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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

後任秘書候補 ②

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「山崎さん。確認お願いします」
「山崎さん。これでよろしいでしょうか?」
「山崎さん」
「山崎さん」
「山崎さん」
 ……。
 副所長室は晴人の部屋なのか?と思うほど、朝から晩まで晴人を呼ぶ鈴木の声が響く。
「なぁ晴人。ここいつからお前の部屋になったんだ?」
 冗談半分に晴人に聞いてみると、
「鈴木くんが秘書になった頃からでしょうか?」
 また鈴木に「山崎さ~ん」と呼ばれている晴人が苦笑いする。

 仕事熱心なのはいいことだし、早く仕事を覚えたい気持ちも大切だ。
 だが鈴木の場合はやる気が空回りしているようにも見える。

「あまり無理するなよ」
 そう声をかけるが、
「これぐらい大丈夫です」
 返ってくる答えはいつも同じ。
 秘書の仕事を完璧にこなす晴人の背中を、必死に追いかけているように見えた。

 そんなある日。
 今までは清潔感あふれる装いだった鈴木が、二日連続で同じネクタイをし、ワイシャツはシワが寄っている。

 おかしいな?と思ったが、そんな日もあるだろうと何も言わなかった。
 だが次の日も、その次の日もネクタイは同じ。ワイシャツの皺も目立つ。

 晴人に鈴木の装いのことを聞いてみると、晴人も気になり声をかけたようで「気をつけます」と言った次の日も、何も変わってなかったとのことだった。
 鈴木のプライベートに口出しするつもりはないが、このまま続けば仕事に支障をきたす。

 一度話をしないといけないな。
 鈴木が同じネクタイをしてきてから4日目。俺は鈴木を飲みに誘うことにした。

 込み入った話もあるかもしれないと、個室のある寿司屋にした。
 店に着いた時から緊張していた鈴木は個室に入った時には初めて会った時のように、体がガチガチ。
 緊張していると言うより、なんだか怯えている?
 いつもの鈴木と違う。
 とりあえず刺身の盛り合わせと日本酒を頼み、運ばれてくる。

 鈴木が俺の[[rb:お猪口 > おちょこ]]に酒を注ごうとしたので、俺はお猪口の口を手で隠し「自分で入れるから」と、鈴木からとっくりを取ろうとした時、鈴木の手に俺の手が触れた。

 その時、
ーがちゃんー
 鈴木が俺の手を払いのけ、とっくりが畳に落ちた。
「す、すみません!」
 急いで畳に溢れた酒を鈴木は拭いているが、今の鈴木は明らかにおかしい。
「最近様子がおかしいが、何か悩み事があるんじゃないのか?」
「!特に……ないです」
 顔を上げずに答える。
 これは絶対になにかある人の行動だ。

「それでも今、何かに怯えているだろう?」
「!」
 ハッと鈴木が顔を上げる。
 何かに怯えているのは確定だ。
 じゃあそれは何か?
 食事を一緒にすることが嫌なのか?
 いや毎日昼食を一緒に食べているから、それは違う。
 いつもと違うこと?いつもと違うこと?
 あ!

「鈴木、もしかして俺と2人で個室にいるのが怖いのか?」
「!」
 鈴木の目が大きく見開かれる。
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