135 / 202
話し合い ①
しおりを挟む
「それでは先輩。よろしくお願いします」
「ああ。しっかり話し合ってこい」
晴人は昴に肩をポンポンと二回叩かれ、気合いを入れられると、瑞稀と晴人は千景の病室を出る。
今から晴人の両親と会う。
瑞稀の鞄の中には5年前、手切金として渡され、一度も使われることがなかった小切手が入っている。
また別れるように言われないかと、晴人の両親と会うのは怖い。
以前は瑞稀1人だったが、今日は晴人がそばにいてくれる。
だから頑張ろうと、決着をつけようと決めた。
晴人が指定したのは、千景に何かあってもすぐに駆けつけられるようにと、病院のすぐそばにあるファミレス。
ランチの混雑時を避けた14時。
店内の客はまばら。
晴人はできるだけ店の真ん中にあるボックス席を選び、そこに座った。
晴人の両親は、約束の時間に10分遅れでやって来た。
「10分遅れですよ」
両親が席につくなり、晴人は2人を睨む。
「何年も音沙汰がないと思ったら、話がしたいって待ち合わせの場所も時間も、晴人が決めてしまうんですもの。私たちにも予定ってものがあります」
晴人の母親は息子の方だけを見て、瑞稀はいない人のような態度をとる。
「旦那様、奥様、ご無沙汰しています」
喉の奥で止まってしまいそうになる言葉を、瑞稀はどうにか声にした。
「……。それで、晴人は家に戻ってくる気になったの?」
晴人の母親は瑞稀のことを、完全に無視して話を進める。
「今、瑞稀が挨拶したの、聞こえてますよね」
怒りで眉間に深い縦皺を作りながらも、晴人は冷静でいようと気持ちをこらえていた。
「そうだったわね。ごめんなさい。お久しぶりね、瑞稀くん」
母親は顔に張り付いたような笑顔を瑞稀に向ける。
すぐにでも小切手を返そうと思っていたのに、母親の無言の圧力で緊張してしまい、体が動かず膝のにおいている手が小刻みに震える。
「大丈夫。俺が全部決着をつけるから」
晴人は瑞稀にだけ聞こえるように囁き、机のしたで瑞稀の手を握ると、両親の方をしっかりと見た。
「父さん、母さん。僕たちに謝らないといけないこと、ありますよね」
「なんのことかしら?」
母親がとぼけながら父親の方を見ると、
「さあ、なんのことだか」
父親もしらを切るつもりだ。
先ほどまでは冷静に話をしようとしていた晴人だったが、父親と母親の態度で完全に怒りが頂点に達した。
「俺に内緒で勝手に瑞稀にあって、俺と別れるように仕向けたんですよね。手切れ金として小切手を渡してまで!」
わざと店内に話の内容が聞こえるように、晴人は大きな声で話す。
「ああ。しっかり話し合ってこい」
晴人は昴に肩をポンポンと二回叩かれ、気合いを入れられると、瑞稀と晴人は千景の病室を出る。
今から晴人の両親と会う。
瑞稀の鞄の中には5年前、手切金として渡され、一度も使われることがなかった小切手が入っている。
また別れるように言われないかと、晴人の両親と会うのは怖い。
以前は瑞稀1人だったが、今日は晴人がそばにいてくれる。
だから頑張ろうと、決着をつけようと決めた。
晴人が指定したのは、千景に何かあってもすぐに駆けつけられるようにと、病院のすぐそばにあるファミレス。
ランチの混雑時を避けた14時。
店内の客はまばら。
晴人はできるだけ店の真ん中にあるボックス席を選び、そこに座った。
晴人の両親は、約束の時間に10分遅れでやって来た。
「10分遅れですよ」
両親が席につくなり、晴人は2人を睨む。
「何年も音沙汰がないと思ったら、話がしたいって待ち合わせの場所も時間も、晴人が決めてしまうんですもの。私たちにも予定ってものがあります」
晴人の母親は息子の方だけを見て、瑞稀はいない人のような態度をとる。
「旦那様、奥様、ご無沙汰しています」
喉の奥で止まってしまいそうになる言葉を、瑞稀はどうにか声にした。
「……。それで、晴人は家に戻ってくる気になったの?」
晴人の母親は瑞稀のことを、完全に無視して話を進める。
「今、瑞稀が挨拶したの、聞こえてますよね」
怒りで眉間に深い縦皺を作りながらも、晴人は冷静でいようと気持ちをこらえていた。
「そうだったわね。ごめんなさい。お久しぶりね、瑞稀くん」
母親は顔に張り付いたような笑顔を瑞稀に向ける。
すぐにでも小切手を返そうと思っていたのに、母親の無言の圧力で緊張してしまい、体が動かず膝のにおいている手が小刻みに震える。
「大丈夫。俺が全部決着をつけるから」
晴人は瑞稀にだけ聞こえるように囁き、机のしたで瑞稀の手を握ると、両親の方をしっかりと見た。
「父さん、母さん。僕たちに謝らないといけないこと、ありますよね」
「なんのことかしら?」
母親がとぼけながら父親の方を見ると、
「さあ、なんのことだか」
父親もしらを切るつもりだ。
先ほどまでは冷静に話をしようとしていた晴人だったが、父親と母親の態度で完全に怒りが頂点に達した。
「俺に内緒で勝手に瑞稀にあって、俺と別れるように仕向けたんですよね。手切れ金として小切手を渡してまで!」
わざと店内に話の内容が聞こえるように、晴人は大きな声で話す。
13
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
身代わりβの密やかなる恋
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
旧家に生まれた僕はαでもΩでもなかった。いくら美しい容姿だと言われても、βの僕は何の役にも立たない。ところがΩの姉が病死したことで、姉の許嫁だったαの元へ行くことになった。※他サイトにも掲載
[名家次男のα × 落ちぶれた旧家のβ(→Ω) / BL / R18]
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
【完結】運命の相手は報われない恋に恋してる
grotta
BL
オメガの僕には交際中の「運命の番」がいる。僕は彼に夢中だけど、彼は運命に逆らうようにいつも新しい恋を探している。
◆
アルファの俺には愛してやまない「運命の番」がいる。ただ愛するだけでは不安で、彼の気持ちを確かめたくて、他の誰かに気があるふりをするのをやめられない。
【溺愛拗らせ攻め×自信がない平凡受け】
未熟で多感な時期に運命の番に出会ってしまった二人の歪んだ相思相愛の話。
久藤冬樹(21歳)…平凡なオメガ
神林豪(21歳)…絵に描いたようなアルファ(中身はメンヘラ)
※番外編も完結しました。ゼミの後輩が頑張るおまけのifルートとなります
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる