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マナーのレッスン ⑤
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僕のせいで、先生が辞めさせられてしまう!
「待ってください! 明日までに、明日までにデビュタントのダンスを完璧にしてみせます!」
力強く言ったが、ハンナ先生は大きくため息をつく。
「あれだけ練習をして、ここまでしかできていないのに、一晩でどうするおつもりですか?」
「それは……」
どうするか具体的な計画なんてなかったけど、それでもどうしても自分のせいでダンスの先生を辞めさせたくなかった。
「なんとかします! なんとかしてみせます!」
「そうですか。ではお手なみ拝見させていただきます」
冷ややかな目で見られたけど、僕は負けないと心に決めた。
ハンナ先生に啖呵を切ったはいいけど、いい案なんてない。
さてどうしようかと考えている時、クロエの姿を見て、いい考えが思いついた。
「ねぇクロエ。一つ頼みがあるんだけど……」
「なんでしょうか?」
「実はねデビュタントのダンスを明日までに完璧に踊らないとだめなんだけどね」
「ええ、かなりの難問ですよね」
「でね、僕にダンスを教えてくれない?」
「え?」
「クロエ、なんでもできるからダンスも得意でしょ?」
「一応、ダンスは踊れますが……」
クロエはダンスが踊れると聞き希望が湧く。
「踊れるのは踊れますが、ユベール様のお相手役がいないと、踊れませんよね」
「……」
確かにそうだ。
クロエにダンスのステップや仕草は教えてもらえる。
でも、いざ踊るとなれば相手が必要。
一瞬、相手役をアレク様に頼もうかと思ったけど、頑張った成果は当日見てもらいたい。
そうすると頼める人は他にいないか……と考えていると、
「あ!!」
またまた名案が閃いた。
ー1、2、3、1、2、3、……ー
頭の中でリズムを数える。
ー1、2、3、1、2、3、……ー
今回は順調なはず。
ー1、2、3、1、2、……あ!!ー
ダンスパートナーの足を踏んでしまった。
「何度も踏んでしまって、ごめんなさい」
実は30分という短時間の間に、僕はパートナーをしてくれている人の足を5回も踏んだり蹴ったりしている。
「いえ、ユベール様は羽のようにお軽いので、全く大丈夫ですよ」
落ち込む僕の頭を、ダンスのパートナーになってくれたヒューゴ様が、優しく撫でてくれる。
「そんなことないですし、ヒールで何回も踏まれたらヒューゴ様の足が可哀想です」
「私の足が可哀想って……あははは」
ヒューゴ様が声を出して笑ったところを初めてみて、いつも冷静なヒューゴ様もこんな顔をなさるなんて知らなくて、びっくりした。
「そんなにおかしなことを言いましたか?」
変なことを言ってしまったのかと、頬が熱くなる。
「いえ、とても可愛いことをおっしゃられたので。殿下がユベール様のことを、大好きな気持ちがわかります」
そう言いながらもヒューゴ様は、またあははと笑い、
「もう一度、はじめから」
手を差し伸べてくれて、僕が手を重ねた。
ー1、2、3、1、2、3……ー
頭の中で数えていると、
「頭で考えずに、流れに身を任せてください」
リードするヒューゴ様が声をかけてくださる。
「そんなこと言われても……」
足が絡まりそうになる。
「大丈夫ですよ。私に任せて」
すっと手を引かれると、いつもつまずくところなのに、ヒューゴ様に導かれるように足は滑らかにステップを踏む。
「あ! できました!」
嬉しさで頬が高揚する。
「さすがです」
ヒューゴ様はそう言ってくださるけど、明らかにヒューゴ様のリードが上手いからだ。
僕も頑張らないと。
デビュタントではアレク様と踊る。
失敗は許されない。
頭の中でリズムをきず間ないように気をつけ、全体の流れに身を任せようと心がけた。
「待ってください! 明日までに、明日までにデビュタントのダンスを完璧にしてみせます!」
力強く言ったが、ハンナ先生は大きくため息をつく。
「あれだけ練習をして、ここまでしかできていないのに、一晩でどうするおつもりですか?」
「それは……」
どうするか具体的な計画なんてなかったけど、それでもどうしても自分のせいでダンスの先生を辞めさせたくなかった。
「なんとかします! なんとかしてみせます!」
「そうですか。ではお手なみ拝見させていただきます」
冷ややかな目で見られたけど、僕は負けないと心に決めた。
ハンナ先生に啖呵を切ったはいいけど、いい案なんてない。
さてどうしようかと考えている時、クロエの姿を見て、いい考えが思いついた。
「ねぇクロエ。一つ頼みがあるんだけど……」
「なんでしょうか?」
「実はねデビュタントのダンスを明日までに完璧に踊らないとだめなんだけどね」
「ええ、かなりの難問ですよね」
「でね、僕にダンスを教えてくれない?」
「え?」
「クロエ、なんでもできるからダンスも得意でしょ?」
「一応、ダンスは踊れますが……」
クロエはダンスが踊れると聞き希望が湧く。
「踊れるのは踊れますが、ユベール様のお相手役がいないと、踊れませんよね」
「……」
確かにそうだ。
クロエにダンスのステップや仕草は教えてもらえる。
でも、いざ踊るとなれば相手が必要。
一瞬、相手役をアレク様に頼もうかと思ったけど、頑張った成果は当日見てもらいたい。
そうすると頼める人は他にいないか……と考えていると、
「あ!!」
またまた名案が閃いた。
ー1、2、3、1、2、3、……ー
頭の中でリズムを数える。
ー1、2、3、1、2、3、……ー
今回は順調なはず。
ー1、2、3、1、2、……あ!!ー
ダンスパートナーの足を踏んでしまった。
「何度も踏んでしまって、ごめんなさい」
実は30分という短時間の間に、僕はパートナーをしてくれている人の足を5回も踏んだり蹴ったりしている。
「いえ、ユベール様は羽のようにお軽いので、全く大丈夫ですよ」
落ち込む僕の頭を、ダンスのパートナーになってくれたヒューゴ様が、優しく撫でてくれる。
「そんなことないですし、ヒールで何回も踏まれたらヒューゴ様の足が可哀想です」
「私の足が可哀想って……あははは」
ヒューゴ様が声を出して笑ったところを初めてみて、いつも冷静なヒューゴ様もこんな顔をなさるなんて知らなくて、びっくりした。
「そんなにおかしなことを言いましたか?」
変なことを言ってしまったのかと、頬が熱くなる。
「いえ、とても可愛いことをおっしゃられたので。殿下がユベール様のことを、大好きな気持ちがわかります」
そう言いながらもヒューゴ様は、またあははと笑い、
「もう一度、はじめから」
手を差し伸べてくれて、僕が手を重ねた。
ー1、2、3、1、2、3……ー
頭の中で数えていると、
「頭で考えずに、流れに身を任せてください」
リードするヒューゴ様が声をかけてくださる。
「そんなこと言われても……」
足が絡まりそうになる。
「大丈夫ですよ。私に任せて」
すっと手を引かれると、いつもつまずくところなのに、ヒューゴ様に導かれるように足は滑らかにステップを踏む。
「あ! できました!」
嬉しさで頬が高揚する。
「さすがです」
ヒューゴ様はそう言ってくださるけど、明らかにヒューゴ様のリードが上手いからだ。
僕も頑張らないと。
デビュタントではアレク様と踊る。
失敗は許されない。
頭の中でリズムをきず間ないように気をつけ、全体の流れに身を任せようと心がけた。
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