【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月

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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

ホームセンター ②

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「鈴木くん?副社長?」
 園芸コーナーでパクチーやバジルの種を見ている時に、後ろから声をかけられ振り返る。

「谷川くん!どうしてここに?」
「野菜の種を買いに、鈴木くんは?」
「俺も野菜の種を買いに」
「何を買うの?」
「この前谷川くんが『バジルとパクチーは育てやすい』って言ってたから、それを買いに」
「へー、鈴木くんも家庭菜園始めるんだね」
「そうなんだ」
 谷川はまるで俺が見えていないかのように、鈴木にだけ話かける。

「副社長も家庭菜園されるんですか?」
 やっと谷川が俺の方を見る。
「まあそうなるかな?」
 鈴木がしたいのであって、俺が家庭菜園をしたい訳じゃない。

「副社長が土いじりなんて想像つきません」
 確かに会社での俺はそうかもしれない。だが谷川にそう言われるとカチンとくる。

「いや、親しい知人が家庭菜園をするって言い出したから、その付き添いだ」
「親しい知人、ですか?」
 谷川は鈴木の方を見る。
「副社長が言われている『親しい知人』は俺じゃないよ。俺が家庭菜園をするって話をしたら、副社長の知人の方もはじめようとされてたみたいで。それで俺が買いに行く時一緒に行きませんか?って誘ったんだ。ほら副社長、ホームセンターとか行ったことなさそうだから。そうですよね、副社長」
 懸命に鈴木が谷川に言い訳する姿も、休日なのに『副社長』と呼ばれるのも気持ちいいものではない。
 でもここで真実を話すことはできない。

「そうなんだ」
 不本意ながら、鈴木の作り話に話を合わせた。
「そうだったんですね。一瞬、副社長の親しい知人が鈴木くんなのかと思って、驚きました」
 谷川の言葉にいちいち苛立ちを感じる。

「そうだ、鈴木くんはもう種買った?」
「今からレジに行くとこ」
「俺も今からレジなんだけどさ、この後、おしゃれな植木鉢やプランターや園芸用ぐ売っている店に行こうと思うんだけど、一緒に行かないか?」
「この後は……」
 鈴木がちらりと俺を見る。

「副社長と予定あるの?」
「そんなことはないけど……」
「じゃあいいじゃん。ここから近いし行けばそこのオーナーに色々教えてもらえるよ」
「でも……」
 また鈴木は俺をちらりと見た。

 俺は『行ってこい』というように頷くと、
「じゃあちょっとだけ」
 谷川に返事をした。
「よかった~。絶対鈴木くん気にいると思うよ。じゃあレジに行こうか」
 鈴木は谷川に促されるままレジに向かう。
 その場に1人残された俺は駐車場に向い、何も買わず1人でマンションに帰った。

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