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内藤昴 ②
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「この書類に目を通していただけましたら、とりあえず午前中の予定は完了です」
「やっとか……」
「やっとです」
ここ最近の激務に、昴と晴人の疲労は限界。
もうフラフラだ。
だがそれでも昴はpcに送られてきた書類に目を通す。
どんなに疲れていて倒れそうになっていても、仕事は手を抜かない。
歳のせいでバカにされるのが嫌で、昴は頑張ってきた。
その頑張りが徐々に認められ、役員達からも一目置かれるようになってきた。
「この書類ちょっとわかりずらいから、後で担当の人呼んでくれる?」
眼精疲労からの頭痛なのか、昴は右手の指でこめかみを押さえた。
「じゃあ今から声掛けに行ってきます」
「あ、ああ。頼んだ……」
「すぐに戻ります」
仕事中の晴人はいつも真剣な表情なのに、今は無意識に笑みが溢れる。
「時間は気にするな」
昴は晴人が手に紙袋を持ちながら部屋を出ていくのを見送った。
「……。はぁ~……」
両手を頭の後ろで組み合わせ、昴はそのまま椅子の背もたれにもたれかかる。
晴人は毎日午前中の仕事を終わらせると、小さめの紙袋を持ち急いであるところへ向かう。
「晴人はいいな。毎日会えて……」
昴がぼやいた。
晴人が毎日向かう先。
それは瑞稀のところ。
出社している日は毎日、晴人は瑞稀や千景たちが喜びそうなお菓子を届けに行っている。
「羨ましい……」
ポツリと呟く。
昴は晴人が瑞稀に贈り物を渡す様子なんて見たことはないのに、2人が見つめ合い笑顔で話す様子を勝手に想像してしまい羨んでしまう。
「俺も会いたいな……」
またポツリと呟いて、そんなことできないと1人で落ち込む。
自爆だ。
自分の中に生まれて初めて芽生えた『羨ましい』という気持ち。
人に羨ましがられることはあっても、羨むことのなかった昴は、この胸のもやもやした気持ちとどう付き合えばいいかわからなかった。
昴はデスクの引き出しを開ける。
そこには渡すことはないであろう、瑞稀と千景のために用意してしまった百貨店の期間限定の人気チョコレート菓子が入っている。
たまたま見つけた期間限定ショップ。
今流行りだとネットニュースやテレビでもしていた。
プレゼントできる日なんて来ないとわかっているのに、チョコレート菓子を渡した時、喜んでくれる瑞稀の顔が目に浮かび、つい買ってしまった。
俺が知る瑞稀くんの好物なんてチョコチップクッキーとカフェオレぐらい。
他にどんなものが好きで、何に興味があるかなんてわからないし……知るすべもない。
これから、瑞稀くんと話す機会なんてできるんだろうか?
昴だって瑞稀に会いたいし、一緒にコーヒーを飲みながらたわいもない話もしたい。
いつもの昴なら即座に行動に移していたのに、今回はしていない。
正確に言えば『行動に移せない』のだ。
恋敵が晴人でなければ……。
何回思っただろう。
相手が晴人でなければ何がなんでも、どんなことをしても瑞稀のそばにいられるようにしていた。
だが何度考えてもそれはできない。
瑞稀を失ってからの晴人を一番近くで見てきて一緒に過ごした昴だからこそ、瑞稀との関係を進めるための一歩が踏み出せない。
それでも咄嗟に昴が晴人に、自分が一目惚れしたのは瑞稀だと言うことを伝えたのは、自分の気持ちと晴人の気持ちにあらがうことだったかもしれない。
昴は椅子から立ち上がり、外の景色を見る。
愛する人がいなくなって、あんなに衰弱し切った晴人をもう見たくない。
運命的な再会を果たした晴人の運命の人は、やはり瑞稀だと思う。
だから晴人には幸せになってほしい……。
ーだったら俺は、自分の幸せのために何の努力もしてはいけないのか?ー
ー何も始まっていないのに諦めないといけないのか?ー
ー諦めたくない……。諦めたくないけど……ー
昴の行き場のない気持ちだけが、胸を締め付けていった。
「やっとか……」
「やっとです」
ここ最近の激務に、昴と晴人の疲労は限界。
もうフラフラだ。
だがそれでも昴はpcに送られてきた書類に目を通す。
どんなに疲れていて倒れそうになっていても、仕事は手を抜かない。
歳のせいでバカにされるのが嫌で、昴は頑張ってきた。
その頑張りが徐々に認められ、役員達からも一目置かれるようになってきた。
「この書類ちょっとわかりずらいから、後で担当の人呼んでくれる?」
眼精疲労からの頭痛なのか、昴は右手の指でこめかみを押さえた。
「じゃあ今から声掛けに行ってきます」
「あ、ああ。頼んだ……」
「すぐに戻ります」
仕事中の晴人はいつも真剣な表情なのに、今は無意識に笑みが溢れる。
「時間は気にするな」
昴は晴人が手に紙袋を持ちながら部屋を出ていくのを見送った。
「……。はぁ~……」
両手を頭の後ろで組み合わせ、昴はそのまま椅子の背もたれにもたれかかる。
晴人は毎日午前中の仕事を終わらせると、小さめの紙袋を持ち急いであるところへ向かう。
「晴人はいいな。毎日会えて……」
昴がぼやいた。
晴人が毎日向かう先。
それは瑞稀のところ。
出社している日は毎日、晴人は瑞稀や千景たちが喜びそうなお菓子を届けに行っている。
「羨ましい……」
ポツリと呟く。
昴は晴人が瑞稀に贈り物を渡す様子なんて見たことはないのに、2人が見つめ合い笑顔で話す様子を勝手に想像してしまい羨んでしまう。
「俺も会いたいな……」
またポツリと呟いて、そんなことできないと1人で落ち込む。
自爆だ。
自分の中に生まれて初めて芽生えた『羨ましい』という気持ち。
人に羨ましがられることはあっても、羨むことのなかった昴は、この胸のもやもやした気持ちとどう付き合えばいいかわからなかった。
昴はデスクの引き出しを開ける。
そこには渡すことはないであろう、瑞稀と千景のために用意してしまった百貨店の期間限定の人気チョコレート菓子が入っている。
たまたま見つけた期間限定ショップ。
今流行りだとネットニュースやテレビでもしていた。
プレゼントできる日なんて来ないとわかっているのに、チョコレート菓子を渡した時、喜んでくれる瑞稀の顔が目に浮かび、つい買ってしまった。
俺が知る瑞稀くんの好物なんてチョコチップクッキーとカフェオレぐらい。
他にどんなものが好きで、何に興味があるかなんてわからないし……知るすべもない。
これから、瑞稀くんと話す機会なんてできるんだろうか?
昴だって瑞稀に会いたいし、一緒にコーヒーを飲みながらたわいもない話もしたい。
いつもの昴なら即座に行動に移していたのに、今回はしていない。
正確に言えば『行動に移せない』のだ。
恋敵が晴人でなければ……。
何回思っただろう。
相手が晴人でなければ何がなんでも、どんなことをしても瑞稀のそばにいられるようにしていた。
だが何度考えてもそれはできない。
瑞稀を失ってからの晴人を一番近くで見てきて一緒に過ごした昴だからこそ、瑞稀との関係を進めるための一歩が踏み出せない。
それでも咄嗟に昴が晴人に、自分が一目惚れしたのは瑞稀だと言うことを伝えたのは、自分の気持ちと晴人の気持ちにあらがうことだったかもしれない。
昴は椅子から立ち上がり、外の景色を見る。
愛する人がいなくなって、あんなに衰弱し切った晴人をもう見たくない。
運命的な再会を果たした晴人の運命の人は、やはり瑞稀だと思う。
だから晴人には幸せになってほしい……。
ーだったら俺は、自分の幸せのために何の努力もしてはいけないのか?ー
ー何も始まっていないのに諦めないといけないのか?ー
ー諦めたくない……。諦めたくないけど……ー
昴の行き場のない気持ちだけが、胸を締め付けていった。
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