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事故①
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「ユベール様、何か召し上がりたいものはございませんか?」
今日もほとんど食べられなかった夕食を、クロエが下げてくれる。
「今日もこんなに残してしまって、気を使わせてしまって、ごめんね。でも本当に何も食べられそうにないんだ」
あの日以来、僕は食べようと思っても食べ物が喉を通らない。それでも食べ物を飲み込もうとすると、吐いてしまう。
僕もいつかは、あの不審者みたいに……。
どうしても、不審者が床に倒れ絶命した姿が目に焼き付いてしまって、忘れられない。
窓の外を見ると、まるで絵に描かれたような左右均等で美しい庭が見え、遠くにはガゼボらしい建物や噴水、薔薇のアーチも見えた。
見えるけど、僕は決してそこにはいけない。
「ごめんねクロエ、一人にさせて」
「はい。何か御用の時はいつでお知らせください」
クロエが頭を下げて部屋から出て行く音がした。
僕の部屋は三階で、真下には膝だけぐらいまでしかない低い木が植えられている。
窓の外にある出っ張りであるフラワーボックスに、小鳥が飛んできた。
「おいで」
僕が窓を開けると小鳥が僕に近づいて来る。
僕が掌にちぎったパンを乗せると、小鳥はパンを突く。
僕にできた唯一の友達。
「君は外の世界を飛び回れる自由な小鳥。僕は部屋から出られない籠の中の鳥。君がもし言葉が話せたら外の世界のこと、教えてくれる?」
語りかけると、小鳥はパンから顔をあげてピーっと鳴く。
「君は優しいね。さぁ、もっとお食べ」
小鳥がパンを突いている姿を見ていると、その視線の先に殿下の姿があった。
何をされているんだろう?
部屋の中からだけではよく見えない。窓から身を乗り出して見ると、殿下は青い花を摘んでいる。
その花は見覚えがある。あの花はたしか……僕の部屋の花瓶によくいけられている花?
今日もほとんど食べられなかった夕食を、クロエが下げてくれる。
「今日もこんなに残してしまって、気を使わせてしまって、ごめんね。でも本当に何も食べられそうにないんだ」
あの日以来、僕は食べようと思っても食べ物が喉を通らない。それでも食べ物を飲み込もうとすると、吐いてしまう。
僕もいつかは、あの不審者みたいに……。
どうしても、不審者が床に倒れ絶命した姿が目に焼き付いてしまって、忘れられない。
窓の外を見ると、まるで絵に描かれたような左右均等で美しい庭が見え、遠くにはガゼボらしい建物や噴水、薔薇のアーチも見えた。
見えるけど、僕は決してそこにはいけない。
「ごめんねクロエ、一人にさせて」
「はい。何か御用の時はいつでお知らせください」
クロエが頭を下げて部屋から出て行く音がした。
僕の部屋は三階で、真下には膝だけぐらいまでしかない低い木が植えられている。
窓の外にある出っ張りであるフラワーボックスに、小鳥が飛んできた。
「おいで」
僕が窓を開けると小鳥が僕に近づいて来る。
僕が掌にちぎったパンを乗せると、小鳥はパンを突く。
僕にできた唯一の友達。
「君は外の世界を飛び回れる自由な小鳥。僕は部屋から出られない籠の中の鳥。君がもし言葉が話せたら外の世界のこと、教えてくれる?」
語りかけると、小鳥はパンから顔をあげてピーっと鳴く。
「君は優しいね。さぁ、もっとお食べ」
小鳥がパンを突いている姿を見ていると、その視線の先に殿下の姿があった。
何をされているんだろう?
部屋の中からだけではよく見えない。窓から身を乗り出して見ると、殿下は青い花を摘んでいる。
その花は見覚えがある。あの花はたしか……僕の部屋の花瓶によくいけられている花?
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