
まず先に僕の採寸をしてもらい、『どうしてお針子になりたいと思ったのか?』『いつお店を開いたのか?』など、ティナさんに関する質問を沢山すると、穏やかな空気になった。
僕の次はアレクの採寸。宮廷にいるテーラー以外に採寸されるのは初めてのアレクは、ティナさん以上に緊張しているようだ。
「アレク、緊張しているの?」
僕がそう聞くと、
「していない」
ふいっと顔を背けながら、そっけない返事。でもそれが小さな子が照れている素振りと重なって、周りの人々がアレクの行動を微笑ましく思う笑みが漏れた。
その様子をギロリとアレクが睨むとみんな震え上がったけど、僕が「アレク、睨まない」と嗜めると「すまない」とアレクが素直に謝ったので、みんなは意表を突かれたように僕とアレクを二度見した。
「殿下とユベール様は本当に仲がよろしいのですね」
緊張が解け始めたティナさんがそう言う。
今だ!
ずっとタイミングを狙っていた僕は、小さく息を吸い込んだ。
「そう! 仲良し。でも僕も初めは怖かったんだけどね、一緒に過ごしているうちに、アレクって本当にいい人なんだって気づいたんだ。だって、アレクが僕のために初めて作ってくれた服には、僕の故郷にしか咲いていない花を刺繍してくれてたんだよ。それに後宮に来た時僕、一枚も服を持ってきていなかったから、色々な服も大急ぎで作ってくれたりしたんだ」
できるだけ自然に。でもアレクが僕のためにしてくれたことを言った。
「まぁ、アレク様はそこまでユベール様に心を配ってられるんですね」
意外すぎるというように、ティナさんはアレクを見上げる。
「そうか?大切な人には笑顔でいて欲しいと思うものだろう」
さも当たり前のようにアレクが答えるので、周りにいたティナさんだけでなく貴婦人達も頬を赤らめ、アレクを見つめる。さすがの僕もアレクの予想外の言葉に驚き、嬉しくて胸の辺りがむずむずした。
採寸が終わり、出来上がった服はクロエと僕が受け取りに行くことにして洋裁店を出た。
「こんにちは」
店にはお供も連れず、僕とアレクの二人で店内に入と、そこにいたすべての人が目を丸くし、そして次の瞬間、怯えた表情になる。
「い、いらっしゃいませ…」
店主であり、帝国一番と言われるお針子が出てきた。
確か彼女の名前は『ティナ』
「こんにちは。僕はユベール。貴方はティナさんだよね」
僕に名前を知られていたことが驚きだったようで、彼女は目を丸くした。
「貴方は帝国一番と名が知れているお針子。だから今日はアレクと僕の服を作ってもらいたいんだ」
僕は店内に漂う恐怖の雰囲気に気づかない様子を装い、元気に振る舞う。
「そんな!平民の私がお二人の服を作るなんて滅相もございません」
その言い方に怯えと恐れ多さが混ざっている。
「謙遜しなくていいよ。僕は貴方のデザインの服を着たいんだ」
「そんな……」
ティナさんが口籠ると、
「お前は俺とユベールの服を作りたくないと言いたいのか?」
アレクがギロリと睨む。するとおティナさんは「ヒィッ!」と恐怖で縮こまった。
「もう、ティナさんはそんなこといってないでしょ?そんな言い方したら誰だって怖いよ」
僕に指摘され、アレクはプイッと横を向く。
「僕達は服を作ってもらうお願いに来たんだから、ちゃんとお願いしないと」
僕は背伸びをし、横を向いたままのアレクの頬を人差し指でツンツンと突く。
「……」
アレクも心のどこかで自分の言い方が悪かったと思っていそうだか、それを認めたくなさそう。ここで僕の出番。
「僕もお願いするから、一緒にお願いしよう。ね、アレク」
僕が下から見上げると、口を尖らせたアレクがチラリと僕を見、僕はアレクの手を握る。
「よろしくお願いします」
そう僕が言うと、
「よろしく頼む」
アレクがそう続く。ティナがまた目を丸くしたかと思うと、次は怯えではなく笑顔になり、
「お任せください!」
笑顔で答えた。
まず先に僕の採寸をしてもらい、『どうしてお針子になりたいと思ったのか?』『いつお店を開いたのか?』など、ティナさんに関する質問を沢山すると、穏やかな空気になった。
僕の次はアレクの採寸。宮廷にいるテーラー以外に採寸されるのは初めてのアレクは、ティナさん以上に緊張しているようだ。
「アレク、緊張しているの?」
僕がそう聞くと、
「していない」
ふいっと顔を背けながら、そっけない返事。でもそれが小さな子が照れている素振りと重なって、周りの人々がアレクの行動を微笑ましく思う笑みが漏れた。
その様子をギロリとアレクが睨むとみんな震え上がったけど、僕が「アレク、睨まない」と嗜めると「すまない」とアレクが素直に謝ったので、みんなは意表を突かれたように僕とアレクを二度見した。
「殿下とユベール様は本当に仲がよろしいのですね」
緊張が解け始めたティナさんがそう言う。
今だ!
ずっとタイミングを狙っていた僕は、小さく息を吸い込んだ。
「そう! 仲良し。でも僕も初めは怖かったんだけどね、一緒に過ごしているうちに、アレクって本当にいい人なんだって気づいたんだ。だって、アレクが僕のために初めて作ってくれた服には、僕の故郷にしか咲いていない花を刺繍してくれてたんだよ。それに後宮に来た時僕、一枚も服を持ってきていなかったから、色々な服も大急ぎで作ってくれたりしたんだ」
できるだけ自然に。でもアレクが僕のためにしてくれたことを言った。
「まぁ、アレク様はそこまでユベール様に心を配ってられるんですね」
意外すぎるというように、ティナさんはアレクを見上げる。
「そうか?大切な人には笑顔でいて欲しいと思うものだろう」
さも当たり前のようにアレクが答えるので、周りにいたティナさんだけでなく貴婦人達も頬を赤らめ、アレクを見つめる。さすがの僕もアレクの予想外の言葉に驚き、嬉しくて胸の辺りがむずむずした。
採寸が終わり、出来上がった服はクロエと僕が受け取りに行くことにして洋裁店を出た。
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