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マナーのレッスン ④
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それからというもの、ハンナ先生のレッスンに必死にくらいついた。
言葉の勉強、発音も賢明に学んだ。
マナーレッスンでは基礎的なことをなんとかマスターし、今は社交会で踊るようなダンスをハンナ先生が選んだ専門の講師から習っている。
「ユベール様は、本当に飲み込みがお早いです」
「いえ、それは先生が教えてくださるからです」
いつもハンナ先生に怒られてばかりだったからか、ダンスの先生に褒めてもらえると、どこかくすぐったくなる。
「ではこれからハンナ様に仕上がりを見ていただきましょう」
「……はい!」
何か新しいことを習得すると、必ずハンナ先生の前で披露し出来栄えをチェックされる。
もしそこでハンナ先生の合格がもらえなければ、また一からやり直しなうえに、ダンスを教えてくれている先生まで怒られてしまう。二重の緊張だ。
「ハンナ先生、今よろしいでしょうか?」
ダンスのレッスンをしている部屋の隅で本を読んでいたハンナ先生が、顔を上げた。
「それでは見せていただきましょう」
読んでいた本をパタリと閉じ椅子の上に置くと、スッと立ち上がる。
よし。
静かに気合を入れるように深呼吸し、相手役の男性にお辞儀をしてから、デビュタントで踊る曲に合わせステップを踏む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
心の中でリズムを刻む。
教えてもらった通り、優雅に、華やかに……。
くるりと回る時は、ドレスが綺麗に縁を描くように。
見えない足元で、男性の足を踏まないように気をつけながら、頭の中んでリズムを刻む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
あと少しで踊り終わると言う時に、
「そこまで」
突然止められてしまった。
何がいけなかった?
リズムがずれていた?
ステップがぎこちなかった?
頭の中で怒られるかもしれないことを、考える。
「ユベール様。デビュタントでは誰と踊られるんですか?」
「それはアレク様です」
「そんなお粗末なダンスでは、殿下に恥をかかせてしまいます」
「そんな……」
慣れないヒールに靴擦れとマメを作りながら、一生懸命頑張ってきたのに、ハンナ先生の一言で頑張りが打ち砕かれそうになる。
「あなたもあなたです。こんな状態で、よく合格を出されましたね。あなたは最高の講師だと聞いていたのですが、私の見込み違いだったのでしょうか?」
「申し訳ございません……」
今度はダンスの先生が怒られる。
ダンスの先生はハンナ先生とは違って、僕の頑張りを認めてくれ、一緒になって練習してくれる。
靴擦れや豆ができたら処置を使用人に任せず、ダンスの先生自身がしてくれる。
僕の容姿を見ても、「弟と妹が一度にできたみたいで嬉しいわ」と可愛がってくれていた。
そんな先生までもが自分の不甲斐なさから叱られてしまうのが、本当に不甲斐なくて情けない。
「違うんです! 悪いのは僕で…」
言いかけた時、
「そんなことはわかっています」
ハンナ先生は一瞥する。
「できないことをできるようにする。これが講師たる彼女に課せられた任務なのです。それができなければ人を変えるしかありませんね。それじゃあ貴方。もう帰っていいですよ」
部屋の扉をハンナ先生が開け、ダンスの先生を追い出そうとする。
言葉の勉強、発音も賢明に学んだ。
マナーレッスンでは基礎的なことをなんとかマスターし、今は社交会で踊るようなダンスをハンナ先生が選んだ専門の講師から習っている。
「ユベール様は、本当に飲み込みがお早いです」
「いえ、それは先生が教えてくださるからです」
いつもハンナ先生に怒られてばかりだったからか、ダンスの先生に褒めてもらえると、どこかくすぐったくなる。
「ではこれからハンナ様に仕上がりを見ていただきましょう」
「……はい!」
何か新しいことを習得すると、必ずハンナ先生の前で披露し出来栄えをチェックされる。
もしそこでハンナ先生の合格がもらえなければ、また一からやり直しなうえに、ダンスを教えてくれている先生まで怒られてしまう。二重の緊張だ。
「ハンナ先生、今よろしいでしょうか?」
ダンスのレッスンをしている部屋の隅で本を読んでいたハンナ先生が、顔を上げた。
「それでは見せていただきましょう」
読んでいた本をパタリと閉じ椅子の上に置くと、スッと立ち上がる。
よし。
静かに気合を入れるように深呼吸し、相手役の男性にお辞儀をしてから、デビュタントで踊る曲に合わせステップを踏む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
心の中でリズムを刻む。
教えてもらった通り、優雅に、華やかに……。
くるりと回る時は、ドレスが綺麗に縁を描くように。
見えない足元で、男性の足を踏まないように気をつけながら、頭の中んでリズムを刻む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
あと少しで踊り終わると言う時に、
「そこまで」
突然止められてしまった。
何がいけなかった?
リズムがずれていた?
ステップがぎこちなかった?
頭の中で怒られるかもしれないことを、考える。
「ユベール様。デビュタントでは誰と踊られるんですか?」
「それはアレク様です」
「そんなお粗末なダンスでは、殿下に恥をかかせてしまいます」
「そんな……」
慣れないヒールに靴擦れとマメを作りながら、一生懸命頑張ってきたのに、ハンナ先生の一言で頑張りが打ち砕かれそうになる。
「あなたもあなたです。こんな状態で、よく合格を出されましたね。あなたは最高の講師だと聞いていたのですが、私の見込み違いだったのでしょうか?」
「申し訳ございません……」
今度はダンスの先生が怒られる。
ダンスの先生はハンナ先生とは違って、僕の頑張りを認めてくれ、一緒になって練習してくれる。
靴擦れや豆ができたら処置を使用人に任せず、ダンスの先生自身がしてくれる。
僕の容姿を見ても、「弟と妹が一度にできたみたいで嬉しいわ」と可愛がってくれていた。
そんな先生までもが自分の不甲斐なさから叱られてしまうのが、本当に不甲斐なくて情けない。
「違うんです! 悪いのは僕で…」
言いかけた時、
「そんなことはわかっています」
ハンナ先生は一瞥する。
「できないことをできるようにする。これが講師たる彼女に課せられた任務なのです。それができなければ人を変えるしかありませんね。それじゃあ貴方。もう帰っていいですよ」
部屋の扉をハンナ先生が開け、ダンスの先生を追い出そうとする。
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