68 / 109
マナーのレッスン ④
しおりを挟む
それからというもの、ハンナ先生のレッスンに必死にくらいついた。
言葉の勉強、発音も賢明に学んだ。
マナーレッスンでは基礎的なことをなんとかマスターし、今は社交会で踊るようなダンスをハンナ先生が選んだ専門の講師から習っている。
「ユベール様は、本当に飲み込みがお早いです」
「いえ、それは先生が教えてくださるからです」
いつもハンナ先生に怒られてばかりだったからか、ダンスの先生に褒めてもらえると、どこかくすぐったくなる。
「ではこれからハンナ様に仕上がりを見ていただきましょう」
「……はい!」
何か新しいことを習得すると、必ずハンナ先生の前で披露し出来栄えをチェックされる。
もしそこでハンナ先生の合格がもらえなければ、また一からやり直しなうえに、ダンスを教えてくれている先生まで怒られてしまう。二重の緊張だ。
「ハンナ先生、今よろしいでしょうか?」
ダンスのレッスンをしている部屋の隅で本を読んでいたハンナ先生が、顔を上げた。
「それでは見せていただきましょう」
読んでいた本をパタリと閉じ椅子の上に置くと、スッと立ち上がる。
よし。
静かに気合を入れるように深呼吸し、相手役の男性にお辞儀をしてから、デビュタントで踊る曲に合わせステップを踏む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
心の中でリズムを刻む。
教えてもらった通り、優雅に、華やかに……。
くるりと回る時は、ドレスが綺麗に縁を描くように。
見えない足元で、男性の足を踏まないように気をつけながら、頭の中んでリズムを刻む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
あと少しで踊り終わると言う時に、
「そこまで」
突然止められてしまった。
何がいけなかった?
リズムがずれていた?
ステップがぎこちなかった?
頭の中で怒られるかもしれないことを、考える。
「ユベール様。デビュタントでは誰と踊られるんですか?」
「それはアレク様です」
「そんなお粗末なダンスでは、殿下に恥をかかせてしまいます」
「そんな……」
慣れないヒールに靴擦れとマメを作りながら、一生懸命頑張ってきたのに、ハンナ先生の一言で頑張りが打ち砕かれそうになる。
「あなたもあなたです。こんな状態で、よく合格を出されましたね。あなたは最高の講師だと聞いていたのですが、私の見込み違いだったのでしょうか?」
「申し訳ございません……」
今度はダンスの先生が怒られる。
ダンスの先生はハンナ先生とは違って、僕の頑張りを認めてくれ、一緒になって練習してくれる。
靴擦れや豆ができたら処置を使用人に任せず、ダンスの先生自身がしてくれる。
僕の容姿を見ても、「弟と妹が一度にできたみたいで嬉しいわ」と可愛がってくれていた。
そんな先生までもが自分の不甲斐なさから叱られてしまうのが、本当に不甲斐なくて情けない。
「違うんです! 悪いのは僕で…」
言いかけた時、
「そんなことはわかっています」
ハンナ先生は一瞥する。
「できないことをできるようにする。これが講師たる彼女に課せられた任務なのです。それができなければ人を変えるしかありませんね。それじゃあ貴方。もう帰っていいですよ」
部屋の扉をハンナ先生が開け、ダンスの先生を追い出そうとする。
言葉の勉強、発音も賢明に学んだ。
マナーレッスンでは基礎的なことをなんとかマスターし、今は社交会で踊るようなダンスをハンナ先生が選んだ専門の講師から習っている。
「ユベール様は、本当に飲み込みがお早いです」
「いえ、それは先生が教えてくださるからです」
いつもハンナ先生に怒られてばかりだったからか、ダンスの先生に褒めてもらえると、どこかくすぐったくなる。
「ではこれからハンナ様に仕上がりを見ていただきましょう」
「……はい!」
何か新しいことを習得すると、必ずハンナ先生の前で披露し出来栄えをチェックされる。
もしそこでハンナ先生の合格がもらえなければ、また一からやり直しなうえに、ダンスを教えてくれている先生まで怒られてしまう。二重の緊張だ。
「ハンナ先生、今よろしいでしょうか?」
ダンスのレッスンをしている部屋の隅で本を読んでいたハンナ先生が、顔を上げた。
「それでは見せていただきましょう」
読んでいた本をパタリと閉じ椅子の上に置くと、スッと立ち上がる。
よし。
静かに気合を入れるように深呼吸し、相手役の男性にお辞儀をしてから、デビュタントで踊る曲に合わせステップを踏む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
心の中でリズムを刻む。
教えてもらった通り、優雅に、華やかに……。
くるりと回る時は、ドレスが綺麗に縁を描くように。
見えない足元で、男性の足を踏まないように気をつけながら、頭の中んでリズムを刻む。
ー1、2、3、1、2、3……ー
あと少しで踊り終わると言う時に、
「そこまで」
突然止められてしまった。
何がいけなかった?
リズムがずれていた?
ステップがぎこちなかった?
頭の中で怒られるかもしれないことを、考える。
「ユベール様。デビュタントでは誰と踊られるんですか?」
「それはアレク様です」
「そんなお粗末なダンスでは、殿下に恥をかかせてしまいます」
「そんな……」
慣れないヒールに靴擦れとマメを作りながら、一生懸命頑張ってきたのに、ハンナ先生の一言で頑張りが打ち砕かれそうになる。
「あなたもあなたです。こんな状態で、よく合格を出されましたね。あなたは最高の講師だと聞いていたのですが、私の見込み違いだったのでしょうか?」
「申し訳ございません……」
今度はダンスの先生が怒られる。
ダンスの先生はハンナ先生とは違って、僕の頑張りを認めてくれ、一緒になって練習してくれる。
靴擦れや豆ができたら処置を使用人に任せず、ダンスの先生自身がしてくれる。
僕の容姿を見ても、「弟と妹が一度にできたみたいで嬉しいわ」と可愛がってくれていた。
そんな先生までもが自分の不甲斐なさから叱られてしまうのが、本当に不甲斐なくて情けない。
「違うんです! 悪いのは僕で…」
言いかけた時、
「そんなことはわかっています」
ハンナ先生は一瞥する。
「できないことをできるようにする。これが講師たる彼女に課せられた任務なのです。それができなければ人を変えるしかありませんね。それじゃあ貴方。もう帰っていいですよ」
部屋の扉をハンナ先生が開け、ダンスの先生を追い出そうとする。
15
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士
倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。
フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。
しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。
そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。
ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。
夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。
一人称。
完結しました!
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる
葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。
王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。
国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。
異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。
召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。
皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。
威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。
なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。
召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前
全38話
こちらは個人サイトにも掲載されています。
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

【完結】スイートハニーと魔法使い
福の島
BL
兵士アグネスは幼い頃から空に思い憧れた。
それはアグネスの両親が魔法使いであった事が大きく関係している、両親と空高く飛び上がると空に浮かんでいた鳥も雲も太陽ですら届く様な気がしたのだ。
そんな両親が他界して早10年、アグネスの前に現れたのは甘いという言葉が似合う魔法使いだった。
とっても甘い訳あり魔法使い✖️あまり目立たない幸薄兵士
愛や恋を知らなかった2人が切なく脆い運命に立ち向かうお話。
約8000文字でサクッと…では無いかもしれませんが短めに読めます。

白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる