【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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事故 ④

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 診察が終わると、殿下とヒューゴ様が部屋に来られた。診察結果は、木の枝でできた擦り傷ぐらいで、あとは特に異常はない。

 僕の不注意で殿下やヒューゴ様、クロエの手を煩わせてしまった。
 僕は死んだように生きていないといけないのに……。

「申し訳、ございません」
 殿下は医師から診断結果を聞く。
 自分が情けない。
 きっと僕はもう窓すら開けられない生活が待っている。
 急に部屋の空気が重くなったような気がした。
「申し訳、ございません……」
 すると殿下が僕の方に近づいてきて……、

 え?

 僕を優しく抱きしめてくれる。
「謝らないといけないのは、俺だ。怖い思いをさせ怪我まで負わせてしまってすまない」
 背中に回された殿下の腕に、力が入る。
「これから窓を開けて外を見る時は、十分に気をつけるんだぞ」
「僕、またこれからも窓を開けてもいいのですか?」
「どうしてそんなことを聞く?」
 僕がおかしなことを言ってしまったようで、殿下は僕の顔を覗き込む。
「僕は殿下の手を煩わせてばかりです。だからもう、部屋のドアも開けてはいけないのではないかと思いました……。本当に申し訳ございません」
 もう一度謝ると、殿下はハッと目を見開き、そして悲しそうに微笑む。初めて見せた、殿下の悲しそうで苦しそうな表情。
 殿下は何かをいいかけて息を吸い込み、だがその息をため息として吐き出す。そして、僕から体を離し、
「窓から外を見るのは許す。だが身は乗り出すな」
 いつものように冷たい視線を僕に向ける。
「はい。もう二度と同じ失敗をしません」
 僕は誓ったとき、殿下は僕に手をゆっくりと伸ばしかけた。
 叩かれる!
 身がすくんだ。でも伸ばされた殿下の手は、僕に触れる前ぎゅっと力を入れ拳となり、その手はだらりと降ろされた。
「わかればいい」
 殿下はいつものように僕を一瞥して、部屋を出ていった。
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