【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

文字の大きさ
上 下
12 / 109

翌日 ③

しおりを挟む
 精白パンとライ麦パン。透明感のあるスープにはたくさんの野菜が、具としてふんだんに使われてる野菜スープ。フォークを入れると中身が蕩け出てきそうなオムレツ、絞りたての牛のミルク、高山特有の葉物野菜のサラダに豚の腸で作ったソーセージ。

 どれここれも幼い頃から食べ親しんだ故郷の料理。

「わぁ~」
 テーブルに料理が並べられ目を奪われた。
「どうぞユベール様」
 クロエがが椅子を引いてくれ、僕はいざなわれるように席につく。
「お好きなだけ、召し上がってくださいね」
 グラスにクロエがミルクを注いでくれる。
「本当?これ全部、僕の朝食?」

 食事一品一品、目移りしてしまう。
 こんなに食欲をそそられた食事は久しぶりだ。

「そうですよ。おかわりもございます。遠慮なくおっしゃってください」
「クロエ、ありがとう」
 そういうと、
「そのお気持ち、ちゃんとお伝えしておきますね」
 クロエは嬉しそうに微笑んだ。


 本当に久しぶりに、落ち着いて暖かな食事をお腹いっぱい食べることができた。
 食後、クロエが「ハーブティーの用意をしてきますね」と部屋を出る。
 これは僕の思い過ごしかもしれないけど、クロエは僕が一人になる時間をくれたような気がした。
 改めて僕にあてがってくださった部屋を見回す。
 とても質素だが、埃一つなくベッドもきちんとベッドメイキングされている。
 ベッドの側のテーブルに目をやると、一輪挿しの花瓶に抜ける空のよう青い花が飾られている。香りを嗅ぐと甘い香がし、そして遅れて草の青々しい爽やかな香がする。
 大きな窓から手入れをされた園庭を見下ろす。剪定師せんていしがどの木も同じ形に切り揃えていた。
 外は爽やかそうな風が吹いているのか、園庭の木々や花がかすかに揺れる。
 こんな日に孤児院の子供達とピクニックに行ったことが、懐かしい。

 あの子達は元気だろうか?
 黙って出て行ったこと、怒ってないだろうか……。
 あの子達が恋しい……。

 揺れる草花を見ると、家族で過ごした記憶が蘇る。

 父様、母様、兄様、姉様……。
 僕は偽りの側室を演じることが、できるでしょうか?
 僕は孤児院の家族達を守れているでしょうか?
 僕は孤児院の家族達を守れるでしょうか?

 昨日の今頃は、ダインズ家から宮殿に行く馬車の中。
 昨日、今の現状を予期できなかった。
 
 明日はどうなってる? 明後日は? しあさっては?
 これからのことはわからない。
 ただ確かなのは、殿下の意図していないことをしてしまったら、殿下の機嫌を損ねてしまったら、確実に僕はこの宮殿から追い出されるか、幽閉されるか、最悪の場合、殺されてしまう。
 死を覚悟して宮殿ここに来たのに、いざ本当に死を身近に感じると恐ろしくてたまらない。
 暖かな部屋なのに、身震いをしてしまう。  
 また外の景色を見ると、母様の言葉が思い出される。

『人を見かけで判断してはいけません。見えているところだけが、その人の全てではありません。じっくりと一人ひとりと関わるのです。そしてその人の喜びや悲しみを共に感じるのです。ユベール、人の心に寄り添い、時に助け、人のために行動できる父様みたいな人になるのですよ』

 母様が僕の頭を撫でながら、優しい声色で微笑みながら繰り返し繰り返し言ってくれたこと。
 そして隣国の兵士に殺されそうになった時、僕を逃すため、身をていしてぼくを守ってくれた父様、母様、兄様、姉様、乳母の姿が思い出される。

 ねぇ、母様。
 僕はそのような立派な人になれるでしょうか?

 青く澄んだ空に問いかけても、答えはかえってこなかった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士

倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。 フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。 しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。 そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。 ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。 夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。 一人称。 完結しました!

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...