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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

ブラックコーヒー ②

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「鈴木はいつもブラックだよな」
「はい。父がコーヒーのブラックが好きで。だからブラックを飲むと父のことを思い出すんです」
 鈴木は以前、父親は他界していると言っていた。

「尊敬できる、自慢の父でした」
「そうか」
 尊敬できて自慢の父親なんて羨ましい。
 俺は合理的にしか物事が考えられず、肉親でも切り捨てかねない父親のことを、尊敬したり、自慢したいとも思ったことはない。
 だからそう思える父親がいる鈴木が少し羨ましくなった。

「鈴木の父さんってどんな人だったんだ?」
 鈴木の頬がピクリとする。
 が、すぐにいつものように微笑み、
「嘘が嫌いで、誰に対しても平等で優しくて、責任感が強くて、何があっても人に悪いことを押し付けたりしない、思いやりがある人でした。俺は父さんみたいな大人になりたいと思って言います」
「俺の親父とは正反対だ。俺は父親みたいな人間にはなりたくない」
 そんなこと思っても言ってはいけないと思っていても、鈴木にはついポロっと言ってしまう。

「俺の実家は、ある大きな企業の子会社の下請けのその下請けをする町工場でした」
 鈴木は話し始めた。

「病弱だった母は俺が小学生の時に亡くなり、父は男で1人俺を育ててくれていました。従業員10人ぐらいの小さな工場でしたが、みんな仲が良くて家族みたいで幼かった俺を我が子のように可愛がってくれていて、仕事も順調で裕福ではありませんでしたが、とても幸せでした」
「……」

「でも俺が中学になってしばらく経った頃、その大きな企業の子会社と下請け会社がなくなることになたんです。でもそのことを俺たちが聞かされたのは、その子会社と下請けの会社がなくなった翌日。注文の品物を納品しに行った時に言われたんです」
「……」

「もちろん代金は払ってもらえず、倒産した下請けと専門契約をしていたので、他の会社と取引もなく、収入源はなくなりました。でも従業員に給料は払わないといけない。両親は貯金を切り崩し、それでも足りないので昼夜かまわず働きました。俺も働きたかったのですが、中学生で働けず……。そんな生活で父は過労で倒れそのまま……」
 鈴木は一度視線をコーヒーに落とし、そして俺の目をじっと見る。

「大企業は大企業として、大変な部分もあると思います。だから下請けを切ってしまうのも仕方ないかもしれません。でも、だからって何も教えてもらえないなんて不公平です。小さな会社だって、小さいなりに一生懸命頑張っているんです。そんなに利益が出なくても、それでも色々やりくりしながら頑張ってるんです。なのに、なのに……悔しい……」
 鈴木の瞳から大粒の涙が溢れた。

 鈴木の体の底から悔しさ滲み出ている。
 俺がそっと腕を伸ばすと、鈴木は乱暴に自分の服の袖で目をゴシゴシと擦った。

「俺はその企業を許さない。絶対に……」
 決意生命のような鈴木の言葉は俺の胸に響いた。
「俺にできることがあったら、なんでも言ってくれ」
「内藤さんは、本当に優しいんですね。でもこれは俺の問題です。だから大丈夫です」
 鈴木は嬉しそうに、でも悲しそうに微笑んだ。
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