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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

出会い

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 年の暮れ、12月。
 外にチラチラと雪が降りだし、街はクリスマスの飾り付けが煌びやかになってきた頃。
 万年繁忙期みたいな俺は、朝食をとる間もなく出社し俺のオフィス、副社長室に入ると、ずっと嗅いでいたいようなした甘い香りが、ふわっとした。
 なんの香だろう?
 ぼんやり考えていると、
「副社長、おはようございます」
 静かに、だがハッキリとした口調で挨拶する晴人に対して、
「お、お、おは、おはよう、ござ、います!」
 噛んでいるし声がうわずりながら、見知らぬ男性が俺に挨拶をした。

「おはよう」
 ちらりと見知らぬ男性を見ると、
「はじ、はじめまして。今日から副社長の秘書見習いをさせて頂きます……鈴木圭太けいたと、言います……」
 全身から緊張感が溢れ出していた圭太を見て、自分も初出社の時の挨拶で、ガチガチに緊張したことを思い出した。

 鈴木圭太……。
 ああ、確か来月から育休に入る晴人に変わって、新しい秘書が来るって聞いてたっけ。
「こちらこそよろしく。山崎は厳しいが本当によく出来た秘書だ。沢山勉強させてもらえ」
「ハイ!」
 圭太は元気に返事をする。

 晴人は記憶力がよく本当によく気が付き、社内でも取引先でも評判がいい秘書。
 その晴人の後任となると色々な重圧に耐えなければならないだろう。

 晴人と鈴木は少しばかり面識があり、晴人の話では、鈴木は人が気付かないところに気が付き、それに対処し行動につせる奴だと聞いていた。
 それに人事からは、鈴木は28歳という歳も見た目も若く秘書経験はないが、やる気と根性と体力だけはお墨付きです。と聞かされていた。

 それでも続けられるか会ってみるまで不安だったが、とりあえず今のところは大丈夫そうでホッとした。
「それでは鈴木くん。ここに私がまとめた取引先情報が入っています。1週間で取引先の顔、名前、会社名、役職、性格に好物。その他備考欄に書いてあることを覚えてきてください」
「え!?1週間でですか!?」
「はい1週間です」
 中に何人分入っているか見当もつかない暗号化されたデータを、晴人から手渡された鈴木の顔が顔面蒼白となる。

 鈴木は今日が秘書見習い初出勤。あまり負担をかけなくない。
「日中の仕事もあるし、それはさすがにやりすぎじゃないか?」
 晴人に声をかけるが、
「本当は明後日までと言いたいところですが、秘書経験がないとお聞きしているので、期間を長くしたぐらいです。秘書になった時点で、新人もベテランも関係ありません」
 ごもっともでございます……
 鈴木に助け舟を出したつもりが、晴斗の言葉にぐうの声も音も出ない。

「それでは本日の予定のは……」
 特に変わりなく、副社長としてのいつもの仕事確認が始まった。
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