【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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マティアス ④

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「何って、お茶会ですよ、兄さん」
 マティアス様は優雅にお茶を飲む。
 アレク様は僕のそばまでやって来ると、僕の腕を掴みグイッと引き上げてから体を引き寄せた。

「そんなことは聞いていない。そこでユベールに何をしているんだと聞いているんだ」
「ああ、おしゃべりしてました。な、ユベール・・・・
 マティアス様はもう一口お茶を飲むと、僕に向けて微笑む。

「お前、今『ユベール』と馴れ馴れしく呼んだな?」
 みるみるアレク様の顔に怒りが込み上げてくる。
「ええ呼びました。だってユベールだって俺と二人きりの時は俺のこと『マティ』と呼んでくれると言ってくれましたし」
「そうなのか!?」
 怒りに満ちた顔でアレク様が僕を見る。
「……」

 何か答えなきゃ。
「ハイ……」
 答えると、アレク様はギリっと歯を噛み締めた。
「行くぞユベール」
 アレク様に痛いほど手首を掴まれ、僕を引っ張られながらマティアス様の元から離れる。


 握られた手首がじんじんし、引っ張られることで痛みが増す。アレク様が早足の大股で歩くので、僕は走らざるおえなかった。
「アレク様、痛いです……」
 そう訴えたが、アレク様は無言のまま進む。

「アレク様、痛い」
 腕を振り払おうにも、全く敵わない。
 どこに連れて行かれるんだろう?
 園庭を抜け後宮に入り僕の部屋に着くと、勢いよくベッドに押し倒される。

「マティアスのことを、マティと呼んだのか?」
 ギリリと睨まれる。
「はい……」
「ユベールと呼ばせたのか?」
「はい……」
「また二人で会うつもりなのか?」
「それは……」
『ないです』と答えるよりも先に、貪るような深い口付けをされた。
「ん……ンン……っ」
 初夜の時のように優しい口付けではなく、何か怒りをぶつけるような口付け。

 息をしようと唇を離そうとすると、力ずくで阻止される。
 このままでは、意識が……。

ーアレク様、やめてー

 心の中で言うが、アレク様には全く届いていない。
 意識が遠くなっていき体の力が抜け、腕がだらんとベッドに落ちた時、アレク様はやっと唇を離してくれた。

 胸いっぱいに息を吸い込むと、遠くなりかけていた意識が蘇る。
「ユベール、どうしてなんだ……。どうしてマティアスなんだ……」
 僕に覆い被さるアレク様の顔が、苦しそうに歪む。
「ユベールの特別は俺だけじゃなかったのか?」
 ポタリ。アレク様の紅い瞳から一雫の涙が僕の頬に落ちてくる。
 アレク様、泣いているの?
 右手の掌でそっとアレク様の頬を包み込むと、アレク様の不安そうな視線とぶつかった。
「ユベールの特別は俺ではなく、マティアスなのか?」
「まさか!」
 思うより先に言葉が出ていた。
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