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ドライブ
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小高い丘を登りきると、そこには展望台があった。
「展望台からの景色が綺麗なんだよ」
晴人は瑞稀の手をひき、展望台の階段を登る。
「わぁ~」
晴人が言うように、展望台から見る景色はとても綺麗だった。
今さっき車で通った海岸沿いの道も、楽しく昼食をとったカフェも、キラキラ光る海も、海を囲むように立てられている家や建物も、小さく見える。
あたりはまだ明るいが、太陽が西に傾き始め、二人の影が少し長くなっていた。
「瑞稀」
晴人は正面から瑞稀を見つめ、緊張した声色で瑞稀の名前を読んだ。
「はい…」
瑞稀の中に緊張と不安が渦巻く。
「瑞稀、覚えてる?俺たち、ここにきたことあるんだよ」
「え…?」
改めてあたりを見回すが、瑞稀には見覚えがない。
「ごめんなさい…。僕、覚えてないです…」
これから何をいわれるのかと、胃がキリキリする。
「そうだよね。瑞稀と一緒に来たのは、瑞稀と初めてあった3日後で、下にあった遊具で遊び疲れた瑞稀は、この展望台に着く頃には、俺の背中で寝てたしね」
昔を思い出したのか、晴人の顔に笑顔が戻る。
「ここで瑞稀と遊んだ時間が本当に楽しくて、ここは俺の思い出の場所なんだ」
「そうだったんですね。僕も晴人さんとここに来たこと、覚えていたかったです…」
だったら、もし、ここで別れを告げられても、ここにあるいい思い出が残るのに…。
瑞稀の瞳に涙が浮かぶ。
「瑞稀のお母さんの再婚が決まって、離れ離れになった時、どうして『瑞稀と離れたくない』と言わなかったのかって、すごく後悔したんだ」
「後悔…ですか?」
「ああ。無理な話だとわかっていていても『あの時どうして瑞稀のことをもっと、引き止めなかったんだろう?』って…」
「…」
「瑞稀と離れ離れになった後、何も手につかなくなって、何度も瑞稀に連絡を取ろうとしたんだ。でも、瑞稀はまだ14歳。それに新しい家族もできて、幸せの真っ只中にいるのに、俺は瑞稀と連絡をとって何がしたいんだ?って。瑞稀の新しい生活の邪魔なだけなのかもしれないって…。だからしなかった」
「…」
「それでも瑞稀に会いたい時は、よくこの公園の展望台にきてたんだ。ここに来れば、あの時の瑞稀の笑顔も、一緒に過ごした時間も思い出も、思い出せたんだ」
「…」
「いい大人が、星にも願ったよ。『また瑞稀に会えますように…』ってね。でもそれぐらい、本当に会いたかったんだ…」
「…」
「だから、バーで再開した時、奇跡だと思った。この巡り合わせを絶対に逃さないって思ったら、あんなこと言ってしまってたよ」
思い出したのか、晴人が苦笑する。
「本当にびっくりしました」
瑞稀も思い出し、クスクスと笑った。
楽しかった。
晴人さんとの日々。
辛かったり、悲しかったことなんて一度もなかった。
ただただ幸せだった。
もし一生分の幸せを使い果たしたとしても、僕は後悔しない。
『ありがとう…晴人さん…』
最後は笑顔でお別れしよう…。
晴人との別れは締め付けられる思いだったが、それでも瑞稀は最高の笑顔を浮かべた。
ーさよなら、晴人さん…ー
心の中でそう呟いた時、
「展望台からの景色が綺麗なんだよ」
晴人は瑞稀の手をひき、展望台の階段を登る。
「わぁ~」
晴人が言うように、展望台から見る景色はとても綺麗だった。
今さっき車で通った海岸沿いの道も、楽しく昼食をとったカフェも、キラキラ光る海も、海を囲むように立てられている家や建物も、小さく見える。
あたりはまだ明るいが、太陽が西に傾き始め、二人の影が少し長くなっていた。
「瑞稀」
晴人は正面から瑞稀を見つめ、緊張した声色で瑞稀の名前を読んだ。
「はい…」
瑞稀の中に緊張と不安が渦巻く。
「瑞稀、覚えてる?俺たち、ここにきたことあるんだよ」
「え…?」
改めてあたりを見回すが、瑞稀には見覚えがない。
「ごめんなさい…。僕、覚えてないです…」
これから何をいわれるのかと、胃がキリキリする。
「そうだよね。瑞稀と一緒に来たのは、瑞稀と初めてあった3日後で、下にあった遊具で遊び疲れた瑞稀は、この展望台に着く頃には、俺の背中で寝てたしね」
昔を思い出したのか、晴人の顔に笑顔が戻る。
「ここで瑞稀と遊んだ時間が本当に楽しくて、ここは俺の思い出の場所なんだ」
「そうだったんですね。僕も晴人さんとここに来たこと、覚えていたかったです…」
だったら、もし、ここで別れを告げられても、ここにあるいい思い出が残るのに…。
瑞稀の瞳に涙が浮かぶ。
「瑞稀のお母さんの再婚が決まって、離れ離れになった時、どうして『瑞稀と離れたくない』と言わなかったのかって、すごく後悔したんだ」
「後悔…ですか?」
「ああ。無理な話だとわかっていていても『あの時どうして瑞稀のことをもっと、引き止めなかったんだろう?』って…」
「…」
「瑞稀と離れ離れになった後、何も手につかなくなって、何度も瑞稀に連絡を取ろうとしたんだ。でも、瑞稀はまだ14歳。それに新しい家族もできて、幸せの真っ只中にいるのに、俺は瑞稀と連絡をとって何がしたいんだ?って。瑞稀の新しい生活の邪魔なだけなのかもしれないって…。だからしなかった」
「…」
「それでも瑞稀に会いたい時は、よくこの公園の展望台にきてたんだ。ここに来れば、あの時の瑞稀の笑顔も、一緒に過ごした時間も思い出も、思い出せたんだ」
「…」
「いい大人が、星にも願ったよ。『また瑞稀に会えますように…』ってね。でもそれぐらい、本当に会いたかったんだ…」
「…」
「だから、バーで再開した時、奇跡だと思った。この巡り合わせを絶対に逃さないって思ったら、あんなこと言ってしまってたよ」
思い出したのか、晴人が苦笑する。
「本当にびっくりしました」
瑞稀も思い出し、クスクスと笑った。
楽しかった。
晴人さんとの日々。
辛かったり、悲しかったことなんて一度もなかった。
ただただ幸せだった。
もし一生分の幸せを使い果たしたとしても、僕は後悔しない。
『ありがとう…晴人さん…』
最後は笑顔でお別れしよう…。
晴人との別れは締め付けられる思いだったが、それでも瑞稀は最高の笑顔を浮かべた。
ーさよなら、晴人さん…ー
心の中でそう呟いた時、
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