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初夜 ④
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「これは…?」
「開けてごらん」
包紙から玉状の物を取り出すと、
「ミルク飴だ。わぁ~、すごい!」
久々に見る乳白色のミルク飴は、僕が小さい頃から大好きなお菓子。
わざわざどうしてこのお菓子を選ばれたの?
不思議に思ったけど、たまたま選ばれたのかもしれない。
「ユベールの好物かと思ってな」
やっぱりたまたま選ばれただけ。
でもほんとに嬉しい。
ミルク飴を貰ったことも、殿下が僕のことを思って選んでくださったことも、ほんとに嬉しい。
「大好きです!幼い頃、よく母様と姉様が作ってくれたんです」
今でも家族のことを思い出すと、胸が痛く苦しくなっていたのに、殿下といる時間が増えるごとに昔の楽しくて幸せだった頃の記憶が鮮明に思い出され、僕の中でみんな生きていると思える。
「好きなだけ食べるといい」
殿下のポケットからは両手いっぱいのミルク飴が出てくる。
「アレク様のポケットは、お菓子屋さんみたいですね。美味しそう。……あ……」
ポロリと本音が出てしまい、僕は慌てて口をつぐんだ。
「お菓子屋さんか。面白い言い方をするな。でもそうかもしれないな」
そう言いながら、アレク様は僕の口の中にミルク飴を一つポイっと入れる。
ほんのり甘く、ミルクの味がする。
僕が知っているミルク飴そのまま。
口の中でコロコロと飴を転がすと、口いっぱいに風味が広がった。
「おいしいか?」
「はい!美味しいです!」
自分でも驚くほど大きな声で返事をしてしまい、アレク様は目を丸くしながら、嬉しそうに僕の頭を撫でる。
「これも贈り物だ」
今度は数枚を一袋に入れたクッキーを反対のポケットから取り出した。
「え!?クッキーもですか?」
飴が口の中に入っているのでモゴモゴさせながら、差し出されたクッキーを見て、つい吹き出してしまった。
「アレク様、このクッキー、ボロボロに割れています」
「どれだ?」
「ほら、これです」
半分に割たクッキーが見えるよう、近づき差し出す。
「本当だ、割れている…。こんなはずではなかったんだがな…」
クッキーが割れたことが、本当に意外だったと言うように、アレク様は頭を掻く。
なんでも完璧なアレク様の意外な姿。
こんなこと思うなんて不謹慎かもしれないけど、アレク様はきっと可愛いお方なんだ。
くすくすと僕が笑えば、アレク様の頬は少し赤くなる。
「柔らかなバタークッキーをポケットに入れれば、割れてしまいますよ。でも僕も昔、友達と一緒に同じ失敗をして、母様に怒られたんです」
あれはたしか僕が六歳の時、約一年だけ父様の知人の兄弟とその妹が屋敷やってきて、一緒に暮らしていたことを思い出した。
名前は……なんだったかな?
「一緒に過ごした期間は短かったのですが、とても楽しい時間でした」
四人でたくさんいたずらをしては怒られたが、楽しかったあの頃が懐かしい。
目を細めベッドの天蓋を見ると、四人で一緒のベッドで眠ったことを思い出す。
「そんなことがあったんだな」
「はい、大切な思い出です」
「それはよかった」
アレク様も何かを懐かしむように、フッと微笑んだ。
「開けてごらん」
包紙から玉状の物を取り出すと、
「ミルク飴だ。わぁ~、すごい!」
久々に見る乳白色のミルク飴は、僕が小さい頃から大好きなお菓子。
わざわざどうしてこのお菓子を選ばれたの?
不思議に思ったけど、たまたま選ばれたのかもしれない。
「ユベールの好物かと思ってな」
やっぱりたまたま選ばれただけ。
でもほんとに嬉しい。
ミルク飴を貰ったことも、殿下が僕のことを思って選んでくださったことも、ほんとに嬉しい。
「大好きです!幼い頃、よく母様と姉様が作ってくれたんです」
今でも家族のことを思い出すと、胸が痛く苦しくなっていたのに、殿下といる時間が増えるごとに昔の楽しくて幸せだった頃の記憶が鮮明に思い出され、僕の中でみんな生きていると思える。
「好きなだけ食べるといい」
殿下のポケットからは両手いっぱいのミルク飴が出てくる。
「アレク様のポケットは、お菓子屋さんみたいですね。美味しそう。……あ……」
ポロリと本音が出てしまい、僕は慌てて口をつぐんだ。
「お菓子屋さんか。面白い言い方をするな。でもそうかもしれないな」
そう言いながら、アレク様は僕の口の中にミルク飴を一つポイっと入れる。
ほんのり甘く、ミルクの味がする。
僕が知っているミルク飴そのまま。
口の中でコロコロと飴を転がすと、口いっぱいに風味が広がった。
「おいしいか?」
「はい!美味しいです!」
自分でも驚くほど大きな声で返事をしてしまい、アレク様は目を丸くしながら、嬉しそうに僕の頭を撫でる。
「これも贈り物だ」
今度は数枚を一袋に入れたクッキーを反対のポケットから取り出した。
「え!?クッキーもですか?」
飴が口の中に入っているのでモゴモゴさせながら、差し出されたクッキーを見て、つい吹き出してしまった。
「アレク様、このクッキー、ボロボロに割れています」
「どれだ?」
「ほら、これです」
半分に割たクッキーが見えるよう、近づき差し出す。
「本当だ、割れている…。こんなはずではなかったんだがな…」
クッキーが割れたことが、本当に意外だったと言うように、アレク様は頭を掻く。
なんでも完璧なアレク様の意外な姿。
こんなこと思うなんて不謹慎かもしれないけど、アレク様はきっと可愛いお方なんだ。
くすくすと僕が笑えば、アレク様の頬は少し赤くなる。
「柔らかなバタークッキーをポケットに入れれば、割れてしまいますよ。でも僕も昔、友達と一緒に同じ失敗をして、母様に怒られたんです」
あれはたしか僕が六歳の時、約一年だけ父様の知人の兄弟とその妹が屋敷やってきて、一緒に暮らしていたことを思い出した。
名前は……なんだったかな?
「一緒に過ごした期間は短かったのですが、とても楽しい時間でした」
四人でたくさんいたずらをしては怒られたが、楽しかったあの頃が懐かしい。
目を細めベッドの天蓋を見ると、四人で一緒のベッドで眠ったことを思い出す。
「そんなことがあったんだな」
「はい、大切な思い出です」
「それはよかった」
アレク様も何かを懐かしむように、フッと微笑んだ。
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