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初夜 ③
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あともう少し僕に触れそうになった時、
「アレク様」
ヒューゴ様が殿下の名前を呼んだ。
すると殿下はハッと我に返ったように目を大きく開き、小さく息を吸い込み僕から視線を外す。
「その格好では体が冷えるだろう」
殿下は首から肩にかけていた自分のストールを、僕の肩にふわりとかけた。
やはりお気に召さなかったのかもしれない。
そう思うと、ここまで綺麗に手入れしてくれた侍女やクロエに申し訳ない。
僕は何か失礼なことをしてしまった?
「殿下、僕何か失礼なことをしてしまったのでしょうか?」
「いや、ユベールはなにもしていない」
殿下は微笑んだ。
「それでは殿下。また朝お迎えに参ります」
ヒューゴ様が殿下と僕に一礼すると部屋の中にいた侍女とクロエも部屋が出ていき、最後に残ったヒューゴ様も部屋を後にした。
部屋には殿下と僕、二人きり。
僕の頭の中には、ロマンス小説の一場面が頭に浮かぶ。
文書の知識しかなくて、まして経験なんてない。
今の僕には小説の中での主人公のように喜びと期待などなくて、知らない世界に足を踏み入れる不安しかない。
何をどうしていいかわからず、体が強ばってくる。
殿下はそんな僕に近づきそっと右手をひき、ベッドにヘリに座らせた。
「緊張するか?」
殿下は僕の顔をじっとみながら、優しく語りかけてくださる。
「いえ、そんなことは…」
言いかけたけど、
「少し…」
正直に答えた。
「それは初夜だからか?単に俺が怖いのか?」
「それは……両方です……」
僕は殿下には嘘はつかない。そう約束した。
だから、お咎めを受けることになるかもしれないけれど、正直に答えた。
「あははは、正直者だな」
お咎めを受けるかと思っていたのに、お咎めを出すどころか、殿下は楽しそうに笑う。
「ユベールは俺との約束をまもってくれているんだな」
「はい。殿下とのお約束は絶対です」
「いい心がけだ」
言葉は偉そうだが、くしゃっと笑った殿下の姿を僕は可愛いと思ってしまった。
「そうだユベール。1つ頼みがある」
「殿下の頼みとならば、なんでも」
「俺の事を殿下ではなく『アレク』と読んではくれないだろうか?」
「アレク……様……ですか?」
そう呼んでみると、なぜかどこか懐かしい感じがする。
「様はなくていい」
殿下はそう言われるけど、
「そうはいきません」
「俺がそう言ってるんだ」
「それでもダメです」
「何故だ?」
「殿下は帝国第一王子。いくら僕が側室でも殿下を敬わないなんて、他の人達に示しがつかないからです」
「そういうものなのか?」
「そういうものです」
「そうか。ではユベールがそういうのだから『様』はつけてもらおう」
アレク様は微笑んだ。
「ああそうだ。今日はユベールに贈り物があるんだ」
なんだろう?
殿下はごそごそとズボンのポケットから、白い包紙で包んだ2センチほどの玉状の物を取り出し、僕の前に差し出した。
「アレク様」
ヒューゴ様が殿下の名前を呼んだ。
すると殿下はハッと我に返ったように目を大きく開き、小さく息を吸い込み僕から視線を外す。
「その格好では体が冷えるだろう」
殿下は首から肩にかけていた自分のストールを、僕の肩にふわりとかけた。
やはりお気に召さなかったのかもしれない。
そう思うと、ここまで綺麗に手入れしてくれた侍女やクロエに申し訳ない。
僕は何か失礼なことをしてしまった?
「殿下、僕何か失礼なことをしてしまったのでしょうか?」
「いや、ユベールはなにもしていない」
殿下は微笑んだ。
「それでは殿下。また朝お迎えに参ります」
ヒューゴ様が殿下と僕に一礼すると部屋の中にいた侍女とクロエも部屋が出ていき、最後に残ったヒューゴ様も部屋を後にした。
部屋には殿下と僕、二人きり。
僕の頭の中には、ロマンス小説の一場面が頭に浮かぶ。
文書の知識しかなくて、まして経験なんてない。
今の僕には小説の中での主人公のように喜びと期待などなくて、知らない世界に足を踏み入れる不安しかない。
何をどうしていいかわからず、体が強ばってくる。
殿下はそんな僕に近づきそっと右手をひき、ベッドにヘリに座らせた。
「緊張するか?」
殿下は僕の顔をじっとみながら、優しく語りかけてくださる。
「いえ、そんなことは…」
言いかけたけど、
「少し…」
正直に答えた。
「それは初夜だからか?単に俺が怖いのか?」
「それは……両方です……」
僕は殿下には嘘はつかない。そう約束した。
だから、お咎めを受けることになるかもしれないけれど、正直に答えた。
「あははは、正直者だな」
お咎めを受けるかと思っていたのに、お咎めを出すどころか、殿下は楽しそうに笑う。
「ユベールは俺との約束をまもってくれているんだな」
「はい。殿下とのお約束は絶対です」
「いい心がけだ」
言葉は偉そうだが、くしゃっと笑った殿下の姿を僕は可愛いと思ってしまった。
「そうだユベール。1つ頼みがある」
「殿下の頼みとならば、なんでも」
「俺の事を殿下ではなく『アレク』と読んではくれないだろうか?」
「アレク……様……ですか?」
そう呼んでみると、なぜかどこか懐かしい感じがする。
「様はなくていい」
殿下はそう言われるけど、
「そうはいきません」
「俺がそう言ってるんだ」
「それでもダメです」
「何故だ?」
「殿下は帝国第一王子。いくら僕が側室でも殿下を敬わないなんて、他の人達に示しがつかないからです」
「そういうものなのか?」
「そういうものです」
「そうか。ではユベールがそういうのだから『様』はつけてもらおう」
アレク様は微笑んだ。
「ああそうだ。今日はユベールに贈り物があるんだ」
なんだろう?
殿下はごそごそとズボンのポケットから、白い包紙で包んだ2センチほどの玉状の物を取り出し、僕の前に差し出した。
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