173 / 202
愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜
ブラックコーヒー ②
しおりを挟む
「鈴木はいつもブラックだよな」
「はい。父がコーヒーのブラックが好きで。だからブラックを飲むと父のことを思い出すんです」
鈴木は以前、父親は他界していると言っていた。
「尊敬できる、自慢の父でした」
「そうか」
尊敬できて自慢の父親なんて羨ましい。
俺は合理的にしか物事が考えられず、肉親でも切り捨てかねない父親のことを、尊敬したり、自慢したいとも思ったことはない。
だからそう思える父親がいる鈴木が少し羨ましくなった。
「鈴木の父さんってどんな人だったんだ?」
鈴木の頬がピクリとする。
が、すぐにいつものように微笑み、
「嘘が嫌いで、誰に対しても平等で優しくて、責任感が強くて、何があっても人に悪いことを押し付けたりしない、思いやりがある人でした。俺は父さんみたいな大人になりたいと思って言います」
「俺の親父とは正反対だ。俺は父親みたいな人間にはなりたくない」
そんなこと思っても言ってはいけないと思っていても、鈴木にはついポロっと言ってしまう。
「俺の実家は、ある大きな企業の子会社の下請けのその下請けをする町工場でした」
鈴木は話し始めた。
「病弱だった母は俺が小学生の時に亡くなり、父は男で1人俺を育ててくれていました。従業員10人ぐらいの小さな工場でしたが、みんな仲が良くて家族みたいで幼かった俺を我が子のように可愛がってくれていて、仕事も順調で裕福ではありませんでしたが、とても幸せでした」
「……」
「でも俺が中学になってしばらく経った頃、その大きな企業の子会社と下請け会社がなくなることになたんです。でもそのことを俺たちが聞かされたのは、その子会社と下請けの会社がなくなった翌日。注文の品物を納品しに行った時に言われたんです」
「……」
「もちろん代金は払ってもらえず、倒産した下請けと専門契約をしていたので、他の会社と取引もなく、収入源はなくなりました。でも従業員に給料は払わないといけない。両親は貯金を切り崩し、それでも足りないので昼夜かまわず働きました。俺も働きたかったのですが、中学生で働けず……。そんな生活で父は過労で倒れそのまま……」
鈴木は一度視線をコーヒーに落とし、そして俺の目をじっと見る。
「大企業は大企業として、大変な部分もあると思います。だから下請けを切ってしまうのも仕方ないかもしれません。でも、だからって何も教えてもらえないなんて不公平です。小さな会社だって、小さいなりに一生懸命頑張っているんです。そんなに利益が出なくても、それでも色々やりくりしながら頑張ってるんです。なのに、なのに……悔しい……」
鈴木の瞳から大粒の涙が溢れた。
鈴木の体の底から悔しさ滲み出ている。
俺がそっと腕を伸ばすと、鈴木は乱暴に自分の服の袖で目をゴシゴシと擦った。
「俺はその企業を許さない。絶対に……」
決意生命のような鈴木の言葉は俺の胸に響いた。
「俺にできることがあったら、なんでも言ってくれ」
「内藤さんは、本当に優しいんですね。でもこれは俺の問題です。だから大丈夫です」
鈴木は嬉しそうに、でも悲しそうに微笑んだ。
「はい。父がコーヒーのブラックが好きで。だからブラックを飲むと父のことを思い出すんです」
鈴木は以前、父親は他界していると言っていた。
「尊敬できる、自慢の父でした」
「そうか」
尊敬できて自慢の父親なんて羨ましい。
俺は合理的にしか物事が考えられず、肉親でも切り捨てかねない父親のことを、尊敬したり、自慢したいとも思ったことはない。
だからそう思える父親がいる鈴木が少し羨ましくなった。
「鈴木の父さんってどんな人だったんだ?」
鈴木の頬がピクリとする。
が、すぐにいつものように微笑み、
「嘘が嫌いで、誰に対しても平等で優しくて、責任感が強くて、何があっても人に悪いことを押し付けたりしない、思いやりがある人でした。俺は父さんみたいな大人になりたいと思って言います」
「俺の親父とは正反対だ。俺は父親みたいな人間にはなりたくない」
そんなこと思っても言ってはいけないと思っていても、鈴木にはついポロっと言ってしまう。
「俺の実家は、ある大きな企業の子会社の下請けのその下請けをする町工場でした」
鈴木は話し始めた。
「病弱だった母は俺が小学生の時に亡くなり、父は男で1人俺を育ててくれていました。従業員10人ぐらいの小さな工場でしたが、みんな仲が良くて家族みたいで幼かった俺を我が子のように可愛がってくれていて、仕事も順調で裕福ではありませんでしたが、とても幸せでした」
「……」
「でも俺が中学になってしばらく経った頃、その大きな企業の子会社と下請け会社がなくなることになたんです。でもそのことを俺たちが聞かされたのは、その子会社と下請けの会社がなくなった翌日。注文の品物を納品しに行った時に言われたんです」
「……」
「もちろん代金は払ってもらえず、倒産した下請けと専門契約をしていたので、他の会社と取引もなく、収入源はなくなりました。でも従業員に給料は払わないといけない。両親は貯金を切り崩し、それでも足りないので昼夜かまわず働きました。俺も働きたかったのですが、中学生で働けず……。そんな生活で父は過労で倒れそのまま……」
鈴木は一度視線をコーヒーに落とし、そして俺の目をじっと見る。
「大企業は大企業として、大変な部分もあると思います。だから下請けを切ってしまうのも仕方ないかもしれません。でも、だからって何も教えてもらえないなんて不公平です。小さな会社だって、小さいなりに一生懸命頑張っているんです。そんなに利益が出なくても、それでも色々やりくりしながら頑張ってるんです。なのに、なのに……悔しい……」
鈴木の瞳から大粒の涙が溢れた。
鈴木の体の底から悔しさ滲み出ている。
俺がそっと腕を伸ばすと、鈴木は乱暴に自分の服の袖で目をゴシゴシと擦った。
「俺はその企業を許さない。絶対に……」
決意生命のような鈴木の言葉は俺の胸に響いた。
「俺にできることがあったら、なんでも言ってくれ」
「内藤さんは、本当に優しいんですね。でもこれは俺の問題です。だから大丈夫です」
鈴木は嬉しそうに、でも悲しそうに微笑んだ。
13
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
身代わりβの密やかなる恋
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
旧家に生まれた僕はαでもΩでもなかった。いくら美しい容姿だと言われても、βの僕は何の役にも立たない。ところがΩの姉が病死したことで、姉の許嫁だったαの元へ行くことになった。※他サイトにも掲載
[名家次男のα × 落ちぶれた旧家のβ(→Ω) / BL / R18]
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
年下男子は手強い
凪玖海くみ
BL
長年同じ仕事を続けてきた安藤啓介は、どこか心にぽっかりと穴が開いたような日々を過ごしていた。
そんなある日、職場の近くにある小さなパン屋『高槻ベーカリー』で出会った年下の青年・高槻直人。
直人のまっすぐな情熱と夢に触れるうちに、啓介は自分の心が揺れ動くのを感じる。
「君の力になりたい――」
些細なきっかけから始まった関係は、やがて2人の人生を大きく変える道へとつながっていく。
小さなパン屋を舞台に繰り広げられる、成長と絆の物語。2人が見つける“未来”の先には何が待っているのか――?
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
【完結】運命の相手は報われない恋に恋してる
grotta
BL
オメガの僕には交際中の「運命の番」がいる。僕は彼に夢中だけど、彼は運命に逆らうようにいつも新しい恋を探している。
◆
アルファの俺には愛してやまない「運命の番」がいる。ただ愛するだけでは不安で、彼の気持ちを確かめたくて、他の誰かに気があるふりをするのをやめられない。
【溺愛拗らせ攻め×自信がない平凡受け】
未熟で多感な時期に運命の番に出会ってしまった二人の歪んだ相思相愛の話。
久藤冬樹(21歳)…平凡なオメガ
神林豪(21歳)…絵に描いたようなアルファ(中身はメンヘラ)
※番外編も完結しました。ゼミの後輩が頑張るおまけのifルートとなります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる