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お別れ遠足 ⑥
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「寝てしまいましたね」
「寝てしまったね」
信号待ちの時、運転席の昴と助手席に座る瑞稀は後部座席で寄り添うように眠っている千景と雫の寝顔を、微笑みながら見つめる。
一緒に帰れると大喜びしていた千景と雫だったが、車が発進して5分ほどたった頃には、もうすやすやと気持ちよさそうな寝息をたてていた。
瑞稀の家から動物園まで、電車とバスとで行けば1時間ほどかかるが、車だと20分。
千景が眠ってからすぐに瑞稀と千景は自宅に着いてしまった。
起こすのは可哀想だから、抱っこで連れてあがろう。
瑞稀がお礼を言って、家に帰ろうとした時、
「起こしてしまうのは可哀想なので、もう少しの間、ドライブしない?」
昴はそう言い、瑞稀を止めた。
「でもそれでは内藤さんと雫くんの帰宅時間が遅くなってしまいます…」
「車だから大丈夫。それに起きた時に千景くんも雫もお互いがいなかったら悲しむかなって思ってね」
「それはそうですが……またご迷惑をおかけすることにならないですか?」
「じゃあ、俺が迷惑にならないって言ったら、行ってくれるの?」
「え?」
まさかそんな返事が返ってくるとは思っておらず、瑞稀は驚いた。
「俺は迷惑だと思ってないよ」
そう言って昴は車を出した。
動きだした車は、静かな道路を走っている。
「そういえば成瀬さんって、いつから我が社で働いてるの?」
しばらく沈黙が流れていたが、何か話さないといけないと思ったのだろうか、昴が話し始めた。
「もうすぐ三年です」
「三年。結構長いんだね。ずっと派遣で働いてるの?」
「はい。ずっと派遣で清掃員をしています。以前は祖母の家の近くで働いていたのですが、祖母が亡くなってからはずっと御社で働かせていただいています」
「おばあさん亡くなってたんだね。悲しいことを思い出させてしまってごめん…」
「いえ……。祖母からたくさんの愛情をもらったので、寂しくありません。とても素敵な祖母でした」
瑞稀は祖母との記憶を蘇らせた。
「そうなんだ。いい思い出がたくさんあるんだね」
「はい」
おばあちゃん、僕、これからも頑張るよ。
千景と2人で頑張るよ。
ふと晴人の顔も浮かんだが、首を横に振り頭の中から晴人を消すと、瑞稀は暗くなってきた空を見上げた。
「成瀬さん、時折物凄く悲しそうな顔してるの知ってる?」
「え……」
「今日も時々してて、その度に千景くんが心配そうに成瀬さんのことを見ていたんだ」
「え!?」
そんなこと知らなかった。
気づかなかった。
千景にそんな心配をさせていたなんて……。
「寝てしまったね」
信号待ちの時、運転席の昴と助手席に座る瑞稀は後部座席で寄り添うように眠っている千景と雫の寝顔を、微笑みながら見つめる。
一緒に帰れると大喜びしていた千景と雫だったが、車が発進して5分ほどたった頃には、もうすやすやと気持ちよさそうな寝息をたてていた。
瑞稀の家から動物園まで、電車とバスとで行けば1時間ほどかかるが、車だと20分。
千景が眠ってからすぐに瑞稀と千景は自宅に着いてしまった。
起こすのは可哀想だから、抱っこで連れてあがろう。
瑞稀がお礼を言って、家に帰ろうとした時、
「起こしてしまうのは可哀想なので、もう少しの間、ドライブしない?」
昴はそう言い、瑞稀を止めた。
「でもそれでは内藤さんと雫くんの帰宅時間が遅くなってしまいます…」
「車だから大丈夫。それに起きた時に千景くんも雫もお互いがいなかったら悲しむかなって思ってね」
「それはそうですが……またご迷惑をおかけすることにならないですか?」
「じゃあ、俺が迷惑にならないって言ったら、行ってくれるの?」
「え?」
まさかそんな返事が返ってくるとは思っておらず、瑞稀は驚いた。
「俺は迷惑だと思ってないよ」
そう言って昴は車を出した。
動きだした車は、静かな道路を走っている。
「そういえば成瀬さんって、いつから我が社で働いてるの?」
しばらく沈黙が流れていたが、何か話さないといけないと思ったのだろうか、昴が話し始めた。
「もうすぐ三年です」
「三年。結構長いんだね。ずっと派遣で働いてるの?」
「はい。ずっと派遣で清掃員をしています。以前は祖母の家の近くで働いていたのですが、祖母が亡くなってからはずっと御社で働かせていただいています」
「おばあさん亡くなってたんだね。悲しいことを思い出させてしまってごめん…」
「いえ……。祖母からたくさんの愛情をもらったので、寂しくありません。とても素敵な祖母でした」
瑞稀は祖母との記憶を蘇らせた。
「そうなんだ。いい思い出がたくさんあるんだね」
「はい」
おばあちゃん、僕、これからも頑張るよ。
千景と2人で頑張るよ。
ふと晴人の顔も浮かんだが、首を横に振り頭の中から晴人を消すと、瑞稀は暗くなってきた空を見上げた。
「成瀬さん、時折物凄く悲しそうな顔してるの知ってる?」
「え……」
「今日も時々してて、その度に千景くんが心配そうに成瀬さんのことを見ていたんだ」
「え!?」
そんなこと知らなかった。
気づかなかった。
千景にそんな心配をさせていたなんて……。
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