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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜
ブラックコーヒー ①
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あの後、しばらくして鈴木が自室に戻った音がしたが、その後はとても静かだった。
鈴木は怖い思いをしていたのに、追い討ちをかけるように俺はあんなことをしてしまって……。
自己嫌悪で一睡もできなかった。
翌日の午前5時ごろ。
鈴木が部屋を出た音がし、なかなか部屋に帰ってくる気配がない。
今日は土曜日で仕事は休み。
休みの日は特に示し合わせていないが、8時半ごろ朝食を食べるようになっていた。
だから5時起床は早い。
気になり俺は自室を出ると、キッチンから物音がする。
ーカチャー
キッチンのドアを開けると、そこには厚焼き卵を作るフライパンと菜箸を持ったエプロン姿の鈴木がいた。
「あ、すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、その前から起きていたから。それよりこんな朝早くからどうした?」
「朝食作りをしてて。俺、どうも同時進行が苦手らしくて、それじゃあ一つ一つすればいいってなって。それで8時半に間に合うよう逆算したからこれぐらから作らないと間に合わなくて、今、厚焼き玉らしきものを作っています」
「また難しいものい挑戦してるな」
フライパンを覗き込むと、フライパンの隅に押し込まれた、見ただけでわかるカチカチな厚焼き卵とは言い難い卵料理があった。
「一つ一つ作っても、料理だけは全然上手くならなくて……」
しゅんと頭を項垂れた鈴木の両手首には、昨日貼った湿布がある。
「まだ痛むか?」
「少し……。でも[[rb:内藤さん > ・・・・]]が湿布を貼ってくださったので、ずいぶん楽です」
鈴木が手首を回してみせた。
『内藤さん』呼ばれて、どきりとした。
ああ、今日は仕事が休み。だからプライベート呼びか。
「無理しなくていいのに」
「無理してません。俺が作りたいんです」
「ならよかった。何か手伝おうか?」
「じゃあ、あそこでゆっくりしててください」
鈴木はソファーを指差す。
昨日のことが思い出されて気まずい。
「ゆっくりじゃなくて、何かすること、ない?」
伺うように聞くと「じゃあ」と、鈴木がコーヒーメーカでできてくるコーヒと甘いカフェオレをマグカップに注ぐと、
「俺とコーヒー飲んでください」
カフェオレが入ったマグカップを差し出した。
そういう意味じゃないんだけどな……と思いながらも、鈴木と一緒にソファーに座る。
「内藤さんはコーヒー飲まれる時も砂糖多めなんですか?」
「そうだな」
「いつからなんですか?」
「小学低学年ぐらいからかな?その時本当はコーヒーなんて苦くて苦手だったんだが、コーヒー飲んでたら大人な感じがしてな。それでもブラックは無理だったから砂糖多めで飲んでた。その名残が今でもあるんだ。もちろん今はブラックも飲めるぞ」
「もちろんって」
おもしろそうに鈴木は笑う。
鈴木は怖い思いをしていたのに、追い討ちをかけるように俺はあんなことをしてしまって……。
自己嫌悪で一睡もできなかった。
翌日の午前5時ごろ。
鈴木が部屋を出た音がし、なかなか部屋に帰ってくる気配がない。
今日は土曜日で仕事は休み。
休みの日は特に示し合わせていないが、8時半ごろ朝食を食べるようになっていた。
だから5時起床は早い。
気になり俺は自室を出ると、キッチンから物音がする。
ーカチャー
キッチンのドアを開けると、そこには厚焼き卵を作るフライパンと菜箸を持ったエプロン姿の鈴木がいた。
「あ、すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、その前から起きていたから。それよりこんな朝早くからどうした?」
「朝食作りをしてて。俺、どうも同時進行が苦手らしくて、それじゃあ一つ一つすればいいってなって。それで8時半に間に合うよう逆算したからこれぐらから作らないと間に合わなくて、今、厚焼き玉らしきものを作っています」
「また難しいものい挑戦してるな」
フライパンを覗き込むと、フライパンの隅に押し込まれた、見ただけでわかるカチカチな厚焼き卵とは言い難い卵料理があった。
「一つ一つ作っても、料理だけは全然上手くならなくて……」
しゅんと頭を項垂れた鈴木の両手首には、昨日貼った湿布がある。
「まだ痛むか?」
「少し……。でも[[rb:内藤さん > ・・・・]]が湿布を貼ってくださったので、ずいぶん楽です」
鈴木が手首を回してみせた。
『内藤さん』呼ばれて、どきりとした。
ああ、今日は仕事が休み。だからプライベート呼びか。
「無理しなくていいのに」
「無理してません。俺が作りたいんです」
「ならよかった。何か手伝おうか?」
「じゃあ、あそこでゆっくりしててください」
鈴木はソファーを指差す。
昨日のことが思い出されて気まずい。
「ゆっくりじゃなくて、何かすること、ない?」
伺うように聞くと「じゃあ」と、鈴木がコーヒーメーカでできてくるコーヒと甘いカフェオレをマグカップに注ぐと、
「俺とコーヒー飲んでください」
カフェオレが入ったマグカップを差し出した。
そういう意味じゃないんだけどな……と思いながらも、鈴木と一緒にソファーに座る。
「内藤さんはコーヒー飲まれる時も砂糖多めなんですか?」
「そうだな」
「いつからなんですか?」
「小学低学年ぐらいからかな?その時本当はコーヒーなんて苦くて苦手だったんだが、コーヒー飲んでたら大人な感じがしてな。それでもブラックは無理だったから砂糖多めで飲んでた。その名残が今でもあるんだ。もちろん今はブラックも飲めるぞ」
「もちろんって」
おもしろそうに鈴木は笑う。
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