【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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初夜 ⑥

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 ハーブティーの香りがする中、僕はアレク様の手を両手で包み込む。
 アレク様の手はゴツゴツしていて、内側の皮膚には剣でできただろうか、硬い豆がいくつもできている。

 その豆からは、今までどれほどアレク様が努力してこられたかがわかる。
 とても努力家でも温かくて愛しい手。

「僕はアレク様のことがよくわかりません。だから怖いか怖くないかはわかりません……」
「やはりそうか……」
 僕を見つめるアレク様は悲しそうに、視線を下に移す。

「でも嘘をついた僕を咎めることなく、孤児院を助けると言ってくださったり、僕のために故郷の料理を用意してくださったりとお優しい。僕にはどうして、アレク様にあんな恐ろしい噂がついて回るのかわかりません」
「……」 
「だから僕は、アレク様のことをもっとよく知りたいと思いました」

 アレク様から目が離せない。
 離したくない。
 アレク様も僕と同じ気持ちでいてくれるのだろうか? 

「本当に怖くないのか?俺は『悪魔の子』だと言われているんだぞ……」
 ここまで気にされているということは、アレク様は周りの人達に悪魔の子だと、忌み嫌われて深く傷ついているに違いない。

 僕はアレク様の本当の姿を知って、みんなに知って欲しい。
 あの優しい笑顔のアレク様を、知って欲しい。
 悲しそうに瞳が揺れているアレク様を、僕が癒してあげたい。

「僕はアレク様のことを『悪魔の子』だとは思えません。本当の悪魔の子であれば初めてアレク様にお会いした時、その場で僕は殺されていたでしょう……」
「……」 

「でもそうなさらなかった。アレク様は悪魔の子ではありません。僕が必ずアレク様に付けられた汚名を晴らしてみます!」
「俺はユベールさえ本当の俺を知っていてくれるならそれでいい」
「それでも僕は皆んなに知ってもらいたいんです。それにアレク様に僕のこと、沢山知って欲しいです」

 今のアレク様になら、僕は身を委ねられる……。
 僕はアレク様の目の前に立ち、肩にかけられたストールをするすると外し、床に落とす。
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