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マナーのレッスン ②
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乳白色の湯船に浸かり、ちゃぷんと両手で湯を掬い、その湯を眺め、指の隙間から湯が流れ落ちると、また両手で湯を掬い眺める……。
長時間続いたレッスンの後、部屋に戻ってきてからすぐに湯浴みをし、何度もそれを繰り返していた。
「ユベール様、もうあがられた方がよろしいかと」
あまりの長風呂で、湯の温度が下がってしまったことをクロエは心配している。
「……」
「暖かなミルクを用意いたします。それともハーブティーがよろしいですか?」
「……」
「そろそろ用意をされないと、殿下が来られる時間になってしまいます」
「……」
クロエの声が聞こえてないわけじゃない。でも今は今日ハンナ先生に言われたことを思い出しすと、指の隙間から湯が全て流れ落ちても、まだ両手の掌を見続けていたい。
「ユベール様?」
「僕、父様と母様に申し訳ない……」
「え?」
「ちゃんと色々なこと教えてもらってた。でもせっかく教えてもらっていたのに、何も身についてなかった」
涙が溜まり視界がゆがむ。
「お辞儀一つ、椅子にきちんと座ることさえできなかった……」
「そんな。ユベール様はきちんとされていました」
「ううん」
僕は頭を横にふる。
「できてなかった。だからあんなに怒られたんだ。僕が全然できてなかったから……。できてなかったら、父様や母様が僕に何も教えてこなかったと思われたんだ……」
俯くも瞳から涙が一粒溢れ、湯船に水紋ができた。
「そんなことありません! ユベール様は一生懸命されてましたし、ユベール様のお父様もお母様も、たくさんのことを教えてこられたと思います!」
クロエは自分の服が濡れることも気にせず、腕を湯船につけ、僕の手を握った。
「今日のハンナ様のレッスンは厳しさと言うより、ユベール様を攻撃しているように見えました。もうあんなレッスンは辞めて、殿下に新しい家庭教師を探してもらいましょう!だからどうか、自分をお責めにならないでください」
「ありがとうクロエ。クロエは本当に優しいね」
僕は顔を上げ、必死に僕を慰めてくれているクロエを見た。
クロエはほんとに優しい。
僕と同じ気持ちになってくれて、同じように怒ってくれる。
僕もハンナ先生のレッスンを辞めてしまいたい。
あんなビクビクしながらレッスンしたくない。
でもここで逃げてしまっていいの?
勝ち負けじゃないけど、このままハンナ先生のレッスンをやめてしまったら、僕が辛いことに負けて逃げたみたいだ。
それこそ父様や母様が僕に逃げ癖だけ付けさせて、何も教えてこなかったと言っているようだ。
そんなことは嫌だ!
父様も母様もとても素晴らしい人なんだ!
誤解されたままなんて嫌だ!
それにこのまま逃げ腰な僕がアレク様の側室なんて、アレク様に申し訳ない。
僕は恥ずかしくない側室でいたい。
「クロエの言葉で覚悟ができたよ」
「私の言葉でですか?」
「うん。ハンナ先生のレッスンは本当に厳しいけど、皇后様が紹介してくださった講師の先生。僕にはこの厳しさと礼儀作法が必要なんだ。もしここで投げ出したら、本当に父様と母様が何もしてこなかったと思われてしまう気がする。だから僕は、ハンナ先生に認めてもらえるまで、頑張るよ」
クロエからバスローブを受け取ると、急いで身につけた。
「僕頑張る! もう絶対弱音は吐かない!絶対、ハンナ先生に認めてもらうんだ。それで殿下の側室として恥ずかしくない人になるんだ!」
何がなんでも絶対に、やりきってみせると心に決めた。
長時間続いたレッスンの後、部屋に戻ってきてからすぐに湯浴みをし、何度もそれを繰り返していた。
「ユベール様、もうあがられた方がよろしいかと」
あまりの長風呂で、湯の温度が下がってしまったことをクロエは心配している。
「……」
「暖かなミルクを用意いたします。それともハーブティーがよろしいですか?」
「……」
「そろそろ用意をされないと、殿下が来られる時間になってしまいます」
「……」
クロエの声が聞こえてないわけじゃない。でも今は今日ハンナ先生に言われたことを思い出しすと、指の隙間から湯が全て流れ落ちても、まだ両手の掌を見続けていたい。
「ユベール様?」
「僕、父様と母様に申し訳ない……」
「え?」
「ちゃんと色々なこと教えてもらってた。でもせっかく教えてもらっていたのに、何も身についてなかった」
涙が溜まり視界がゆがむ。
「お辞儀一つ、椅子にきちんと座ることさえできなかった……」
「そんな。ユベール様はきちんとされていました」
「ううん」
僕は頭を横にふる。
「できてなかった。だからあんなに怒られたんだ。僕が全然できてなかったから……。できてなかったら、父様や母様が僕に何も教えてこなかったと思われたんだ……」
俯くも瞳から涙が一粒溢れ、湯船に水紋ができた。
「そんなことありません! ユベール様は一生懸命されてましたし、ユベール様のお父様もお母様も、たくさんのことを教えてこられたと思います!」
クロエは自分の服が濡れることも気にせず、腕を湯船につけ、僕の手を握った。
「今日のハンナ様のレッスンは厳しさと言うより、ユベール様を攻撃しているように見えました。もうあんなレッスンは辞めて、殿下に新しい家庭教師を探してもらいましょう!だからどうか、自分をお責めにならないでください」
「ありがとうクロエ。クロエは本当に優しいね」
僕は顔を上げ、必死に僕を慰めてくれているクロエを見た。
クロエはほんとに優しい。
僕と同じ気持ちになってくれて、同じように怒ってくれる。
僕もハンナ先生のレッスンを辞めてしまいたい。
あんなビクビクしながらレッスンしたくない。
でもここで逃げてしまっていいの?
勝ち負けじゃないけど、このままハンナ先生のレッスンをやめてしまったら、僕が辛いことに負けて逃げたみたいだ。
それこそ父様や母様が僕に逃げ癖だけ付けさせて、何も教えてこなかったと言っているようだ。
そんなことは嫌だ!
父様も母様もとても素晴らしい人なんだ!
誤解されたままなんて嫌だ!
それにこのまま逃げ腰な僕がアレク様の側室なんて、アレク様に申し訳ない。
僕は恥ずかしくない側室でいたい。
「クロエの言葉で覚悟ができたよ」
「私の言葉でですか?」
「うん。ハンナ先生のレッスンは本当に厳しいけど、皇后様が紹介してくださった講師の先生。僕にはこの厳しさと礼儀作法が必要なんだ。もしここで投げ出したら、本当に父様と母様が何もしてこなかったと思われてしまう気がする。だから僕は、ハンナ先生に認めてもらえるまで、頑張るよ」
クロエからバスローブを受け取ると、急いで身につけた。
「僕頑張る! もう絶対弱音は吐かない!絶対、ハンナ先生に認めてもらうんだ。それで殿下の側室として恥ずかしくない人になるんだ!」
何がなんでも絶対に、やりきってみせると心に決めた。
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