【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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ただいま

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 孤児院では畑の手入れをしたり、子ども達と一緒に遊んだり、夕食を作って食べてり。
 楽しい時間を過ごした。

 とても楽しい時間で、子ども達に「泊まっていって」とねだられたけれど、僕は少しでもはやく宮殿に返って殿下に会いたかった。
「今度はゆっくり遊びにくるからね」 
 牧師様にお礼を言って、僕たちは夕暮れの中、殿下の元に急いだ。

「ただいま戻りました」
 玄関から宮殿に入り、一目散に殿下の書斎に向かう。

 ノックをしたけれど、返事はない。
 そっと扉を開くと、部屋は真っ暗で誰もいない。 

 殿下はどこに?
 あたりを見回していると、扉がバンっと勢いよく開かれた。

 振り返ると
「殿下!」
 息をきらし、肩で息をしている殿下がいた。

「殿下、ただいま戻りま……」
 言い終わらないうちに、殿下は大股で歩いてきた僕を抱きしめる。

「どうして帰ってきた。帰って来なくてよかったのに」
 辛辣な言葉なのに、殿下の声は怯え震えている。

「こんな窮屈な俺の元になんて、帰ってくるな。ユベールはあの孤児院でみんなと笑顔の中、幸せに暮らせ……」
 突き放すような言葉なのに、僕を抱きしめる力はより強くなった。

「僕は殿下のそばがいいです。殿下の隣で笑っていたいです」
「俺は……俺はユベールを笑顔にする方法がわからない」

「僕も殿下を笑顔にする方法がわかりません。でも……僕は殿下を知りたいです。噂の殿下じゃなくて、本当の殿下を」
「知ってどうする。失望するだけかも……しれないんだぞ」

「そうですね。でも失望するよりも前に、僕は殿下を知らなさすぎる。それは殿下も同じです。僕を知ってください」
 今度は僕が抱きしめ返す。

「ただいま戻りました」
「……」
「手紙、嬉しかったです」
「!読んだのか?」
「はい」
「あの牧師め」
 殿下が苦々しく呟く。

「孤児院の子ども達に本をくださたことも、僕の部屋のことも、僕のために選んでくださった本のことも、服や食事のことも聞きました」
「あれほど言うなと言っておいたのに、あのクソクロエ、いいやがったな」
 言葉は悪いのに、殿下のことが可愛くて仕方ないと感じる。

「僕が殿下のことを知りたい気持ちを、どうかお許しください」
 僕がいうと、しばらくの無言の時間が続いたが、
「知って欲しい……」
 殿下の震えは止まっていた。
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