94 / 202
思い出のクッキー ⑤
しおりを挟む
瑞稀、幸恵、和子がいつも弁当を持って、昼休憩に向かうのは、食堂から少し離れた休憩室。
オフホワイトを基調とした部屋で日当たりがよく、大きな窓からは外の景色がよく見え、窓に向かいカウンターには一人でゆっくりできる場所と、対面で座れるようになっているソファー。
中央には大きな観葉植物があり、周りを囲むように丸い机に椅子がぐるりと置いてあり、一度にたくさんの人が座れそうだ。
その周りには何台かある円形の木製の机には、同じような木製の椅子が四脚セットとなっていて、数台の自動販売機が設置してあった。
三人は自然と定位置となった、窓辺に近い円形の四人がけの席につき、弁当を開く。
幸恵と和子は和食がメイン。瑞稀の朝は千景の保育園の用意などで忙しく、ゆっくりと自分の弁当が作れず、弁当用にと前日の晩御飯を少しとって置いたものを入れることが多かった。
千景のこととなると、時間を惜しんで全力でするが、瑞稀は自分のことはいつも一番後回しになってしまう。
昼食を終えた三人は、休憩室にあるコップ付きの自動販売機で、幸恵はブラックコーヒー、和子は砂糖なしミルクありのコーヒー、瑞稀は甘いカフェオレを買うと、晴人からもらったクッキーを開ける。
どこのスーパーにでもある、二枚一つ入りの個包装チョコチップクッキー。
だけど瑞稀と晴人には、たくさんの思い出がある。
カフェオレを一口飲み、クッキーをパクリと食べると、カフェオレの香りとクッキーの甘みが混ざり、味覚と嗅覚から幸せだった頃が、つい昨日のことのように思い出された。
また一口食べると、思い出がより鮮明になり、もう一口食べた時には、涙が一粒頬を伝っていた。
「瑞稀くん、大丈夫?無理して食べることないんだよ」
もう一粒もう一粒と瑞稀の頬を涙が伝い、和子が瑞稀の背中を優しくさする。
「心配をおかけしてすみません……。僕は大丈夫です」
「泣いているじゃないか……。大丈夫なわけないよ。私たちにはなんでも話して」
瑞稀の手に、幸恵はそっと手を添えた。
「実はこのクッキーを見ると、山崎さんのことを思い出してしまって、今日まで食べられなかったんです。それで今日、食べてみたらやっぱり思い出してしまって…。でも食べてよかったです。これで少しずつ山崎さんとの思い出が過去のことになっていくような気がします」
クッキーとカフェオレの味は、晴人との思い出の味。
でもクッキーを食べると、その味を思い出と認識できそうで、クッキーとカフェオレ味も過去のこととして消化できるかもしれないと思った。
もうこのクッキーを食べても、僕は大丈夫。
そう思ったのに、
どうしてだろう?
こんなに胸が痛くて、暖かくなるのは…。
今まで感じたことのない感情に驚き、目をぎゅっと閉じた。
オフホワイトを基調とした部屋で日当たりがよく、大きな窓からは外の景色がよく見え、窓に向かいカウンターには一人でゆっくりできる場所と、対面で座れるようになっているソファー。
中央には大きな観葉植物があり、周りを囲むように丸い机に椅子がぐるりと置いてあり、一度にたくさんの人が座れそうだ。
その周りには何台かある円形の木製の机には、同じような木製の椅子が四脚セットとなっていて、数台の自動販売機が設置してあった。
三人は自然と定位置となった、窓辺に近い円形の四人がけの席につき、弁当を開く。
幸恵と和子は和食がメイン。瑞稀の朝は千景の保育園の用意などで忙しく、ゆっくりと自分の弁当が作れず、弁当用にと前日の晩御飯を少しとって置いたものを入れることが多かった。
千景のこととなると、時間を惜しんで全力でするが、瑞稀は自分のことはいつも一番後回しになってしまう。
昼食を終えた三人は、休憩室にあるコップ付きの自動販売機で、幸恵はブラックコーヒー、和子は砂糖なしミルクありのコーヒー、瑞稀は甘いカフェオレを買うと、晴人からもらったクッキーを開ける。
どこのスーパーにでもある、二枚一つ入りの個包装チョコチップクッキー。
だけど瑞稀と晴人には、たくさんの思い出がある。
カフェオレを一口飲み、クッキーをパクリと食べると、カフェオレの香りとクッキーの甘みが混ざり、味覚と嗅覚から幸せだった頃が、つい昨日のことのように思い出された。
また一口食べると、思い出がより鮮明になり、もう一口食べた時には、涙が一粒頬を伝っていた。
「瑞稀くん、大丈夫?無理して食べることないんだよ」
もう一粒もう一粒と瑞稀の頬を涙が伝い、和子が瑞稀の背中を優しくさする。
「心配をおかけしてすみません……。僕は大丈夫です」
「泣いているじゃないか……。大丈夫なわけないよ。私たちにはなんでも話して」
瑞稀の手に、幸恵はそっと手を添えた。
「実はこのクッキーを見ると、山崎さんのことを思い出してしまって、今日まで食べられなかったんです。それで今日、食べてみたらやっぱり思い出してしまって…。でも食べてよかったです。これで少しずつ山崎さんとの思い出が過去のことになっていくような気がします」
クッキーとカフェオレの味は、晴人との思い出の味。
でもクッキーを食べると、その味を思い出と認識できそうで、クッキーとカフェオレ味も過去のこととして消化できるかもしれないと思った。
もうこのクッキーを食べても、僕は大丈夫。
そう思ったのに、
どうしてだろう?
こんなに胸が痛くて、暖かくなるのは…。
今まで感じたことのない感情に驚き、目をぎゅっと閉じた。
29
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる