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瑞稀との再会 〜晴人視点〜
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瑞稀が働く大手企業本社ビルの副社長室。
今日は朝一から取引先の役員が、新しく就任した副社長に挨拶がてら訪れることになっており、副社長の昴とその秘書、山崎は副社長室で今日のスケジュール確認をしていた。
「……と、ここまでが、今日の予定なのですが……、副社長、聞かれてました?」
来客用のソファーに座り、昴は山崎の方をボーッと見ていて、視線が合わない。
「副社長、聞いてますか?」
山崎は昴の目の前に立ち、顔を覗き込むが、
「……」
昴からの返答はなし。
「副社長?」
さらにぐいっと近づくが、
「……」
無反応。
心ここに在らず…。
そんな感じた。
困ったな…。
今日は大切な顔合わせ。
このままの状態では会わせられない。
山崎は昴の両肩をぎゅっと掴むと、
「先輩!しっかりしてください!」
体を揺する。
昴は体はぐらんぐらん揺さぶられながら、宙を見つめながら、
「今日の空は美しいね……」
なんて全く関係なことを言い出している。
「先輩! しっかりしてください!」
今度は先ほどより大きく昴の体を揺らす。
「晴人……俺、好きな人ができた…」
「!?」
心ここに在らず……な表情をしながら昴が突然言った。
「晴人、一目惚れした」
「!?」
突拍子もない告白に驚き、冷静な山崎晴人も目を丸くする。
いつも仕事第一でプライベートなんてなんの興味もない昴が、朝からずっと上の空かと思えば、まさかの一目惚れ宣言。
人をなかなか信用しない昴から「好きな人ができた」や「一目惚れした」なんて聞かされる日が来るとは、晴人は思いもしていなかった。
「一目惚れ……ですか?」
信じられないと晴人が聞き返すと、
「一目惚れ。俺も信じられないけど、一目惚れなんだ。俺もちゃんと本気で人を好きになれるんだな……」
まるで人ごとみたいに答える。
昴は今まで、恋愛対象で人を好きになったことがなかった。
学歴も財力もあり、容姿にも恵まれていた昴の周りには、私利私欲で集まる人たちが多かったせいか、幼い頃から人をあまり信用せず、親しい人間、数人の言葉しか信用していなかった。
だから好きな人ができた昴自身も、それを聞かされた晴人も同じぐらい驚いた。
「副社長も人の子だったんですね。感情がないのかと思っていました」
言葉では皮肉たっぷりだが、昴が一目惚れしたという相手はどんな人かはさておき、好きな人ができたことは喜ばしいことだ。
「どこで知り合ったとか、聞きたくないか?」
もう聞いてほしくてたまらないと言うように、昴は前のめりになり、晴人に近づく。
「はい。聞きたいです」
少年みたいにはしゃぐ昴に、晴人は目を細めた。
「昨日、妊娠中の姉さんの代わりに雫の保育園にお迎え行った時に出会ったんだ」
「あー、私が代わりに行くと言ったのを無視して、雫くん会いたさに仕事の途中で抜けられてましたよね」
晴人が止めるのを無視して、可愛くてしかなたい甥っ子、雫のため、取引先との接待30分前に昴が仕事を抜け出し、保育園に迎えに行った時だ。
「迎えに行ったら、雫と同じクラスの男の子と、お母さんがいて」
説明をする昴は、その時を思い出しているような、きらきらした目で晴人に話す。
「その人、俺と目があった時『こんにちは』じゃなくて、『おかえりなさい』って言ったんだ」
昴はその時の幸せを噛み締める。
「はぁ……。それは珍しい挨拶ですね」
これは先輩に対して下心がないか、調べる必要がある。
昴の実家は大企業だ。
それだけで昔から色々な人が、集まってきていたが、それが最近副社長に就任してからは、あの手この手で昴に近づこうとしている。
まとめて昴や会社にとって害にならないかを調べるのも、昴の秘書である晴人の大事な仕事だ。
「でさ、俺もつられて『ただいま』って言ったら、その人、ニコって笑って『お疲れ様です』って言ってくれて……。もうここで、恋にお落ちた……」
うっとりと昴は話すが……。
これは下心がある、ダメなやつだ。
晴人の頭の中で決定される。
「でさ、雪が止まないから、車で家の近くまで送ったんだ」
「え? そんな怪しい人を、乗せたんですか?それにその人には、雫くんのクラスメイトの保護者さんですよね。パートナーがいる可能性、高いですよね。変に誤解されたら、どうするんですか!?」
あまりの警戒のなさに、ため息が出る。
「成瀬さんは怪しくないし、恋人はいるかわからないがパートナーはいないと聞いている。それで千景くん…あ、残ってくれてた子の名前な。その千景くんとその千景くんと雫は仲がいいみたいで、いつも一緒にいて………」
楽しそうに昴は話しているが晴人の頭の中に、
ある単語が反復され、それ以外何も考えられない。
「……。晴人、大丈夫か?」
眉間に深くシワを寄せ、一点を見つめ続けている晴人の顔を、昴はちらりと見た。
「その人……成瀬さんって言うんですよね…」
「ああ。成瀬さん」
晴人の息が詰まる。
成瀬……。
瑞稀の苗字だ。
先輩が言う人は……瑞稀……なのか?
……。
いや『成瀬』なんて苗字。世の中には何人もいる。
でも……、もしかして……。
もしかすると……。
心拍が上がる。
「下の名前、なんて言うんですか……?」
期待で胸が苦しいほど、締め付けられる。
だが同時に、『もし違ったら……』と不安でも胸が苦しい。
うまく息が吸えず、全速力で走った後のようだ。
「下の名前は……」
下の名前は!?
「まだ知らない……」
昴の答えに、落胆する。
ただの成瀬なのか、そうじゃない成瀬なのか?
瑞稀か、瑞稀じゃないのかさえわからない。
じゃあ……。
「容姿は!? 容姿はどうですか!?」
晴人は昴の両肩を掴む。
「どうしたんだよ……」
昴は困惑する。
「どうなんですか!? 容姿は……容姿はどうなんですか!?」
瑞稀なら、白い肌に銀髪に青い瞳!!
「容姿は……」
そう晴人が問い詰めている時に、副社長室のドアを瑞稀が叩いたのだった。
今日は朝一から取引先の役員が、新しく就任した副社長に挨拶がてら訪れることになっており、副社長の昴とその秘書、山崎は副社長室で今日のスケジュール確認をしていた。
「……と、ここまでが、今日の予定なのですが……、副社長、聞かれてました?」
来客用のソファーに座り、昴は山崎の方をボーッと見ていて、視線が合わない。
「副社長、聞いてますか?」
山崎は昴の目の前に立ち、顔を覗き込むが、
「……」
昴からの返答はなし。
「副社長?」
さらにぐいっと近づくが、
「……」
無反応。
心ここに在らず…。
そんな感じた。
困ったな…。
今日は大切な顔合わせ。
このままの状態では会わせられない。
山崎は昴の両肩をぎゅっと掴むと、
「先輩!しっかりしてください!」
体を揺する。
昴は体はぐらんぐらん揺さぶられながら、宙を見つめながら、
「今日の空は美しいね……」
なんて全く関係なことを言い出している。
「先輩! しっかりしてください!」
今度は先ほどより大きく昴の体を揺らす。
「晴人……俺、好きな人ができた…」
「!?」
心ここに在らず……な表情をしながら昴が突然言った。
「晴人、一目惚れした」
「!?」
突拍子もない告白に驚き、冷静な山崎晴人も目を丸くする。
いつも仕事第一でプライベートなんてなんの興味もない昴が、朝からずっと上の空かと思えば、まさかの一目惚れ宣言。
人をなかなか信用しない昴から「好きな人ができた」や「一目惚れした」なんて聞かされる日が来るとは、晴人は思いもしていなかった。
「一目惚れ……ですか?」
信じられないと晴人が聞き返すと、
「一目惚れ。俺も信じられないけど、一目惚れなんだ。俺もちゃんと本気で人を好きになれるんだな……」
まるで人ごとみたいに答える。
昴は今まで、恋愛対象で人を好きになったことがなかった。
学歴も財力もあり、容姿にも恵まれていた昴の周りには、私利私欲で集まる人たちが多かったせいか、幼い頃から人をあまり信用せず、親しい人間、数人の言葉しか信用していなかった。
だから好きな人ができた昴自身も、それを聞かされた晴人も同じぐらい驚いた。
「副社長も人の子だったんですね。感情がないのかと思っていました」
言葉では皮肉たっぷりだが、昴が一目惚れしたという相手はどんな人かはさておき、好きな人ができたことは喜ばしいことだ。
「どこで知り合ったとか、聞きたくないか?」
もう聞いてほしくてたまらないと言うように、昴は前のめりになり、晴人に近づく。
「はい。聞きたいです」
少年みたいにはしゃぐ昴に、晴人は目を細めた。
「昨日、妊娠中の姉さんの代わりに雫の保育園にお迎え行った時に出会ったんだ」
「あー、私が代わりに行くと言ったのを無視して、雫くん会いたさに仕事の途中で抜けられてましたよね」
晴人が止めるのを無視して、可愛くてしかなたい甥っ子、雫のため、取引先との接待30分前に昴が仕事を抜け出し、保育園に迎えに行った時だ。
「迎えに行ったら、雫と同じクラスの男の子と、お母さんがいて」
説明をする昴は、その時を思い出しているような、きらきらした目で晴人に話す。
「その人、俺と目があった時『こんにちは』じゃなくて、『おかえりなさい』って言ったんだ」
昴はその時の幸せを噛み締める。
「はぁ……。それは珍しい挨拶ですね」
これは先輩に対して下心がないか、調べる必要がある。
昴の実家は大企業だ。
それだけで昔から色々な人が、集まってきていたが、それが最近副社長に就任してからは、あの手この手で昴に近づこうとしている。
まとめて昴や会社にとって害にならないかを調べるのも、昴の秘書である晴人の大事な仕事だ。
「でさ、俺もつられて『ただいま』って言ったら、その人、ニコって笑って『お疲れ様です』って言ってくれて……。もうここで、恋にお落ちた……」
うっとりと昴は話すが……。
これは下心がある、ダメなやつだ。
晴人の頭の中で決定される。
「でさ、雪が止まないから、車で家の近くまで送ったんだ」
「え? そんな怪しい人を、乗せたんですか?それにその人には、雫くんのクラスメイトの保護者さんですよね。パートナーがいる可能性、高いですよね。変に誤解されたら、どうするんですか!?」
あまりの警戒のなさに、ため息が出る。
「成瀬さんは怪しくないし、恋人はいるかわからないがパートナーはいないと聞いている。それで千景くん…あ、残ってくれてた子の名前な。その千景くんとその千景くんと雫は仲がいいみたいで、いつも一緒にいて………」
楽しそうに昴は話しているが晴人の頭の中に、
ある単語が反復され、それ以外何も考えられない。
「……。晴人、大丈夫か?」
眉間に深くシワを寄せ、一点を見つめ続けている晴人の顔を、昴はちらりと見た。
「その人……成瀬さんって言うんですよね…」
「ああ。成瀬さん」
晴人の息が詰まる。
成瀬……。
瑞稀の苗字だ。
先輩が言う人は……瑞稀……なのか?
……。
いや『成瀬』なんて苗字。世の中には何人もいる。
でも……、もしかして……。
もしかすると……。
心拍が上がる。
「下の名前、なんて言うんですか……?」
期待で胸が苦しいほど、締め付けられる。
だが同時に、『もし違ったら……』と不安でも胸が苦しい。
うまく息が吸えず、全速力で走った後のようだ。
「下の名前は……」
下の名前は!?
「まだ知らない……」
昴の答えに、落胆する。
ただの成瀬なのか、そうじゃない成瀬なのか?
瑞稀か、瑞稀じゃないのかさえわからない。
じゃあ……。
「容姿は!? 容姿はどうですか!?」
晴人は昴の両肩を掴む。
「どうしたんだよ……」
昴は困惑する。
「どうなんですか!? 容姿は……容姿はどうなんですか!?」
瑞稀なら、白い肌に銀髪に青い瞳!!
「容姿は……」
そう晴人が問い詰めている時に、副社長室のドアを瑞稀が叩いたのだった。
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