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病院 ②
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看護師と晴人が血液検査に行った後の、処置室の前の廊下は鎮まりかえっていた。
瑞稀と昴は二人並んで椅子に座る。
時折、看護師や医師が出入りするとき処置室のドアが開く。
中に千景がいると思うと、居ても立ってもいられず、瑞稀はその度に腰を上げ、様子を聞きたい気持ちになるが、今は廊下で千景が適切な処置をしてもらい、無事であることを祈ることしかできない。
今まで千景が怪我をしないよう、細心の注意を払ってきた。
でも千景が大きくなるにつれ、動きも行動範囲も大きく広くなる。
それを制御する方法はなく、ただ本人と周りの大人たちが気をつけるしかなくなってきていた。
僕がもっとちゃんとしていれば……。
家でできる仕事ができていれば、千景とずっと一緒にいられたのにと、何度思ったことか。
でもそんなことをしてしまっては、千景はずっと瑞稀がつくった檻の中で生活しないといけなくなる。
外の世界。
千景だけの世界。
そんな世界との関わりを潰してしまう。
「僕は一体どうすれば……」
不安で押しつぶされそうになる。
「千景……」
祈る思いで、瑞稀は処置室見続ける。
まだ3月末。
日がかけて、廊下の寒さは増してくる。
気をしっかり持とうしていても、どうしても完全には不安は拭いされない。
その不安からなのか、寒さからなのか、瑞稀の体は震え、指先は冷え切っていた。
そんな時、昴が瑞稀の肩に自分が着ていた上着を、ふわっとかけた。
え?
瑞稀が昴の方を見ると、
「震えてたから」
昴が微笑む。
「変な意味はないんだ。ただ、こういう時、誰かそばにいて欲しいかな?って思って」
昴は微笑んだが、その微笑みの中にもどこか不安が見え隠れする。
「千景君なら大丈夫」
そんなこと、どこにも根拠なんてないのに、瑞稀はその言葉に縋りたかった。
朝「いってきます」と元気に保育園に通い、夕方「ママ、おかえりなさい」と出迎えてくれていた日々が当たり前だと思っていたが、それは当たり前のことではないと実感させられる。
僕にできることはないだろうか?
してあげられることはないだろうか?
できれば苦しんでいる千景と変わってあげたい。
それができなければ、自分の血がなくなったとしても、千景に輸血してあげたい。
千景が怪我をした状況を保育士が説明するが、何も頭に入ってこず、瑞稀のかわりに昴が話を聞いた。
1分1秒が永遠のように長い。
静まり返ったい病院の廊下がどこまでも続いている気がする。
処置室と廊下の長椅子の距離は離れていないはずのなのに、時間が経つにつれ、その間の距離はどんどん開いていく。
手を伸ばしても、千景はもう手のとどかにいところに行ってしまいそうで、恐ろしい。
瑞稀と昴は二人並んで椅子に座る。
時折、看護師や医師が出入りするとき処置室のドアが開く。
中に千景がいると思うと、居ても立ってもいられず、瑞稀はその度に腰を上げ、様子を聞きたい気持ちになるが、今は廊下で千景が適切な処置をしてもらい、無事であることを祈ることしかできない。
今まで千景が怪我をしないよう、細心の注意を払ってきた。
でも千景が大きくなるにつれ、動きも行動範囲も大きく広くなる。
それを制御する方法はなく、ただ本人と周りの大人たちが気をつけるしかなくなってきていた。
僕がもっとちゃんとしていれば……。
家でできる仕事ができていれば、千景とずっと一緒にいられたのにと、何度思ったことか。
でもそんなことをしてしまっては、千景はずっと瑞稀がつくった檻の中で生活しないといけなくなる。
外の世界。
千景だけの世界。
そんな世界との関わりを潰してしまう。
「僕は一体どうすれば……」
不安で押しつぶされそうになる。
「千景……」
祈る思いで、瑞稀は処置室見続ける。
まだ3月末。
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気をしっかり持とうしていても、どうしても完全には不安は拭いされない。
その不安からなのか、寒さからなのか、瑞稀の体は震え、指先は冷え切っていた。
そんな時、昴が瑞稀の肩に自分が着ていた上着を、ふわっとかけた。
え?
瑞稀が昴の方を見ると、
「震えてたから」
昴が微笑む。
「変な意味はないんだ。ただ、こういう時、誰かそばにいて欲しいかな?って思って」
昴は微笑んだが、その微笑みの中にもどこか不安が見え隠れする。
「千景君なら大丈夫」
そんなこと、どこにも根拠なんてないのに、瑞稀はその言葉に縋りたかった。
朝「いってきます」と元気に保育園に通い、夕方「ママ、おかえりなさい」と出迎えてくれていた日々が当たり前だと思っていたが、それは当たり前のことではないと実感させられる。
僕にできることはないだろうか?
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それができなければ、自分の血がなくなったとしても、千景に輸血してあげたい。
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1分1秒が永遠のように長い。
静まり返ったい病院の廊下がどこまでも続いている気がする。
処置室と廊下の長椅子の距離は離れていないはずのなのに、時間が経つにつれ、その間の距離はどんどん開いていく。
手を伸ばしても、千景はもう手のとどかにいところに行ってしまいそうで、恐ろしい。
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