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電話 ①

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 一日一日、幸恵と和子と一緒にする仕事を一生懸命した。
 廊下で女性社員と出くわせば「淫乱はいつまでここにいるつもりかしら」とわざと聞こえるように言われたり、男性社員に出くわせば「美人局ちゃん、俺なんかどう?」と言われ、日に日にエスカレートする嫌がらせやセクハラにも耐えた。
 
 そして最終日。
 幸恵と和子に最後の挨拶を終え、私服に着替えると瑞稀はある場所へ向かった。

——トン トン トン——

 部屋をノックする。
「はい」
 中から返事があった。
「成瀬です。今お時間よろしいでしょうか?」
「……」
無言のままガチャリとドアが開く。
「どうぞ」
 ドアを開けたのは無表情の晴人。
 瑞稀は晴人に一礼すると、
「失礼します」
 部屋の中に入って行った。

「あれ? 今日はどうしたの?」
 私服で訪れた瑞稀を、机でpcを見ていた昴が顔をあげ不思議そうに見た。
「実はお二人にご報告がありまして……」
 瑞稀に目も合わそうとしないし晴人と、いつも通りの笑顔を向けてくれる昴、二人を見る。
「今日はお二人に最後のご挨拶に来ました」
「最後の挨拶?」
「はい。明日より勤務地が変わって、御社で働かせていただくのが今日までとなりました」
「!」
「!」
 急な瑞稀からの告白に、二人は目を見開く。
 以前の瑞稀なら、勤務先の変更を言うことなく、辞めていたのかもしれない。
 でも、自分可愛さに黙っていなくなる卑怯なことはしないと決めていた。
 言うのに勇気がいるが、それが正しい選択だと思った。

「今日で最後って、どういうこと? ここで働く上で何か問題でもあった?」
 昴が聞けば、
「俺と再開した時『ここで働き続けたい』っていってたじゃないか。なのにどうして明日から違う場所で働くだなんていうんだ?また俺の前からいなくなるのか?そんなに俺がいやなのか? きらいなのか? 顔を合わせたくないほど憎いのか?俺が原因で辞めるのか?」
 困惑した晴人が瑞稀に近づく。
「御社で働かせてもらえて、本当に感謝しています。それに山﨑さんのことが原因で辞め勤務地を変えるわけでもありません」
「じゃあどうして……」
「次の勤務先は自宅からも保育園からも近く、派遣ではなく正社員として採用してくださるとのお話だったので、受けさせていただくことにしました」
「それが原因なら、ここでも給料をあげて福利厚生も良くする。瑞稀くんが契約している派遣会社とも話をして、瑞稀くんや一緒に働いている人と3人、社員契約してもいい。だからここに残って欲しい」
 昴が立ち上がった。

「ありがとうございます」
 そう瑞稀が言うと、ほっと安心したように昴が微笑むが、
「お気持ちは本当に嬉しいのですが、もう新しい会社とは契約を結んでしまいましたし、スキルアップのために新しい場所で頑張ってみたいんです」
 昴の目をしっかり見て行った。

 本当はずっとずっと幸恵や和子と一緒にここで働きたかった。
 でもそうすることで、幸恵や和子に嘘の噂が流れ、迷惑をかける。
 昴の気持ちに答えられないまま、これ以上関わりを持ってはいけない。
 そして自分勝手だが、愛する晴人と昔のように一緒にいられないのに、同じ場所にいることがつらかった。
 嘘をつき続けることがつらかった。
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